全日本F3000

F3000:レ-スレポ-ト Rd.2/フジ

   ■F3000 Race Report
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   CABIN
   International Formula Cup
                                1993/4/11
   FUJI
                1993 ALL JAPAN F3000 CHAMPIONSHIP ROUND 2
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   □復活の序曲
   Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
    「イライラしていますね」と彼は、スタート前の気持ちをこう表現した。
    昨年、サーキットで見かける彼は、今、彼が口にした言葉の通りだった。
   決まらないマシンと、出ない結果の中で、最も苦しく、最も辛かった時期だ
   ったに違いない。
    そして、今年に入って、彼は「チャンピオンを狙う」と事あるごとに、そ
   う言ってきた。常に顔は厳しく、怒りにも似た闘志が伝わってきた。しか
   し、その厳しい表情には、昨年のそれとは明らかに違う何かが見えた。
    チームは完全な体制を取り戻し、彼はドライバーとしての仕事をすれば良
   いという状態になっていた。それ故、失敗は許されない。そんな思いが、彼
   の言葉には込められる様になってきた。
    実に20カ月ぶりに、トップでチェッカーをくぐった彼の最初の言葉は「
   もう少し速く走れる様にしなくっちゃいけない」という戒めの言葉だった。
    まるで、全てが揃って、全てが完全になったとき、試されるのが自分であ
   ると、言っている様にも聞こえた。その試練を感じ取っている彼は、やはり
   今年、やる気なのだ。
    そして、彼は「ほっとしているところです」と今の気持ちを言い残してコ
   ースを離れる。もしかしたら、これが本音なのかも知れない。
    彼は、今、この混沌としたシリーズのポイントリーダーになった。
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   ◇決勝レポート:「星野!待望の優勝をもぎ取る」
    春、という言葉はまだ程遠く感じられるほど、風は冷たく気温は低かっ
   た。フリー走行を行った午前中は、富士の山が雪で真っ白に覆われる姿が見
   えるほど、空は澄みきっていた。ところが、決勝スタート時間が徐々に近づ
   くに従い、気温は下がり、風は冷たく、空は機嫌を損ねたようにあやしくな
   っていった。
    午後1時になると、スケジュールより5分遅れで、決勝出場の各車がグリ
   ッド上に整列を始める。
    そのグリッドのトップにいるのは、昨日の混乱の予選で、うまくタイムを
   残した黒澤だった。「いつもタイムは出すんだけど、今回は下がらなかった
   だけ」とコースレコードのポールポジションにも、慎重なコメントを残し、
   落ちついたところを見せている。
    続いて予選2番手には「予選はたまたま上手く行っただけ、本当はマシン
   の不安が多い」と語っていた鈴木がつけた。その後ろ3番手には、チャンピ
   オンを狙うと公言している星野が続いた。
    昨日の予選で絡んでしまい混乱の原因を作った、マルティニとチーバーは
   それぞれ6番手と12番手と大きく出遅れている。
    スタート時間が刻々と近づき、選手紹介が開始されようとしているころ、
   星野のマシンに異変が起こったのか、彼のチームのスタッフが慌ててマシン
   の回りに取りつく。他のチームは既にセットが完了して、ドライバーはコッ
   クピットに座りメカニックや監督と最後の打合せに余念が無い。リアカウル
   を開けてメカニックがエンジンの下を覗き込んでいる。どうやら、コンピュ
   ータを引き出して交換しようとしているらしく、複雑に入り組んだ配線をた
   ぐり寄せている。しかし、この作業もフォーメーションラップ開始直前に無
   事完了した。
    そして、レースはスタートした。スタートと同時に1コーナーで白煙が上
   がったが、大きな問題はなかった。白煙を上げたのは、このスタートを大成
   功させたアーバインだった。
    ポールポジションスタートの黒澤は僅かにスタートに出遅れた。それに比
   べ素早いスタートを行ったのは、鈴木だった。鈴木は黒澤の動きを察知した
   のか、大きくインサイドに車を振って、黒澤のイン側に入ろうとした。とこ
   ろがそこには、好スタートを果たした星野がいた。イン側の攻防はこの2人
   と、それを牽制しようとする黒澤の戦いとなった。
    ところが、黒澤がイン側に気を取られている隙にアウトから大きくリード
   してきたアーバインが、1コーナーのブレーキングをギリギリまで我慢し
   て、イン側の3台の鼻先を押さえ込んでしまう。そして、このスタート争い
   は、アーバイン、黒澤、星野、鈴木の順で決着する。
    しかし、これで全てが決着した訳ではなかった。スタートでアーバインに
   まんまと先を越されてしまった、黒澤はアーバインをピッタリマークしたま
   ま、オープニングラップを終える。そして、そのままの状態で、最終コーナ
   ーを立ち上がるとアーバインの真後ろで機会を伺う。そして、一気にインに
   ラインを外し並走、先行する。アーバインは、1コーナーを狙って、再びラ
   インを探す。黒澤はそうはさせまいと、コーナー進入直前まで、右に左に動
   いてアーバインを牽制し、見事に押さえ切った。
    スタートに失敗したものの、星野、鈴木をうまく牽制することに成功し、
   先行されたアーバインも2周目には料理した黒澤は、レースをリードすべく
   一気にペースアップ、アーバイン以下を大きく引き離しにかかる。
    一方、黒澤に先行を許したアーバインは、この後、ズルスルとその順位を
   落としていく。まず、星野が3周目に1コーナー進入でイン側からオーバー
   テイク。続いて、4周目に鈴木が同じく1コーナーでパス。スタートの一発
   を決めたアーバインではあったが、これで、黒澤、星野、鈴木に続く4位に
   その順位を下げて仕舞う。
    後方でこのスタートに成功したのは、スタート前ピリピリして機嫌の悪か
   った、ダニエルソンだろう。予選順位が、11位の彼は、この時点で既に5
   位を走行している。
    スタートの順位変動の落ちついたコースのホームストレートを、激しく火
   花を散らして、グングンと2位以下との差を広げて、黒澤が行く。
    一方、鈴鹿の覇者チーバーが早くも5位にまで、その順位を上げてくる。
   チーバーは、昨日の予選には失敗したものの、朝のフリー走行でトップタイ
   ムを叩きだして、表情が非常に明るかっただけに、以降の動向が注目され
   る。
    黒澤が引っ張るレースは、タイヤの消耗を気にする多くのチームの思いと
   は裏腹に、益々ハイペース化していく。もちろん、2番手につける星野も、
   置いて行かれる訳にはいかず、6周目に1分17秒882と、とてつもなく
   速いタイムを叩きだし、黒澤に必死に食い下がる。その星野のペースをチェ
   ックするかの様に、黒澤も17秒台を叩きだし、前の2台のみ17秒台に突
   入するという激しい戦いとなった。
    そして、10周目には、各チームをトラブルが襲い始める。まず、カーカ
   ッシがピットへ滑り込んで来る。そして、そのままガレージに入って仕舞
   う。続いて、ニューローラの熟成に苦しんでいた、フィレンツェンがBコー
   ナーでコースアウト、マシンを降りてしまう。同じ、ニューローラに乗る昨
   年のチャンピオン、マルティニのコーナーの通過状態を見ても、この車のた
   だならぬ、不調が浮き彫りにされている様だ。それぞれのドライバーは、自
   分の置かれた立場で精一杯の挑戦を続けていた。
    チーバーも今回は、実は苦しい状態だったのかも知れない。スタートに成
   功し好調のダニエルソンに、10周目ホームストレートかわされ、14周目
   には、アピチェラにかわされ、ズルズル順位を落としていく。その上15周
   目には、マルティニにも攻めたてられる。「今回は、駄目だよ」とスタート
   前に明るく語っていた彼だったが、いったいこの後退の原因は何なのだろう
   か。
    これで、順位は、黒澤を先頭に、その黒澤を1分17秒571という速い
   タイムで追いかける星野に鈴木、アーバイン、ダニエルソン、アピチェラ、
   チーバーが続く恰好となった。
    前回の鈴鹿では、予選下位から猛追を見せた関谷が、17周目に9位に上
   がってきた。今回、その関谷の役割は、ダニエルソンが果していた、着実に
   順位を上げていた彼は、ついに、この周アーバインをパス、4位にその順位
   を上げる。
    順位の変動の比較的激しいレースではあったが、先頭には変動がなかっ
   た。黒澤は、常に星野のペースをチェックしていたし、着実に周回を繰り返
   していた。
    ところが、その黒澤の全ては18周目に奪われることとなった。ヘアピン
   をクリアした直後、黒澤のキャビンレッドのマシンは、リアからドカンと何
   かが破裂したように、突然多量の白煙を巻き上げて、スローダウンしてしま
   ったのである。
    この隙に星野がトップに立つ。それ続いて、各車はもうもうと煙を漂わせ
   て、ピットへ急ぐ黒澤を横目にホームストレートを目指す。
    ピットにたどり着くと、ピットクルーがマシンをガレージに引き戻す。黒
   澤はコッピットで、そのまま頭を抱え込む。この瞬間、彼が全てをリードし
   てきた、この富士は終わった。これで、順位は、星野、鈴木、そして大きく
   開いて、ダニエルソン、アーバイン、アピチェラ、チーバー、マルティニ、
   関谷の順となった。
    黒澤のリタイアで、8位にその順位を上げていた関谷は、22周目の1コ
   ーナーで、前を行くマルティニをオーバーテイク、その順位を7位とした。
   そして、次はチーバーとの差をグングンと詰めてくる。また、26周目、ア
   ーバインの隙を伺っていたアピチェラがオーバーテイクに成功し順位を上げ
   てくる。
    一方、黒澤との駆け引きに勝った星野の相手は、後ろに迫る鈴木だった。
   優勝の可能性の出てきた、鈴木はペースアップを図り、星野より常に速いタ
   イムを刻んでいく。29周目には1秒を切るまでに迫る。そして、ついに
   31周目に1コーナーで真後ろにつく。その状態のまま、一周して最終コー
   ナーに現れた2台は、グランドスタンドを埋めたファンの期待を一身に浴び
   て1コーナーへ向かう。鈴木は星野のアウト側にラインを取って、パスにか
   かるが、1コーナー進入で周回遅れに突っかかってしまう。
    そして、全てが終わる。ここで、一旦引いた、鈴木が再び星野を脅かすこ
   とは無かった。何故なら、鈴木は直後からペースを大きくダウンしてしまう
   のだった。その上この後、鈴木は、40周目にアピチェラに、41周目アー
   バインにもかわされて、4位にその順位を落としていく。
    これで、星野は、前の黒澤、後ろの鈴木と敵を全て排除することに成功し
   た。その時、その星野の独走するコースに雨がポツリポツリと落ちはじめ
   る。星野を始め多くのチームが慌ただしく、タイヤを用意しはじめるが、雨
   はそれ以上激しくなるこは無かった。
    雨が降り始めてまもなく、35周目の1コーナーでチーバーが単独コース
   アウト。グラベルベットにマシンを止めて仕舞う。チャンピオンを狙うチー
   バーには、痛いノーポイントとなった。
    全てが、星野の為に動いているかの様に思えた、そして残りの周回を大事
   に走りきった星野に優勝という2文字が与えられた。実に1年半ぶりの出来
   事だった。
    シリーズは、早くも2戦を消化し、2人の勝者を生んだ。開幕戦に強いと
   言われるチーバーと、富士を得意とする星野と。そのそれぞれの勝者は、そ
   れぞれの優位性を十分に使い切って戦った。そして、舞台は美祢に移る。果
   して、次の勝者は誰なのか。
    戦いは、益々混迷を極めていく。
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   * 文中に使用しました周回数にはリーダー・ボードまたはシグナルタワ
    ーに表示されたものに1周回加算したもの、また、タイムには手元(ス
    トップウォッチ)計測または計時モニターに表示されたものを目視にて
    読み取り表記したものも含まれておりますので、必ずしも公式の記録及
    び結果とは一致しない旨ご承知置き下さい。
   * 取材場所/富士スピードウエイ(静岡) 取材協力/大西 良徳
    次回レポートは、第4戦鈴鹿サーキット(5/23)を予定しています。
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         1993 - CABIN International Formula Cup - FUJI
            レポート/福田 陽一(NBG01300)


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