全日本F3000

童夢インサイドレポート vol.4

◆童夢インサイド・レポート 第4回
 「第9戦 INTERNATIONAL F3000 FUJI FINAL 誤算の決勝レースの巻」
 タナボタ的とはいえポールポジションを獲得し、気分的にも盛り上がってきた童夢
&アピチェラにとって、不安材料があるとすれば、それはタイヤだった。
 今回チームが選んだのは、前後4本とも第8戦で優勝した時と同じタイヤだった。
 思いがけない気温の上昇(想定より5℃も高い)が気にはなるが、そこはタイヤに
負担をかけないセッティング(タイヤの内圧を下げたり、リアのダウンフォースを増
やしたり)に変更することでカバーできる。
 ガソリンが重い序盤はとにかく丁寧に走ってタイヤを温存、しかも、できるだけマ
ージンを稼ぐ、という至難の技もマルコの運転技術ならば可能だ。
 童夢の胸算用としては、スタートを決めたマルコがトップで1コーナーに入る。ダ
ニエルソンがぴたりとくっついてくるだろうが、彼も後ろにM・マルティニやチーバ
ーやスコットを従えているので、そうそう前のアピチェラだけに神経を集中するわけ
にもいくまい。そうこうするうちに、いづれレース巧者のロスかスコットあたりがダ
ニエルソンを抜いて順位を上げてくるだろうが、このところとみに速さを増してきた
ダニエルソンならば、10周くらいは2番手をキープするだろう。
 その10周を利用して、マルコはタイヤを温存しつつマージンを稼ぎ、恐らくスコッ
トと競り合うことになるであろうレース後半戦に備える、というわけだ。
「スコットの追い上げがあっても、最終的には1周につきコンマ3から4秒差で逃げ
きれる」と松本恵二監督はレース前の作戦会議を締めくくった。
 しかし、実際はそうは運ばなかった。
 結論から言うと、
 その1・・アテにしていたダニエルソンが、スタートでコケた
 その2・・タイヤが予想外に早い段階でダレてしまった
というふたつの誤算が、5周目にスコットにトップを奪われ、そのまま逃げきられる
結果を招いたのである。
 予選ではアンラッキーな面が多くて5番手に終わったスコットだったが、マシンそ
のものの調子はすごぶる良かった。
「マルコに追いつくのに少なくとも10周はかかるだろうが、いづれにせよ追いつく自
信はあるんだ。マルコを抜けるかどうかは、その時にならないとわからないけどね」
とレース前に語っていたところによると、ステラ側のレース展望も、童夢の考えと似
たりよったりだったらしい。
 ところがマルコにとってアンラッキー、スコットにとってラッキーなことに、ダニ
エルソンがスタートでエンジン・ストールしたため、スコットはいきなり3番手に浮
上。前にいたマルティニにぴたりとついて最終コーナーを立ち上がり、直線に入った
ところでそのスリップから抜け出したスコットは、2番手でコントロール・ラインを
通過したのである。
 思いっきりアテが外れたものの、マルコにすれば勝算がなくなったわけではなかっ
た。もともと、スコットとマッチ・レースになることは予想済みのことで、それが予
想より早い段階で起こっただけである。
 5周目にあっさりスコットを先に行かせたのも、そこで無理してスコットを抑える
よりは、作戦通りに序盤はタイヤを温存し、ガソリンが軽くなる後半以降に逆襲をか
ければいい、と考えたからだ。
 しかし、ここでダニエルソンよりハズれてしまう事件が起こった。
 早くも10周を過ぎに、前後4本ともにブリスターが出来てマシンの振動が激しくな
り、スコットを追いかけるどころではなくなったのだ。
 ピット前のプラットフォームでは、松本監督以下スタッフがラップ・モニターを囲
み、もっと速くなっていいはずのマルコのペースがなかなか上がらず、広がる一方の
スコットとの間隔にイライラしていた。
 見れば、12番手から7番手に浮上していたクルムのタイムも、20周目あたりからほ
とんどタイムが上がらない。
 マシンのメカニカル・トラブルは考えられず、誰言うとでもなく「タイヤ」の三文
字が頭に浮かんだ。
「タイヤというのは生き物みたいで、同じ材料を同じ量、同じ工程で作ったからとい
って、いつも同じモノが出来上がるとは限らない。作る時の気温とか、湿度とか、作
る人の気分とか、ま、それは冗談やけど、とにかくちょっとのことで全然変わってく
るらしい。だから、前のレースのと同じタイヤを作ったつもりでも、そうじゃなかっ
た、ってことやね。まあ、ここまで早くダメになるとは思ってなかったけど」と松本
監督は諦めの口調。
 タイヤ・トラブルでトップから4位に後退せざるを得なかった4月のレースの時は
口をつぐんでいたマルコも、さすがに今回はキレたのだろう。記者会見の席上で、
「あえて敗因を挙げるとすれば、タイヤで負けたのだと思う」と不満を露にした。
 ただ今回の場合、予想以上に気温の上昇に対するタイヤ選択の読みが、少し甘かっ
たのではないか、という気もする。
 現にBSを履くスコットの「ちょっとハード過ぎるかなぁ、と思うタイヤを選んだ
けど、結果的にはそれで良かったけどね」という言葉を考えると、敵は異常ともいえ
る暑さに素早く対応していたようなのだから。
 ともあれ、今回はステラ&スコット&BSにヤラレてしまった。
 チーバーがリタイアに終わったことにより、チャンピオン争いは2週間後の鈴鹿・
最終ラウンドで、マルコとスコットの一騎討ちで決せられる。


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