全日本F3000

F3000 レポート [Rd.4 Suzuka] (2)

                  Rd.4 Suzuka
           [ MILLION CARD CUP RACE Round2 SUZUKA ]
                  1994.5.22
                    (2)
             《F3000レースレポート》
 ----------------------------------------------------------------------------
 ■アピチェラ、美祢に続き今季2勝目を飾る
 Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
  決勝時間が近づくにつれて強い日差しが路面を照らし、気温が徐々に上がりはじめ
 ているのが明らかだった。気温23度、路面温度37度は参加チームにとっても詰め
 かけた観客にとっても決して過ごしやすいものではなかったろう。
  「タイヤの選択がポイントだった」と前戦の美祢を優勝で飾ったアピチェラがそう
 語ったと言われる。そのタイヤ選択のことを考えると、今回は前日の予選の気温が予
 想をはるかに下回っていたのかも知れない。決勝を念頭においてタイヤ選択をしなけ
 ればならない今シーズンのタイヤ・レギュレーションは、スタート・ポジションが重
 要な鈴鹿で参加チームにある種のジレンマを与えたに違いない。
  一向に上がらない気温と、風のおかげで滑りやすく荒れる路面で厳しい予選を強い
 られた各選手のなかで、見事ポールポジションを得たのは、ひとり1分42秒台を叩
 きだした服部だった。その服部に最後の最後で今一歩およばなかったのは2番手に甘
 んじる結果となったチーバーだった。ポールの服部が「車自体はそんなに変わらない
 から」とチーバー攻略に自信を覗かせると、「燃料がカットされる現象さえ出なけれ
 ば」とチーバーはポール奪取に失敗した悔しさを露にする。ところが予選終了後のこ
 の2人の対象的な様子は、決勝を迎えて少し趣をかえることになる。予選で服部はや
 やソフトなタイヤを選択していたというのだ、対してチーバーは硬めのタイプなのだ
 という。予選とは打って変わって高い路面温度は、この2人の精神状態に少なからず
 影響を与えたかも知れない。
  予選3番手を確保したのは、前回の美祢で見事優勝をあげたアピチェラだった。タ
 イヤ選択について聞かれ「タイヤも大事だけど、鈴鹿はスタートだよ」と2連勝に向
 けての自信と余裕を覗かせていた。予選4番手には、アピチェラ同様「スタートが
 レースの9割を占めますよ」とスタートダッシュにかける黒澤がつく。予選5番手以
 降にもギルバート-スコット、マルティニとシリーズチャンプを狙う面々が並ぶ。若
 手期待の金石、光貞はマルティニの後ろ7番手、8番手。サロ、星野、影山はセッテ
 ングに悩んでいる様子で10番手、13番手、14番手に沈んでいる。また、今回は
 クロスノフと鈴木がエントリーを行っておらず、全16台によるレースとなった。
  スタートが重要だ。そう言い切る各選手の心理状態に僅かな動揺を与えたかも知れ
 ない出来事がスタートで起こる。コンセントレーションを最高潮に高めた各車の前に
 赤旗が示されたのだ。予選14番手の影山がエンジンをストールさせ、両手を大きく
 あげてアピールしたため、スタートは一旦ディレイ。このディレイで周回は1周減算
 の34周に変更され、影山は最後尾スタートを指定される。
  再びグリッドに並んだ各車に出されたグリーン・シグナルに最もうまく反応したの
 は誰だったのだろうか。ポールポジション・スタートの服部は悪くないスタートを
 切っていた様に見えた。チーバーはその服部の隙を狙って加速している。チーバー寄
 りのラインを取る服部のアウト側をこの2人の先陣争いをあざ笑うかの様に渾身の1
 コーナー攻めを敢行したのがアピチェラだった。
  結果、今日のレースで最も重要と思われたスタートに勝利したのは、アピチェラ
 だった。「最初の10周が勝負だと思った」とアピチェラ本人も語っている様に、こ
 の後アピチェラはグングン2番手に滑りこんだチーバーを引き離しにかかる。オープ
 ニングラップ終了時点で既に2秒近い優位を得る。一方、先を越された2番手以下は
 「スタートが駄目なら」と、チーバー、服部、黒澤が非常に接近したオープニング・
 バトルを展開する。
  非常に緊迫したオープニング・バトルで戦列を離れるマシンもある。2コーナー辺
 りで金石と星野が相次いでコースアウトする。2人とも後半の追い上げが期待されて
 いただけに余りにも早いリタイアに観客席からため息がもれる。
  トップを独走するアピチェラと2位のチーバーの差は4周目に早くも4秒の大差と
 なる。そのチーバーに少し遅れる3番手に服部。4番手以降は、黒澤を先頭にギル
 バート-スコット、マルティニ、クリステンセンが接戦を行っている。
  アピチェラは、各車がやっと1分48秒台後半に突入しはじめた5周目に早くも1
 分47秒838を記録して、47秒台に突入。1周につき確実に0.5秒づつその差
 を広げ、追うチーバーや服部に精神的ダメージを与える。ただ一方でこの気温の中、
 どこまでこの速さで持ちこたえられるのか“速すぎるアピチェラ”への不安も残る。
  アピチェラが独走体制を硬め順位そのものは膠着状態に入った序盤の山場は4位争
 いにあった。7周を過ぎた辺りから5番手を走行していたギルバート-スコットが前
 の黒澤の真後ろにまで接近してきたのだ。ところが、ギルバート-スコットは、どう
 したことか翌周に1分50秒台の明らかに遅いタイムを刻み、6番手のマルティニに
 あっさりパスされ、黒澤攻略どころかポジションダウンの憂き目にあう。幸いマシン
 の根本的なトラブルではなかったらしく、9周目には再びマルティニをパスして、タ
 イムと順位を元にもどす。いま思えばギルバート-スコットはこの時ある意味でこの
 レースの冷静な判断眼を失ってしまっていたのかも知れない。
  序盤トラブルに苦しんでいたのは、スタートを最後尾とした影山だった。6周目に
 影山はピットへ滑り込むとタイヤを交換して再び戦列に復帰するが、8周目に再び
 ピットに戻らざるを得なくなる。しばらくして、コックピットからドライバーが力な
 くマシンを降りてしまう。ピットの奥に引き上げていく後ろ姿は、焦りと悔しさと困
 惑が滲み出ているようで「ひとつでも上を」とう影山の思いを打ち砕いている様に見
 えた。
  中盤になってもアピチェラの独走は揺るぎの無いように思えた。特にチーバーとの
 7秒余りの間隔とタイヤの磨耗を考えてか、時折ペースダウンする余裕も見せ、チー
 バーのペースが上がると見ると、ただ独り1分46秒台のタイムを叩きだして一気に
 間隔を開くという心理面でも有効な作戦を見せた。
  一方、序盤に黒澤とのバトルを不発に終わらせていたギルバート-スコットが再
 び、黒澤の真後ろに追いついたのは11周目だった。ところがこの戦いは、序盤の黒
 澤の粘りのブロックから考えると予想もできないほどあっさりと決着がついてしま
 う。16周目のスプーンカーブの進入のアウト側からギルバート-スコットは簡単に
 黒澤を料理したのだ。抜かれた場所や抜かれ方からおそらく黒澤側に失速に至るよう
 な何らかのトラブルもしくはミスがあったのではないだろうか。
  黒澤をパスして、表彰台の見えたギルバート-スコットは、18周目に服部の背後
 に追いつく。服部とて、ポールポジション・スタートのレースをこれ以上落とす事な
 ど出来ようはずもなかった。当然の様に激しい戦いを予想させたが、これまた意外な
 結末を見る。服部に追いついた周の1コーナーで、右に左に牽制行動をとって“行く
 ぞ”と意思表示をしたギルバート-スコットがデグナーの出口で僅かに開いたインに
 ノーズを滑り込ませた時だった。ギルバート-スコットのマシンはコントロールを
 失ってノーズを後ろに向ける痛恨のスピンしてしまう。マシンを降りるギルバート-
 スコットの胸にどんな思いがあったのだろうか。膠着したレースで独り暴れ回ったギ
 ルバート-スコットは、第2戦の富士で見せたような冷静なレース運びを思い出せな
 いままコースを離れた。
  序盤トラブルに苦しんだ影山にかわり中盤トラブルの餌食になったのは、開幕戦以
 来素晴らしい走りを披露してきたサロだった。13周目にピットに戻ると、左前輪か
 らポンツーンの辺りを点検し、直ぐにコースに戻ったが、27周目にも再びピットイ
 ンし、事実上の戦線離脱を余儀なくされる。
  終盤、ギルバート-スコットにかわって場内を沸かせてくれたのは、桧井だった。
 中盤から8番手争いを行っていた光貞とのバトルに23周目に決着がついたのだ。1
 コーナーで光貞を見事にパスした桧井が8番手に順位をあげ、同じ若手として争って
 いただけに桧井の嬉しさも相当なものだったろうと思われた。桧井は、そのまま勢い
 に乗り29周目には7番手を走行するダニエルソンに接近を果たす。そして、なんと
 30周目の130Rの進入でアウト側からダニエルソンをパスして7番手に順位を上
 げる。その直後、桧井を悲劇が襲う。ダニエルソンをパスした直後のシケインの入口
 でブレーキング・ミスを犯しそのままコースの外に出てしまうのだ。若さが出てし
 まったと言って仕舞えばそれまでだが、その走りには光るものが感じられただけに結
 果に残せなかったのが惜しい気がする。
  一方トップ争いは終盤、チーバーはアピチェラを懸命に追い上げ、タイム差を削っ
 ていくが、アピチェラが29周目に今回のファステスト・ラップになる最速タイムを
 叩きだしてあっさり逃げてしまった。
  レースが終わると、表彰台の中央には、前回の美祢戦と同じアピチェラの嬉しそう
 な顔があった。完璧なレースとはどんなものかを見せつけられた思いがする。まさに
 自分との戦いに勝利した男の笑顔だった。
  2位には、チーバーが入った。チーバーはおそらく2位を得たという喜びよりも
 “負けた”という悔しさが残ったことだろう。彼にしてみても決して悪くない状態で
 臨んできたレースだったのだろう。ぜひ、次戦で意地を見せてほしいものだ。3位に
 は、粘りのレースを展開して見せた服部がつけた。もし、彼を苦しめていたのがソフ
 トタイヤだったのなら、序盤だけでもポールポジションを守りきって欲しかった気が
 するが、そうしたら3位はなかったのだろうか。その意味では、この3位は作戦勝ち
 かも知れない。4位には予選中から「不本意」と自分に言い聞かせる様に繰り返す黒
 澤が入った。彼のこの言葉にはそれなりの“自信”が隠されているものと受け止め次
 回に期待したい。5位には、マルティニがつけ厳しいレースを入賞で飾った。活躍が
 期待された、金石、星野が0周リタイア。影山、サロがピットインを繰り返すなど、
 予想以上に晴天に恵まれたサバイバルゲームは次戦への様々な思いを残して幕を閉じ
 た。
  結局はアピチェラの圧倒的な強さと2連続勝利を刻むこととなったが、シリーズが
 このまま素直に流れるとは考えにくい。シリーズはこの後2カ月に及ぶインターバル
 をおいて菅生にその舞台を移す。この2カ月の間にチームやドライバーが何を見つけ
 だすのかに、菅生をどう戦うかに、富士、鈴鹿の集中戦となるシリーズ後半に対する
 答えが含まれているのかも知れない。
 ----------------------------------------------------------------------------
 ☆ 文中に使用しました周回数やタイムには、計時モニターに表示されたものを目視
  にて読み取りしたものが含まれておりますので、必ずしも公式の記録及び結果とは
  一致しない旨ご承知置きください。
 ----------------------------------------------------------------------------
 《次戦の予定》
   Rd.5 Sugo  [ SUGO INTER FORMULA ]  1994.7.31
 《次回レポートの予定》
   Rd.6 Fuji  [ FIJI INTER F3000 ]  1994.9.4
   次回は、第6戦の模様を富士スピードウエイからお送りする予定です。
 ----------------------------------------------------------------------------
                        レポート/福田 陽一(NBG01300)


トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:

検索

最新ニュース