全日本F3000

F3000:Report/Round3 SUZUKA

   ■F3000 Race Report
   --------------------------------------------------------------------
   □混迷極まる「ラッツェンバーガー今期初優勝」
   REPORT/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
    ピットロードを勢いよく2台のマシンが下って来た。一瞬にして、尋常で
   ないことが分かる。その内の1台はピットに辿りつくと、何やら怒りを露に
   して、ステアリングを叩いている。日頃の物静かな彼からはとても考えられ
   ない行動であった。まさに「冷静」さを失っているとしか見えなかった。傷
   めたノーズを交換すると、彼はその怒りを抱えたままピットを後にした。そ
   して、あろうことか、そのもう1台のピットの前を通過するとき、彼は、そ
   の前でマシンを一度止めると、何やら言ったように見えた。何を言ったの
   か。それとも何も言わなかったのか。それは、分からない。しかし、「ごめ
   んよ、俺が悪かったんだ」と言った訳でないことだけは、確かだった。
    多くの観客は、彼の走りを、彼の追い上げを、彼の表彰台を、期待してい
   たに違いない。
    あの130Rで、彼がどうしていれば、というのではもちろんない。ただ
   彼がこの瞬間、大きくシリーズチャンプから遠ざかったことは確かなのだ。
    あの130Rで、彼がどうしていれば、というのではもちろんない。ただ
   彼がその結果に対する、高い代償を自らで負わなければならないのは確かな
   のだ。
    それが、たとえ誰に責任があろうとも。
    混迷、混乱、混戦の全日本F3000は未だチャンピオンの姿さえ見えな
   いでいる。
   --------------------------------------------------------------------
   MILLION CARD CUP RACE
   Round3 SUZUKA
                                1992/9/27
   SUZUKA CIRCUIT
                1992 ALL JAPAN F3000 CHAMPIONSHIP ROUND 9
   ミリオンカードカップレースRound3鈴鹿
                     全日本F3000選手権シリーズ第9戦
   --------------------------------------------------------------------
    風が爽やかに吹き抜ける鈴鹿のホームストレートに、再びF3000の爆
   音が響きわたるころ、季節はいつの間にか、秋になっていた。空には、雲が
   美しく光り、風が少しだけ強く旗をはためかせているころ、フォーメーショ
   ンラップを終えた、ラッツェンバーガーを先頭に、各車がグリッド上に整列
   を終える。上位6位までが外国人ドライバーという、まさしく戦国時代を思
   わせる予選順位は、これからのレースの波瀾をいやが上にも予感させた。
    まさしく波瀾は起こった。ブルーシグナルを前にしてレースは、既に動い
   てしまっていた。チーバーが電気系トラブルのためマシンを引き上げざるを
   得なくなり、惜しくもリタイアを決定していたのだ。激戦状態のチャンピオ
   ン争いに痛い戦線離脱となった。
    また、予選6位につけていたアピチェラがミッショントラブルのため、
   ピットスタートを余儀なくされ、ピットエンドでブルーシグナルを待ことと
   なっていた。同じく、関谷もピットスタートの模様である。
    スタートをうまく成功させたのは、3番手スタートのスコットだった。2
   番手のマルティニを上手くかわし、この時、彼はこのレースの大きな鍵を手
   にした。
    スタートは順調に見えたが、集団が2コーナー先に差しかかるころ、もう
   一つのこのレースの鍵となるアクシデントが発生する。星野の真後ろに付け
   ていた、黒澤が星野のマシンのリアに乗り上げて、大きく跳ね上がってし
   まったのだ。恐らく勢い余った黒澤が回りの混雑のため、逃げ場を失って、
   避けきれなかったのではないだろうか。
    このアクシデントで、黒澤はフロントのサスペンションが完全に折れてし
   まった様で、グリーンによたよたとマシンを出した。一方、星野はリアのウ
   イングを根元からもぎ取れ、そのままデクナーカーブまでなんとかマシンを
   持ち込むが、やはりリアのウイングがないのでは、コントロールが効くはず
   もなく、あえなくスピンしてしまう。エンジンを今回からDFVに変更し
   て、意気込みを見せていただけに、痛いアクシデントとなった。
    アクシデント後、2周目の順位は、ラッツェンバーガーを先頭にスコッ
   ト、マルティニ、アーバイン、ダニエルソン、服部の順。そして、その2周
   目、中谷がヘアピンあたりでスローダウン、マシンを止めた模様。トップ争
   いをするであろうマシン達がどんどんその舞台をおりていく。
    3周目には、早くもラッツェンバーガーが、他を圧倒するハイペースで2
   位以下を引き離しにかかる。2位のスコット以下は6位まで、ほぼ等間隔で
   周回を重ねている。
    7周目になっても、やはりラッツェンバーガーの勢いはまるで衰えを見せ
   ず、飛び抜けた速さでにげている。2位とのタイム差を4周目の4秒から、
   6秒にまで広げていく。
    一方、2位以下はスコットが抑える形で全くの膠着状態が続いている。
    2位スコットの後ろで、コーナーの進入で接近はするものの、あと一歩の
   ところで抜きあぐんでいる、マルティニとダニエルソンのうしろで、マシン
   をローラにスイッチして調子の乗ってきた、服部が右に左にマシンを揺さ
   ぶって牽制をかけている、のが目立った動きという程度だ。
    それに比して、後方は元気がいい。好スタートを果たしたフィレンツェン
   が素晴らしい追い上げを見せている。
    また、前回の富士で今期初の日本人優勝者となった、鈴木利男も元気がい
   い。7周目には、前を行くミカ・サロを裏のストレートから130Rの進入
   にかけてパス。7位に浮上してくる。そして、そのまま超ハイペースで飛ば
   して、服部との間隔をつめてくる。その時の鈴木は、トップを独走している
   ラッツェンバーガーの1分50秒566と大差無いタイムを刻んでいた。こ
   のハイペースで行くと、富士の再現はなるか、観客席の期待は膨らむ。
    その期待の鈴木。ついに、11周目に6位の服部を完全に射程距離内に収
   めた。前を慎重に伺い、ラインを必ず1つ外して、相手の隙を伺う。そし
   て、14周目スプーンの立ち上がりから既に後ろにぴったりついていた鈴木
   は、バックストレッチを完全なサイドバイサイドの状態で通過する。もし、
   彼に間違いがあったとしたら、服部のアウトに出たことではないだろうか。
   服部は彼が思った以上に速かったのだ。刻々と迫るコーナー。130Rは2
   台で通過出来るほど広く、低速のコーナーではなかった。結局、全く横に並
   んだ状態では、インのほうが有利であることは言うまでも無い。ところが、
   ここで彼が、もうひとつ間違いを冒したとしたら、服部はコーナーに進入し
   たあと、彼が想像したほど、速くはなかったのだ。急激に接近する2台のバ
   トルは、鈴木が服部に追突するという形で幕を閉じた。ノーズ交換のため、
   ピットインした後の鈴木は、ファステストラップを記録しての全開走行だっ
   た。もし、と考えると、この結果は余りにもおしい。
    ピットスタートのアピチェラが10周目11位にまで順位を上げて、1分
   49秒596の好タイムを叩きだして追い上げてくる。
    16周目に入っても上位に大きな順位の変化は無く、ラッツェンバーガー
   は、完全な単独走行。レースは、2位のスコットを先頭にした、マルティ
   ニ、アーバイン、ダニエルソン、そして、1分50秒297を叩きだすフィ
   レンツェンと続く。明らかにダニエルソンより速いペースのフィレンツェン
   は次第に、ダニエルソンを脅かす位置にまで、接近する。そしてこの争い
   は、攻められたダニエルソンでは無く、26周目にフィレンツェンがシケイ
   ンでたまらずスピンして終えた。スピン後のコース復帰に手間取った様子や
   コースの攻め方に、何か粗削りなところを感じさせるドライバーだった。た
   だ、幸いこのスピンで順位を落とすことはなかった。
    一方、23周目辺りから繰り返されていた、アピチェラとカーカッシの激
   しい争いにも27周目には決着がついた。カーカッシのテールにぴったり、
   本当にぴったり、接近したアピチェラは、コーナーの進入がカーカッシより
   明らかに速いため、何度も実は追突しているのでは、と疑わせるほど接近し
   ていた。この周回も同じ様にバトルをしていたこの2台は、先程の鈴木利男
   と服部と同じように、130Rでサイドバイサイドになった。そして、全く
   同じくカーカッシに抑えられたアピチェラは、これまた同じく追突しそうに
   なった。ところが、ここは間一髪のところで、左にマシンを振って逃げる事
   に成功する。ところが、元々スピードの乗っていたアピチェラは、その避け
   たカーカッシと真横に並ぶ形でシケインの進入を迎えてしまうこととなっ
   た。たまらず、パニックブレーキを踏みハーフスピンするアピチェラ。その
   際、アピチェラの前輪と、カーカッシの後輪がヒットする。このダメージが
   原因かどうかは不明だが、アピチェラは、この後、ダートにマシンを一度出
   すアクシデントに見舞われ29周目にピットへ。憮然としてマシンを降り
   た。彼もまた冷静では無かった。
    レースも終盤に差しかかると、ポイントの欲しいマルティニは、スコット
   の隙を伺う様に、接近したり離れたりを繰り返し、パッシングポイントを探
   す。その2人の隙を狙うアーバインが後ろに離されないようにマークしてい
   る。スコットは、タイヤがそろそろ限界を迎えているようで、勢いのあるマ
   ルティニを抑えるのに、必死という様相だ。
    テレビクルーが、ラッツェンバーガーとスコットのステラチームのピット
   ウォールに陣取る。チェッカーが用意され、その前をガッツポーズで駆け抜
   ける2人。完全な1-2フィニッシュだった。
    ここ鈴鹿で、また、新しい勝者が生まれてしまった。
    よく言われるように「誰が勝てもおかしくない」シリーズではある、しか
   し本当は「誰が勝つか全く分からない」シリーズと表現すべきではなかろ
   うか。
    このレースで、3位を得てチャンピオン争いで一歩抜きんでた、マルティ
   ニではあるが、この次誰が勝つのか分からない以上、これ以上のことはまる
   で分からない。
    混迷を究める全日本シリーズは、まだまだ続く。
   --------------------------------------------------------------------
   * 文中に使用しました周回数はリーダー・ボードまたはシグナルタワー
    に表示されたものに1周回加算したもの、また、タイムは手元(ストッ
    プウォッチ)計測または計時モニターに表示されたものを目視にて読み
    取り表記しておりますので、必ずしも公式の記録及び結果とは一致しな
    い旨ご承知置き下さい。
     また、出来る限り正確を期しておりますが、時間の関係でやむをえず
    データや情報の事実確認を行えないまま記載しているものもありますの
    で、正確な情報をお持ちの方は訂正を入れていただきますようお願いい
    たします。
------------------------------------------------------------------------------
        1992 - MILLION CARD CUP RACE Round3 SUZUKA - SUZUKA
                  ROUND 9
            レポート/福田 陽一(NBG01300)


トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:

検索

最新ニュース