全日本F3000

童夢インサイドレポート vol.3

◆童夢インサイド・レポート 第3回
「第9戦 INTERNATIONAL F3000 FUJI FINAL 他人の不幸は密の味だった予選、の巻」
 11月なかばとは思えない、うららかな陽光ふりそそぐ富士スピードウェイのパドッ
ク、童夢チームのテント内に次のような紙が張り出されていた。
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           マルコ シリーズ優勝のパターン
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 マルコが1位の場合・・・ 文句無し
 マルコが2位の場合・・・ スコットが3位以下、ロスが3位以下でマルコの
              優勝決定。
 マルコが3位の場合・・・ スコットが4位以下、ロスが2位以下。
 マルコが4位以下の場合・・スコットはノーポイントでも優勝の可能性が残る。
              ロスは3位以下で優勝の可能性が消える。
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 つまり、マルコはこのレースでスコットより前でゴールすれば、チャンピオンが決
定するのである。敵はスコットただ一人、と言ってもいい。
 今回はいつものメンバーに加えて、富士のみ参戦の清水正智に和田久や飯田章ら、
6人がスポット参戦し、今季最高の21台が集まった。
 10時10分に始まった第1回公式予選でも、これらスポット組が真先にコースに向か
い、続いて星野一義や高橋国光ら。路面のホコリがそろそろ取れてくる開始20分過ぎ
に隣のピットからスコットがスタートしたのを見て、童夢のピットもようやく動き出
した。
 童夢ではいつも、前回のレースやテストで確認したセッティング・データを、あら
かじめ京都の工場でマシンをセットしてからサーキットにやってくる。今回の場合だ
と、第8戦の後の富士テストでのデータが基本になるわけだ。
 先月25日の鈴鹿テストでハデにクラッシュしたマルコのマシンだが、ボディ本体は
アンダー・フロアの交換だけで済んだらしい。足まわりやウイングなどももちろんニ
ュー・パーツなので、クラッシュ前のデータではセッティングに誤差が生じるんじゃ
ないかと思われるのだが、シャーシ・コンストラクターの童夢に限ってそんな心配は
無用。パーツのほとんどを自製し、それをコンピューター管理する、つまり完璧なク
オリティ・コントロールがなされているので、マシンは常に同じモノが出来上がって
くるというわけだ。
 マルコもマシンの仕上がりには絶対的な信頼をおいているから、最初から全開でア
タックすることが出来るのである。
 マルコは4周目に1分16秒631の4番手タイムを出したあと、さっさとマシンを
降りてしまった。
 スコットはコンマ1秒速いタイムで3番手に、ロスが1分16秒273でトップに立
っているが、マルコはまだまだ余裕を残した走りでのタイムなので、全然気にはなら
ない。
 第8戦で問題視された1から2コーナーの弱アンダー症状を解消すべく、富士テス
トでフロントのダウンフォースを増やす方向にセッティングを変えたのだが、それも
まず問題はないようだ。
 午後の予選の前に、マルコのマシンはフロントの車高を1mm低く下げられた。新し
いアンダーフロアが地面に擦るのではないかと、テストの時より車高を上げていたの
だが、午前の走行で底が地面に擦ってないことが確認されたためだ。
 僅か1mm、車高を低くしただけでもドライバーの感じるダウンフォースは大きく変
わり、コーナリング時のマシンの挙動も違ってくる。
 童夢では(他のチームでもだろうが)マシンがピットに帰ってくる度にタイヤの内
圧と車高を必ずチェックして、その時々のマシンの状態に目を光らせている。
 走ってタイヤが温まればその中の空気は膨張し、車高は当然上がる。走っている時
の車高が一定でないと、ダウンフォースの数値が変わりマシンの挙動は不安定になっ
てしまう・・・ということで、車高とタイヤの内圧チェックは絶対に欠かせないポイ
ントなのだ。
 さて、マルコくらいのレベルになると、路面のコンディションを推し量りつつ、僅
かな周回で内圧を最高の状態にもっていくタイヤの使い方・走り方が出来るのだが、
これがルーキーのクルムになるとまだまだ。テストのように何周も走りこめば、そう
いうタイヤの状態にもっていけるのだが、マルコのように3・4周で、というわけに
はいかない。
 第8戦の4位入賞や鈴鹿のテストで好タイムを出したこともあって、実は密かな自
信を持っていたクルムだったが、こと予選アタックに関しては全然マルコに歯がたた
ず、結局2回目の予選でも1分17秒台を切れずに12番手に留まった。
「今のラップは良い感じだったから、結構イケたかな?って思うやん。でもボードの
数字は17秒台のまんま。何べんやっても16秒台に入らへんかった」とクルム。
 病み上がりのマルコにも、密かに意識しているT・クリステンセンにも負けてしま
い、クルムの顔はブルーを通り越してダークになってしまった。
 一方、”どこが病み上がりやねん”というくらい元気なマルコは、午前に使ったタ
イヤのままで、まずは1分16秒599にタイムアップ。新しいタイヤにはきかえて待
つことしばし、コースが空いたタイミングを見計らい、さあいくぞ!というその時、
最終コーナーで高橋国光がクラッシュし、セッションは赤旗中断となった。
 国サンが怪我がなくマシンを離れたのにはホッとしたが、テンションの上がってい
たドライバーにとっては、あまり有り難くない中断だ。
 10分後にセッションは再開され、残り10分間の計測が行われることとなった。
 だが、20台が一度に押し寄せたものだからコース上は大渋滞。マルコは、前後の間
隔を見ての一発アタックで1分15秒893をマークしたが、1分15秒819のT・ダ
ニエルソンのタイムには及ばず予選2番手となった。隣のスコットは赤旗前に新しい
タイヤでアタックに入り、タイヤの一番おいしいところを使いきっていたため、1分
16秒195の5番手タイムが精一杯だったようだ。
「まあ、スコットが5番手だったから、2番手でも悪くはないんだけどね」とマルコ
はボヤきつつホテルに引き上げていったのだが、その直後に発表された正式予選結果
では、なんとダニエルソンがトップタイムを出した周の黄旗無視により、そのタイム
は抹消。入れ代わってマルコがポールポジションになっているではないか。
 思いがけないドンデン返しに童夢のピットは「ラッキー!チャチャチャ」と拍手の
嵐。マネージャーの佐々木氏がさっそくホテルに電話を入れると、いつものマルコと
は思えない、興奮に彩られた早口のイタリア語が受話器からがこぼれてきた。


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