全日本F3000

童夢インサイドレポート Rd.3-2

           エイベックス童夢レーシングチーム
   1995年 全日本F3000選手権シリーズ第3戦 レースレポート
<日曜日>
 日曜午前9時。いよいよ2回目の予選スタートです。
「タイヤの対策もしたし、気温も昨日よりは低い。それだけで、ドライバーにコンマ
6秒のマージンを渡せたはず。あとは中野自身のがんばりやな」と松本監督。
 30分ほど前からずっとチームのワゴン車にこもって、コンセントレーション(集中
力)を高めていた中野選手が、準備を整えてマシンに乗り込みました。
 まず3周、軽いアタックで今朝のコンディションをチェックし、いったんピットへ。
タイムは、昨日からの使い古したタイヤで1分16秒293です。
 タイヤの内圧を調整して再びコースイン。リズミカルなコーナリングを見せる中野
選手は、1分14秒877までタイムアップしてピットへ戻ってきました。
 昨日の午後に試した数値で問題はなさそうなので、いよいよ、新品タイヤにはきか
えて本格的なタイム・アタックを開始します。
 アタック1周目の1分13秒995は、昨日の予選からコンマ6秒速いタイムで、チ
ームが渡したマージン分。次からが問題です。
 中野選手は頭の中を真っ白にして、ひたすらマシンを走らせます。心臓は口から飛
びだしそうに強い鼓動を打っていますが、そんなこと意識の外です。
 タイヤが一番いい状態を発揮するのは、走り出して2~3周が限度。これを逃せば
あとはグリップ力が低下し、タイムアップは望めません。
 いったい何秒で戻ってくるのか、チーム・スタッフ全員が食い入るように見つめる
モニター画面に、カーナンバー8の新タイムが表示されました。
 1分13秒233。さっきからコンマ7秒近いタイムアップで、7番手に浮上です。
 残り時間はあと10分。ズボンのポケットに突っ込んだ松本監督の右手が、グッと握
られます。
 一瞬、画面が消えて再び現れたタイムは1分13秒146!
 しかし、他選手がコントロールラインを通過するたびに、カーナンバー8の欄はダ
ルマ落としのように下がっていきます。
 中野選手のタイムが頭打ちと判断した松本監督はいったんピットへ戻るよう指示。
 エイベックス童夢の予選14番手グリッドが決定しました。
 順位だけを見れば、予選14番手というのは決して褒められる状況ではないでしょう
が、問題はそこへ至る過程なわけで、中野選手が自分の道具を100%フル活用して
のタイムは、決して悲観するものではないでしょう。
 午後から行われた62周の決勝でも、中野選手は予選と同じ、いえ、予選以上の走り
をみせました。
 好スタートを切って順位を二つあげた中野選手は、12番手で1、2コーナーをクリ
ア。続く3コーナーの立ち上がりで発生した多重クラッシュにも運良く巻き込まれず、
1周目を10番手で通過しました。
 日本でも屈指のテクニカルコースといわれるMINEサーキットは、長い直線と細
かいコーナーが連続するインフィールド区間に二分されるコース・レイアウトで、抜
き所もほんの僅か。そのため接触事故やマシン・トラブルでリタイアするマシンが多
く、毎年完走するのは全体の半数と、まさにサバイバル・レースになるのです。
 今年のレースも例外ではなく、レースも半ばの31周目、コースを走るマシンは12台
に減っていました。
 他車のリタイアにともない8番手に上がっていた中野選手は、前を行くアピチェラ、
高木虎之介、M・マルティニ選手らのすぐ後ろに迫り、5番手争いに加わります。
 レースも後半に入ると、ガソリンも減ってマシンはどんどん軽くなりますが、反面
タイヤの消耗も激しくなり、終盤へ向けてマシンのコントロールはし辛くなりますが、
中野選手のラップタイムは速くなる一方。
 4本のタイヤの消耗具合を全身で察知しながらマシンをコントロールし、しかもラ
イバルを追いかける中野選手は、ミスが多いと言われていたF3時代とは全く違う、
冷静な、安定した走りのドライバーへ、ひとまわり大きく成長したようです。
 35周目にアピチェラ選手がトラブルでリタイアし、中野選手はポジションをひとつ
アップ。結局そのままの順位を守って62周を走りきった中野選手は、自己最高位の7
位、ヨコハマ勢のトップでチェッカーを受けました。
 レース終了後、松本監督以下チームの全員が、健闘した中野選手を出迎えようと、
ピット前に勢ぞろいしました。
 しかし、レース後マシンが止められるパークフェルメから、中野選手はなかなか戻
ってきません。
「何かトラブルでもあったんだろうか」と、心配が広がったところへ、中野選手が両
脇をオフィシャルに抱えられるようにしてピットへ帰ってきました。
 実は、残り5周を切った時にマシンの中で中野選手は腰を挫いていたのです。
 ふつうの車の運転でも、シートのポジションが合っていないと運転は辛いものです
が、ひとひとり入るのがやっとの、狭いレーシングマシンの中で、何千回もアクセル
を踏み、シフトチェンジを繰り返すのですから、ほんの数mmのシートのズレでもドラ
イバーの身体に負担になります。
 それを1時間半以上も、強烈な緊張状態の中でマシンを操作し続け、闘うのですか
ら、レーシング・ドライバーの精神力と体力は、やはり並ではありません。
「ようやった!」と、出迎えた松本監督、痛さに顔を歪めながらも嬉しそうに眼を細
める中野選手。
 差し出されたふたりの手は、どちらも真っ赤になっていました。
 次戦は二週間後の5月21日。
 ふたたび舞台を鈴鹿に移した第4戦で、中野選手は初ポイント獲得を目指します。


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