ANABUKIレーシング・チーム 1995年 全日本F3選手権シリーズ第4戦 レースレポート <決勝レース> 松本監督言うところの”集中力”については、本山選手自身うなずけるところなのですが、そういった感覚的・精神的な部分というのは、案外、本人にはわかり辛いものです。「自分ではいつも同じように走っているつもりなんだけどなあ」と、苦笑いしつつ、どうすればもっと走りやすいマシンになるのか、本山選手は考え続けていました。 そして翌日。 いよいよ決勝レースのスタート直前になって、本山選手はチーム首脳に、「リアウイングの角度を変えて欲しい」と主張しました。 昨日の予選終了後、他のドライバーから話を聞いたり、他のマシンを観察して情報収集をした結果、リアウイングの角度をもう少し寝かせたほうが、マシンが速くなるのではないか、という結論に達したのです。 ぜひにという願いに、まあドライバー本人がそこまでいうのだからと、チームは本山選手の意見を取り入れ、スターティング・グリッドへ送りだしました。 フォーメーション・ラップを終えてマシンをグリッドにつけて、前方のシグナルが灯るの待ちます。 何といってもレースはスタートが肝心。スタートでポジションを上げることができれば予選結果をいっきに挽回できるのです。 本山選手の頭の中で「俺は前へ出る出る出る出る..」というエンドレス・テープが、物凄い速さで鳴っています。 と、すぐ前のポールシッター、ロサ選手が一瞬、右手を上げかけました。 「あ、あいつストールしたな」と本山選手が思ったその瞬間、シグナルは赤から青へ早変わり。 神経シナプスが眼から手足へ直結したような素早い動作で、弾丸のように飛びだした本山選手は、ロサ選手と加藤選手の間を割っていきなりトップへ躍り出ました。 しかし、ライバルのロサ選手もなかなかのもので、インフィールド区間に入る頃には、スタートの遅れを取り戻し、本山選手のテールをつっついてくるではありませんか。 少しブレたマシンの姿勢を立て直しながら、本山選手は自分の中で筑波戦の記憶が鮮やかに蘇るのがわかります。 「絶対に負けるもんか!」 最終コーナーからメイン・ストレートへ。グングン加速しながら、本山選手は正面の1コーナーだけを見つめていました。 途中チラとピットに目をやった時、松本監督の顔が「よっしゃ、行けー!」と言っているように見えました。 みるみる近づいてきた1コーナー手前でブレーキをかけて、コーナーへ飛び込んだ本山選手でしたが、マシンはいつもの走行ラインをかなりはずして大回り。 危うくコースアウトしそうになったギリギリのところで、マシンを押さえ込めましたが、その間にロサ選手と加藤選手に先を越されてしまいました。 明らかなブレーキング・ミスでした。 負けたくない気持ちと、1周目に先頭に立ったことが、本山選手からいつもの冷静さを奪ったのです。 致命的なミスの動揺から気を取り直した本山選手は、辛うじて3番手をキープし、すぐ前を行く加藤選手を追いかけますが、どうにもインフィールド区間の左コーナーでの立ち上がりが遅く、加藤選手にじりじりと引き離されてしまいます。 やはり、スタート直前のリアウイングの角度を変更がアダとなり、マシンのバランスが狂ってしまい、ひどいオーバーステアになったうえ、ブレーキングのタッチが不安定になったのです。 うしろの道上選手のノーズが何度か本山選手のテールにぶつかりましたが、それも仕方のないこと。それほど、前を走る本山選手のコーナリングは遅いうえにグラグラしていたのです。 レース半ばを過ぎてガソリンが軽くなってきた頃から、マシンの挙動に慣れてきたのですが、時すでに遅し。 終盤に入りタイヤの消耗も激しくなってからは、自分がミスをしなければ抜かれることもない代わりに、相手を抜くこともできなくなっていました。 結局、レースはそのままの順位でチェッカー。 ライバルのロサ選手は2位の加藤選手に9秒近い大差をつけて二勝目をマーク。 3位表彰台に上がった本山選手に笑顔があろうはずもありません。 このレースの悔しさは、いくら立ち直りの早さで有名な本山選手といえども、ちょっと忘れられないものとなりました。 スタート直前にリアウイングの角度を変更したのも、チームの教育方針です。 松本監督はトップドライバーの経験から、こうして身をもって体得してゆく以外に方法が無いことを、よく理解しているから出来ることなのです。 本山選手がこれにこたえ、目ざましい成長をしてくれることを期待しましょう。 ◇本山 哲選手のコメント◇ スタートは自分でもおおっと思うほどバツグンに良くてトップに立てたんです。 その時は予定通りにいけるかな、と思ったんですが... 2周目の1コーナーは、完全に自分のミスです。 情けなさに言葉もありません。 ◇松本恵二監督のコメント◇ マシンに関するいろんな情報を集めたりして、ドライバーも勝つための努力もしているんだが、いまひとつかみ合わないままに終わった。 1ラップ目のミスは、明らかに本山の心の焦りからきたもの。 前回のレースでロサ選手を追い上げた時に見せた集中力が、今回は発揮できなかったようだ。 そういったものは、頭で理解するものではなく、身体で体得するもの。 それにはやはり、経験を積むしかないだろう。 今回の悔しさは、次のレースで晴らしたい! 次戦は二週間後。 第5戦は5月21日、鈴鹿サーキットで開催されます。