全日本F3000

F3000 レポート [Rd.1 Suzuka] (2)

                  Rd.1 Suzuka
           [ MILLION CARD CUP RACE Round1 SUZUKA ]
                  1994.3.20
                    (2)
             《F3000レースレポート》
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 ■チーバー強し!開幕戦3年連続制覇
 Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
  最終コーナーから1コーナーにかけて冷たい強い風が吹き抜けていく。1994年
 の開幕戦のスタート時刻を迎える鈴鹿サーキットの天候は、雨の心配は無いものの、
 ことのほか機嫌が悪かった。気温は14度とこの季節にしては、特に低いというわけ
 でもないが、この強い風のお陰で身体には、はるかに低く感じられた。最もレースに
 影響を与えると思われる路面温度も22度と微妙な値を示す。この天候の状態から
 レースがスタートしてもこの路面状況はそれほど変化しないと想像できる。
  この路面温度がレースに与える影響は、今シーズンから導入されたタイヤの規定と
 微妙な関係を築いている様に思えた。事実上、予選専用のワンラップスペシャルタイ
 ヤが使えなくなったことで、とかく論議を呼んだ世界一激しい予選が無くなり、経験
 の少ない若手ドライバーに可能性が出てくる一方で、戦いにくくなる要素も感じられ
 た。決勝で使う予定のタイヤを予選以前の路面や天候の状態で決めなければならなく
 なったからだ。タイヤを決定するための能力がより問われる制度ではある。
  新ルールで戦った予選で、ポールポジションを獲得したのは「運が良かった」と
 89年にF3000参戦以来、初のポールシッターを喜ぶスコット。マシンはローラ
 T93にT92用のミッションを組み合わせ、ムーンクラフト製のMCSカウルを使
 うという特製品。このパッケージが何処まで決勝で威力を発揮するか期待がかかる。
  予選2番手、そのスコットのインサイドには、ギリギリになってやっとチーム体制
 の決定した服部がマシンを並べる。服部は、レイナードの94年型マンシの到着が間
 に合わなかったため去年チーバーが使ったレイナード93Dを使うことにした様子。
 「シフト・ミスしたところがあったので、後悔しています」と言いながらも予選2番
 手とは、流石というところか。
  予選3番手、スコットの真後ろにつくのは、ここ2年間ここ鈴鹿の開幕戦負けなし
 のチーバー。オフシーズン話題のレイナード94Dを持ち込んで望む。「マシンの調
 子が良くなかった。テストでの良さが出なかった」と予選の不満点をあげながらも
 「勝ちにいく」とレースへの意気込みを見せる。
  4番手にはローラやレイナードを越えたと言われる童夢のニューマシンF104を
 駆るアピチェラ。5番手には吉田氏が率いるアドレーシングチームの“もうひとりの
 ミカ”ミカ・サロ。6番手には「テストでは出ていたのに悔しいね」と比較的落ちつ
 いた様子のチャンピオンナンバー“1”をつける星野。7番手にはこれ以上無いとい
 うパッケージ、「レイナード94D」「新・無限ホンダ」に乗る影山。8番手には、
 F1に行ったアーバインの後にシートを得た黒澤のローラの最新シャーシT94がつ
 ける。
  こうして見てくると、昨年に比べ台数そのものは減少したもののマシンそのものの
 選択枝が増え、ドライバーの個性と相まって内容はさらに濃くなったように感じられ
 る。特に予選は出場18台中実に8台が僅か1秒内にひしめいているのだ。9番手以
 下にも上位にからむ可能性の選手は多いことを見ると、まさに、この誰が勝ってもお
 かしくないと言える。それを裏づける様に、予選10番手の金石が朝のウォームアッ
 プセッションでトップタイムを叩きだしその存在をアピールした。
  レースは、その戦いが激しいことを予感させる様に目の醒める様な“スーパーダッ
 シュ”で幕をあける。シグナルがグリーンになった瞬間各車が一斉にダッシュをかけ
 ると、ポールのスコットは真先に“真っ白なマシン”を操る予選2番手インサイドの
 “服部封じ”にインサイドのラインをとる。服部が明らかに牽制してくるスコットに
 前を塞がれてポジションを落とす隙に服部の後ろのアピチェラは良い判断でラインを
 見つけ上位進出を狙う。
  スタートは大きな混乱もなく、後方で黒澤がポジョンアップを果たすなど、多少動
 きはあったもののスコットの描いたシナリオのとおりに事が運ぶ様に思えた。ところ
 が、そう簡単ではなかった。スコットがインサイドに気を取られている隙に、昨年の
 アーバインばりの“スーパー”のつくスタートをしていたチーバーが一気に1コー
 ナーを取ってしまうのだ。これには、スコットも驚いた様子で、直後チーバーを行か
 せまいと、追いすがる様に右に左に牽制をかけながら周回する。コーナーでは並走と
 いう場面すらあったが、チーバーは落ちついて処理し、ニュー・レイナードの特性を
 生かし直線スピードを利用してスコットをグングン離す。
  順位の一応落ちついた3周目のオダーは、チーバー、スコットを先頭に、アピチェ
 ラ、服部、サロ、黒澤、鈴木、星野、影山、マルティニ、金石、クロスノフの順。今
 シーズンF3000ルーキーの光貞は、予選順位を守り順当に15番手を走行してい
 る。
  この中で、8番手の星野はいまひとつ調子が上がらないのか、影山以下のグループ
 を押さえ込む形を作ってしまい渋滞を起こしている。序盤で行く手を塞がれては上位
 進出を果たせない影山は5周目辺りから星野へのプッシュを強めていくが、その影山
 を待っていられないマルティニも影山を抜こうと動きを激しくする。
  そして、この影山とマルティニのバトルは皮肉にも星野のはるか後方で決着する。
 その時、7周目辺りから影山と前を行く星野との間隔が開きはじめたのを見たマル
 ティニが影山をパスすべく、かなりプッシュしていたのだ。そして、9周目。影山が
 スプーンカーブでスピン。どうやらマルティニと接触したらしく、マルティニはその
 ままレースを続行、順位を2、3番手下げた。一方、影山はピットロードへ。チーム
 は素早くタイヤを交換を済ませ影山を戦列に送りだす。
  このマルティニ、影山のバトルが合図になった様に、レースが序盤から中盤に向か
 う頃、コースのあちこちで、一旦は落ちついた様に見えていたバトルが再開され始め
 る。まずは先頭のチーバーとスコットである。スコットは、7周目あたりからチー
 バーとの間隔を忍び寄る様にジワジワと詰め、9周目には飛躍的にその間隔を詰め
 て、一気に射程距離まで追い詰めることに成功する。スコットは訪れたチャンスを逃
 がす舞いと、果敢にチーバーにアタックするが、今一歩の所でチーバーはスキを見せ
 ようとしない。そして、数周後にはアタックに失敗したスコットと抑えきったチー
 バーの間に不思議な1秒から2秒の“隔たり”が生まれる。
  その緊迫のバトルの後ろでは、7周目あたりから4番手の服部をサロがすこしづつ
 追い詰めてくる。そして、12周目には、サロが服部の真後ろにつく。そして、この
 バトルは意外に簡単に決着する。13周目、真後ろについたサロはシケインの立ち上
 がりから、服部のスリップに滑り込みホームストレートで服部のイン側を取り、1
 コーナーに真先に飛び込んだ。素晴らしく綺麗なお手本どおりのパッシングシーン
 だった。この後、サロは服部をグングンと引き離しその好調さをアピールする。
  同じ頃、ホームストレートエンドに砂ぼこりが立ち上がり、光貞がよろよろとマシ
 ンを止めてしまう。「スロットルケーブルが切れてしまった」と悔しそうにピットに
 向かう光貞がこのレース始めてのリタイア者となった。
  レースが中盤を迎えると中盤の主役が突然現れる。6番手の黒澤を先頭にした鈴
 木、星野のバトルに序盤11番手を走行していた金石が割って入ってきたのだ。金石
 は、まずこのグループの最後尾の星野に挑戦状を叩きつける。そして、14周目のシ
 ケインの進入でなんとアウト側から星野をあっさりとかわす。抜かれた星野は鈴木と
 接近戦を行っていたのだから当然、星野の直前には鈴木がいた。この機会を逃がすま
 いと金石は、星野を料理した勢いを保ったまま鈴木のスリップに滑り込む。突然、現
 れた強敵になすすべもなく鈴木はホームストレートのイン側を明け渡してしまう。金
 石は、あっと言う間に順位を上げ1コーナーを7番手で通過する。金石は、更に前を
 行く黒澤を狙い、17周目に黒澤を難なくかわし、6番手を得る。抜かれた3台がベ
 ストで無いことは明らかだったが、後方に甘んじることなくここまで順位アップに望
 んだ金石には光るものが見えた。
  一方、金石に抜かれたあと、星野は苦しい戦いを強いられていた。後ろから来たク
 ロスノフとのバトルもその一つだった。15周目に星野のスキを突く様にクロスノフ
 がシケインの進入でイン側に切り込むと、星野はシケインの真ん中でスピン。僅かに
 クロスノフが星野のリアタイヤにタッチした様ににも見えたが、真相はわからない。
 いずれにしても、今回の星野を象徴するような幕切れだった。星野はこれでマシンを
 降り、このレース2人目にして最後のリタイア者となった。
  中盤の後半に、先頭争いのチャンスが再び巡ってくる。18周目にスコットがチー
 バーに再接近を果たしたのだ。しかし、そのチャンスはすぐにスコットの元を離れて
 しまう。20周目、スコットが最終コーナーの坂をスルスルとスロー走行で下ってき
 た。エンジンは正常に吹け上がっている様子だがどうやらギアボックスがトラブルを
 抱えたらしく車を前に進める力を発揮しない様子だ。スコットは以後、うまくスピー
 ドを維持することが出来ず、ズルズルと順位を落としていく。
  終盤の主役は、序盤を12位から中盤に金石と共に順位を上げてきたクロスノフ
 だった。20周目に鈴木をパスしたクロスノフは、早くも22周目に黒澤に追いつ
 く。黒澤にしてもクロスノフに簡単に譲ることなど到底出来ない。そして激しいバト
 ルが始まる。クロスノフはまずシケインの進入で黒澤の真後ろにつく。ところが黒澤
 とブレーキングのタイミングがあわず、タイヤスモークを激しく上げるハードブレー
 キングを強いられる。クロスノフはこの後も追撃の手を緩めることなくデグナーで真
 横を並走し、ダートをタッチして砂煙をもうもうと上げる接近戦を仕掛ける。一方、
 黒澤はこの執拗な追撃をはね退けてしのごうとしたが、マシン状態の差が最後にもの
 を言ってしまう。クロスノフは裏のストレートで黒澤を完全に捕らえ、130Rで黒
 澤の前を奪取する。
  終盤のもうひとりの主役になるはずだったのは、序盤からコンスタントに3番手を
 キープしていたアピチェラだろう。スコットの追撃を何とかかわした、チーバーに徐
 々に近づき始めたアピチェラは、25周目あたりに2秒近くまで接近する。ところ
 が、アピチェラがチーバーにそれ以上近づくことは無かった。アピチェラの前に周回
 遅れが立ちはだかったのだ。追い上げた2秒が4秒に開くと、チーバーを追いきれな
 いアピチェラのタイムを上回るタイムでサロが追い上げてくる。そして、アピチェラ
 にもサロにも表彰台の中央は巡って来ないままレースは、最後の周回を終えた。
  レースが終わってみると、今年も表彰台の中央にはチーバーの顔があった。今年か
 ら始まった新タイヤ規定の妙だろうかハードタイヤをチョイスしていたチーバーが
 レーススタートと同時にレースの全てを掌握してしまった気がする。もし、あのス
 タートがあの様なもので無かったら、と考えるとチーバーのスタートに掛けた意気込
 みが伝わって来そうな気がする。
  2位を得たアピチェラは、安定したシャーシに支えられ上手く開幕戦を乗り切った
 という感じがする。とにかく安定感が印象に残った。3位には、サロが入った。ミ
 カ・ハッキネンと競った大物として来日して以来、一度6位でポイントを得た事があ
 るものの、今まで余りに成績が振るわなかっただけに、初の表彰台を得て、今後の暴
 れ具合が期待される。そして、4位には日本人最上位の服部がつけた。彼の大物たる
 所以は、ギリギリに決まったチームとセッティングの煮詰まっていないマシンでもこ
 の位置にちゃんといる辺りだと思う。ニューシャーシ94Dが彼の手に渡る2戦目以
 降が楽しみだ。その服部の後ろにつけたのは、5位に入った金石だ。レース終盤にも
 トップグループで最も速いタイムを刻むなど、もう少しレースが長ければ服部をもか
 わすか、と思わせる勢いを感じさせた。頼もしい限りだ。結局、13位に終わったス
 コットやリタイアした星野、光貞にしても次戦には新たな戦略で望んでくるこちだろ
 う。
  フィレンツェン、アーバインがF1に行き、不況のあおりで参加台数に一時はかな
 り不安のあったF3000シリーズも無事開幕戦を終えた。奇しくも「台数はちょっ
 と減っちゃいましたけど、レベルが下がったんじゃなくて、はっきり言って詰まりま
 したからね。そんなに簡単に勝てるレースじゃ無いですね」と4位に入賞した服部が
 言う。まさしく、その言葉通りのシリーズが今始まった。バトルはこれからだ。
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 ☆ 文中に使用しました周回数やタイムには、計時モニターに表示されたものを目視
  にて読み取りしたものが含まれておりますので、必ずしも公式の記録及び結果とは
  一致しない旨ご承知置きください。
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 《次回レポートの予定》
   Rd.2 Fuji  [ COSMO OIL International Formula Cup ] 1994.4.10
  次回は、第2戦の模様を富士スピードウエイからお送りする予定です。
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                        レポート/福田 陽一(NBG01300)


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