SUPER GT

第6戦SUGO決勝 あの時何が起きていたのか GTAが当時の検証映像を報道陣に公開

 9月17日にスポーツランドSUGOで開催されたスーパーGT第6戦決勝。その38周目において、100号車STANLEY NSX-GTと56号車リアライズ 日産メカニックチャレンジGT-Rが接触、これにより100号車が大破するアクシデントが発生した。

 これにより100号車をドライブしていた山本尚貴はドクターヘリで病院へ搬送される事態となり、現在も療養中で第7戦と第8戦、そしてスーパーフォーミュラ第8戦、第9戦を欠場せざるを得ない状況となった。

 一方、56号車については危険なドライブ行為があったとして、競技団はレース再開後にドライビングスルーペナルティを課している。

 またこのアクシデントの瞬間の動画がX(旧twitter)やYoutubeを通じて拡散され、56号車に本当に過失があったのか、100号車の追い抜きに無理があったのではないかとの意見や、今シーズンのGT500のスピードは危険であるなどの意見が飛び交う状況となっている。

 こうした事態を重くみたGTアソシエイション(GTA)は去る10月14日、第7戦が開催されていたオートポリスにおいて、報道陣に当日の監視カメラ映像やオンボード映像をを公開、それをもとにレースディレクターの服部尚貴氏が事故に至った経緯と原因、今後の対策について詳細に解説しながら質疑に応じた。 

「過失割合は9対1」

 会見の冒頭、レースディレクターの服部尚貴氏は今回の事故について「自分の見解は9−1です」と語った。

 交通事故などで言われる過失割合の話である。「9」は56号車の方だ。しかし100号車の「1」はあくまで「停止していたわけではなく、動いていたのだから過失ゼロというわけにはいかない」という意味である。

 これはSNSなどで拡散されている動画から多くの人がイメージするのとは乖離しているように思われるだろう。

 しかしあの瞬間に至る前、SPアウトから最終コーナーを抜けてホームストレートに差し掛かるまでがどのような状況であったかを詳細に検証していくと、あの動画から受ける印象とは全く異なる状況であったことがわかってきた。

 この会見ではコース内に設置されている監視カメラの映像を用いて服部氏が順を追って解説していく。

 まずあの場には100号車の山本と56号車の名取のほかに14号車ENEOS X PRIME GR Supra(山下健太)、10号車PONOS GAINER GT-R(大草りき)がいた。

 ピットレーン入り口にさしかかった時点では10号車がアウト側、56号車はイン側に位置しており、2台は並走状態になっていた。それを14号車、100号車の順でインから抜いて行こうとして事故は起きた訳だが、ここで問題となるのは両者の速度差だ。

 10号車はレーシングスピードでストレートを駆け抜けていったのに対し、56号車はピット入り口のホワイトラインを踏み越えないために、ダンロップブリッジの手前でブレーキランプを点灯させている。

 この減速によって後ろから追いついてきた14号車と100号車は追突を避けるために回避行動を取らざるを得なくなった。しかしアウト側にはまだ10号車がおり、イン側しか選択肢はなかった。14号車はギリギリですり抜けたものの、56号車がここで改めてピットインを試みようとステアリングを右に切ったために100号車と接触したのである。

 ここで「しかし56号車はウィンカーを出していたのではないか」という意見もある。実際に「出ていた」と主張する観客や視聴者もいるようだが、レースコントロールで監視カメラ映像や当事者のオンボード映像を見ていくと、ウィンカーは出ていないことは明らかだったという。

山本には56号車のピットインを予測する術はなかった

 ここから100号車のオンボード映像を用いて解説が行われた。

 前方には2台のGT300車両がおり、前にいた56号車がウィンカーを出さずに右にラインを変えてくる。ストレート上で後続車をブロックする場合にもこうしたライン取りをすることはよくあるという。

 その後、14号車がインから56号車を抜いていくと、目の前にブレーキランプを点灯した56号車が出現する。それによって一気に車間が詰まったため、追突を避けようと山本は瞬時にステアリングを右に切った。アウト側にはまだ10号車がおり、そちらにスペースがなかったからだ。実際に服部氏は山本にも話を聞いており「まさかピットに入ってくるとは思わなかった。回避しようとしたが遅かった」と語ったのこと。

 つまり14号車の山下と100号車の山本は追い越しを意図したのではなく、咄嗟の回避行動としてああしたライン取りをしたのである。

 ピットに入るのであれば14号車が抜いていったタイミングでギリギりであり、あそこで入れなかったのであれば、そのまま直進して1周後にピットインするのがセオリーだという。山本もそう考えていたようだ。

 「減速して10号車の後ろにつくという選択肢はなかったのか」という質問がここで出たが、「公式練習ならあり得るが、レース中にそれをすると大幅なタイムロスとなるため、普通は考えない。瞬時にそう判断するというのはレーシングドライバーの心理としてあり得ない」という。

 「56号車のドライバーからは14号車の後ろに100号車がいることがわからなかったのでは」という質問も出たが、「最終コーナーでミラーに映っていなかったとしても、SPコーナーの時点で確認することは可能だ」とのこと。実際に56号車がSPコーナーに差し掛かった時点で無線でピットインの指示が出ていたことをチームに確認しているとのこと。

 本来であればそこで後続車の状況を確認した上で、インベタのラインで最終コーナーに入り、二輪シケインの先あたりからウィンカーを出すべきで、そうしていれば事故は起こらなかったのだ。

事故の再発防止策とコーナリングスピードの抑制。 現在進行中の協議と今後の予定

 またこのクラッシュによって外れた100号車タイヤがデブリフェンスを飛び越えてコース下の通路に落下している映像も公開された。ツーリングカーのレースでこうした状況は通常起こり得ないため、現状はこうしたことへの対策は行われていないが、実際に起きてしまった以上、クルマの側でもなんらかの対策をする必要があるとGTAは認識しており、「物理的に今すぐとはいかないものの、できるだけ早い時期に対策を講じるべく、GTAのテクニカル部会と話し合いを始めている」と服部氏は語った。

 またこの会見に同席していたGTA代表取締役の坂東正明氏からは「イン側の芝生をアスファルト舗装にして、最終コーナー出口まで白線を延長すればこうした事故は防げる。そうした対策を来年までにできないだろうかとSUGOに提案し、お願いしている」との発言もあった。クルマ、サーキット両面での対策を講じるための話し合いはすでに始まっているのだ。

 続いてGTAのレース事業部長である沢目拓氏が壇上に上がり、スピード抑制については事業部でも認識しており、特にコーナリングスピードの抑制について、安全性を最優先としてレギュレーションの改訂を行うべく、スポーツ部会とテクニカル部会で協議を進めていることを明らかにした。

 併せて、タイヤワーキング部会を新たに発足させ、タイヤ性能の面からもコーナリングスピードを抑制するべく、タイヤメーカーを含めた話し合いも進めていくとしている。

 テクニカル部会では中長期的な視点から、これから何ができるかをリストアップし、コストや納期面で実現可能なもの、効果的なものを選びながら安全対策を進めていこうと考えているとのこと。

 これに対しスポーティング部会では短期的に実現可能なものに取り組み、早ければ来年のスポーティングレギュレーションに安全性に焦点を当てた規則を盛り込むべく、議論を進めているとのこと。

 ここで服部氏より「スピードの抑制と一口に言われるが、今回の事故はスピード差に起因したものであり、同じ状況になればスーパー耐久のST4クラスとST5クラスの間でも起こりうること。それを踏まえた上で、スピードのコントロールにも取り組んでいきたい」との発言も出ている。

 テクニカルレギュレーションの改訂についてはGT500の車両更新時期を目処とせざるを得ないが、それまでにも実現可能な対策は盛り込んでいく予定であるとしている。

 なお、GTAとしてはこうした情報公開の機会を、今後も要望に応じて設けていくとしている。

Text: Kazuhisa SUEHIRO
Photo: Katsuhiko KOBAYASHI

 



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