昨年9月、フォーミュラ・リージョナル選手権にスポット参戦を果たした三浦愛はかなり追い詰められていた。
全日本F3選手権(当時)のシートを失い、参戦していたのはKYOJO CUPのみ。話を聞くなかで「引退」の2文字が何度が口をついて出た。
当時のインタビュー記事のタイトルは「『岐路に立つ』三浦愛」。それほど思い悩んでいる気持ちが伝わってきた。
あれからちょうど1年。三浦愛を取り巻く環境は当時と比較すると大きく変化した。もちろん良い方に、である。フォーミュラ・リージョナル、スーパー耐久、TCRジャパンなどへの参戦、そしてスーパーフォーミュラやTCRJではレポーターや解説も務め、毎週サーキットを飛び回っている。
フォーミュラ・リージョナル第4~6戦の行われたツインリンクもてぎでこの1年の変化、そしてこれからのことを聞いた。
- 1年を振り返って
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去年ここでリージョナルに出たときは、メインスポンサーを失ったことで活動資金の問題に直面していました。ずっとフォーミュラに乗れていませんでしたし、その時点ではKYOJO CUPしか出られるものがありませんでした。そんなとき、国井さん(Super Licenseチーム国井正巳代表)に出会って参戦のチャンスをいただきました。
それが今年のリージョナル参戦に繋がっています。スーパー耐久に関してもチームが今年乗るドライバーを探しているタイミングと運が重なって参戦が実現しましたが、少なからず私のやっていることを見てくれている人がいたということを改めて感じました。
最初はただただ運が良かったと思っていましたが、でもこの運やタイミングが凄く重要で、そこから他のカテゴリーへの参戦が実現しましたし、少しずつ結果もついてきています。そういう積み重ねが今に繋がっていて、自分でも成長していることを実感しています。
- レポーターの仕事で得たもの
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気持ちとしてはドライバーに集中したいというのはありますが、でもレポーターの仕事がプラスになっているのは間違いないと思います。レポーターは正直言うとやりたかったわけではないのですが(笑)、スーパーフォーミュラだからお引き受けしたという部分はあって、今まで知らなかった世界を見ることで自分の糧になると思いました。
実際にトップドライバーの話を直に聞くとためになることばかりでした。レースへの取り組み方などは、今まで自分なりには頑張っていたつもりでしたが、やっぱり足りていなかったというのを痛感しました。そこから感じたことを自分なりに実践することで、チーム内での自分の立ち位置が少しずつ変化して、より良い環境になったという気がしています。
- レースへの取り組み、気持ちの変化
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具体的には、普段のトレーニングであったり、精神的な部分、モチベーションの上げ方だったりです。このあたりは1年前とは全然違っていると思います。
今まではずっとレースのことを考えてがむしゃらにやっていましたが、一人ひとり違っているはずですし、自分に合ったやり方があるはずだと気付いて、オンとオフの切り替えを意識しています。ずっとオンのままでは持ちませんよね(笑)。
あとは色々な人の話を聞くようにしています。F3に参戦しているときは社員として会社の中にいて、チームも一つで同じ環境で人との繋がりがそんなに広くありませんでした。
でも、国井さんを通じて色々な方と知り合うことができて考え方も柔軟になったように思います。スーパー耐久で組んでいる平中(克幸)選手や国本(雄資)選手などトップカテゴリー経験のあるドライバーと話す機会も増えましたし、ドライバー以外の方からも貴重な意見を頂くことで、さまざまな視点から物を見ることができるようになったと思います。
もちろんドライバーとしての目標は勝つことで、そこに変わりはありませんが、そこに至るまでのプロセスやアプローチの仕方は何通りもあって、行き詰まったときにどう立て直すかということとか、自分なりに回避したりすることも上手くできるようになってきたと思います。
- 次世代の女性ドライバーに繋げることを目標に
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今シーズンのレースに集中できる環境は周りの方のおかげで整っていると思います。毎週サーキットに行くので余計な事を考える時間がなく、自分が速くなること、成長することを考えるので精一杯というのが正直なところです。
ただ、もう歳なので(笑)若いときのように「F1に行きたい」とは言えません。今の目標は、プロとして、女性として、次の世代の女性ドライバーに残せるようなポジションづくりをしたいと思っていいます。少しずつですが、そういう環境ができつつあるように感じています。もちろんまだまだ頑張らなくちゃいけませんが。
この目標が今の自分のレース活動の根っこの部分です。それは最終的に自分が頑張った結果として付いてくるものだと思っています。今は自分自身が勝つこと、結果を出すことが最優先ですが、その結果でレース界のなかで次世代の女性たちに道を開くことができたらと思っています。
- 海外にも目を向けていきたい
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これまでずっと国内でやってきたので海外で揉まれた方がいいんじゃないかということも国井さんからは言われていて、Wシリーズなどについても話をしています。自分としても世界を見てみたいという気持ちもあるので、コロナが落ち着いたら、そういう可能性も探ってみたいとは思ってます。それは先ほど言った次の世代に繋げるという点からも大事なことだと思います。
あと、今までは会社員として仕事をしながらレースをしていましたが、今はレースが仕事となっていますので、自分が走るだけではなくモータースポーツを知ってもらう活動ができたらと思っています。レポーターをするのもその一環ですし、子どもたちにカートを体験してもらうことなどもできたらと思います。
昨年のインタビュー時点では2021シーズンの予定も白紙だった三浦だが、レース界はこの魅力あるドライバーを放っておくことはなかった。国井代表をはじめさまざまな人が手を差し伸べ、三浦もそれに応えた。それはひとえに三浦のレースに対するひた向きな努力の成せる業だろう。国井代表も三浦のレースに対する姿勢は高く評価している。
ドライバーとしての可能性、伸びしろも気になるところだ。この週末は順位こそ3レースすべてで3位に終わったが、実はこんなことがあった。
2レース目にコースサイドでチーム監督兼ドライビングコーチの松浦孝亮氏が、コース前半の三浦の走りをチェックし無線で指示を飛ばした。するとそれまでより明らかにペースが上がり終盤はトップ2車との差を詰め始めたのだ。松浦氏も「できるならもっと早くやれって話ですけどね」と笑っていたが、アドバイス1つでタイムを上げられる余力があるということはやや驚きだった。
様々なカテゴリーを経験することでドライバーとしても幅が出てきた三浦。全日本F3に参戦していたときはやや背伸びをしているように見えたものだが、その頃より、今の方がレーシングドライバーとして良い環境で充実した日々を送っているようだ。やや回り道をしたが仕切り直して改めてレースを学んでいる。そんなところだろうか。
今シーズン、残るフォーミュラ・リージョナルレースでの戦いぶり、そして来シーズンはどんな舞台へ飛び出すのか、身内の気持ちで見守り、応援したくなるような魅力を持った三浦愛の動向に注目したい。
Text:Shigeru KITAMICHIPhoto: Kazuhiro NOINE