全日本F3000

童夢インサイドレポート Rd.4-2

           エイベックス童夢レーシングチーム
   1995年 全日本F3000選手権シリーズ第4戦 レースレポート
<日曜日>
 自分のミスは自分で取り返すしかない。
 そんな決意を胸に、中野選手は日曜日の朝ピットへ戻ってきました。
 予報通り、土曜の夜半から降りだした雨で路面は完全なウェット・コンディション
となり、午前8時半から始まった二回目の予選は、どのチームも雨用のセッティング
変更に大わらわです。
 ヨコハマ・タイヤが準備してきたレイン用タイヤは、表面のミゾの形状を見る限り
は一種類のようでしたが、その中身はゴムの硬さや内部構造の違いで、幾つかの種類
に分かれているのでした。
 他のチームと同様、童夢チームでも何種類かのタイヤを試しながら、決勝レースで
使うタイヤを選ぶのに大忙しです。
 雨のレースでは絶対スピードが落ちるかわりに、コーナリング時のマシンの安定性
がより大切になりますから、前後ウイングを立ち気味にしてダウンフォース(マシン
を地面に押さえつける力)を増やしたり、なるべくマシンの底が水につかないように
車高を上げたりと、マシン・セッティングも大幅な変更が必要です。
 不安定な路面状況に対応するため、特に車体の上下運動を支えるスプリング(ばね)
の動きを柔らかくし、さらにダメ押しの意味で、ローリング(左右にねじれる感じ)
をなるべく抑えるため後輪部のスタビライザーという一種のバネを調整しました。
 1時間から40分間の短縮セッションでしたが、チームが蓄えてきた豊富なデータの
おかげで作業は手際よくはかどり、中野選手もまずまずの感触を得ることができまし
た。
 午後2時半。いよいよ決勝のスタート時刻となりました。
 雨は小降りになっていましたがレース中に激しくなることは十分に予想されます。
 雨が激しくなるとオーバーテイクは不可能です。コンディションが少しでもマシな
うちに、ひとつでも順位を上げておかなければなりません。
 一周のフォーメーション・ラップを終えて20台のマシンがグリッドに整列、グリー
ン・シグナルが点灯し、全車一斉にスタートを切りました。
 モニター画面で、イン側グリッドにいた中野選手が大きくアウト側に進路をとった
のがみえましたが、あとはもうもうたる水煙のなか。
 何がどうなったのかわからない緊張の数秒後、影山正彦選手とサイドバイサイドで
1コーナーに飛び込む中野選手のマシンが映し出されました。
 中野選手は、すぐ前でエンジン・ストールさせたA・G・スコット選手のマシンを
避けるために進路変更したのですが、結果的にはそれが大当たり。
 グングン加速した中野選手は6台抜きのジャンプアップに成功し、3番手の影山選
手まで抜こうという勢いを見せたのです。
 しかもその直後に2番手のJ・クロスノフ選手が失速したため、中野選手は3番手
で1周目のコントロール・ラインを通過。松本監督以下、ピットでモニターを見つめ
ていたチーム・スタッフはやんやの喝采です。
 しかし、喜びの時はあっけなく終わりました。
 スタートから3周を過ぎて、他の選手のタイムがどんどん速くなっているというの
に、中野選手のタイムは伸びるどころか落ちていくではありませんか。
 周回が進んででも中野選手のタイムはいっこうに回復せず、後ろからくるマシンに
どんどん抜かれていきます。
 もうこれは、マシンに何らかのトラブルを抱えているとしか思えません。
 ピットのスタッフが顔を曇らせている頃、中野選手は必死になってマシンと格闘し
ていました。
 マシンがどうにも不安定で、特にコーナーの立ち上がりで後ろがふらつくのです。
 周回とともに症状はますます酷くなる一方で、10周を過ぎるころには直線さえまと
もにまっすぐ走れなくなっていました。
 中野選手の奮闘をあざ笑うように、雨は激しさを増していきます。
 そして15周目。スプーン・カーブに出来た”池”で、中野選手はマシンを止めたの
でした。
 午前中、データに基づいたセッティングでまずまずの動きだったマシンが、なぜ本
番では狂ってしまったのか。レース後のチェックでもマシンにおかしなところはなか
ったのです。
 ただ、最後尾から3位に追い上げたM・マルティニ選手の「今日のヨコハマ勢の走
りは、揃いもそろって酷いもんだったなぁ」という言葉が気になりますが..。
「結果はスピンに終わったが、中野はよく頑張った。あたえらえた状況のなか最善を
尽くし、最後まで手を抜かず目一杯やっている。
 スタートでジャンプアップしたのも、本人の「勝ってやるんだ」という気持ちがあ
ればこそ。
 そういう気持ちを持ち続けていれば、きっといいこともある!」
 ドライバーとしての経験を持つ松本監督だからこそ、中野選手が雨の中でどれだけ
頑張ったかも、またスピンに終わった時の悔しさも理解できるのでしょう。
「いくら頑張っても、結果に残らなければ..」と沈んだ表情でピットに戻ってきた
中野選手でしたが、松本監督という最高の理解者の力強い言葉に元気づけられ、ふた
たび勇気を取り戻したようでした。
 次戦は7月30日、スポーツランド菅生で行われます。


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