全日本F3000

F3000:レ-スレポ-ト Rd.10/フジ

   ■F3000 Race Report
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   INTERNATIONAL
   F3000 FUJI FINAL
                                1993/10/17
   FUJI
                1993 ALL JAPAN F3000 CHAMPIONSHIP ROUND 10
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   □“ニホンイチ”と言われる男
   Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
    「本当に苦しいね」日本一速い男と言われる彼は、レース前のインタビ
   ューにこう答えた。1点差で数人がひしめく、今シーズンの激しいポイント
   争いの決戦を目の前にして、彼がそう感じたとしても、当然のことかも知れ
   ない。ここで、ポイントを上げることがシリーズ・チャンピオンを得る最大
   の武器になるのは明白だった。それだけにかかるプレッシャーもすさまじい
   ものがあるだろう。
    ところが、彼はこの言葉をシリーズに関して求められたコメントとして
   言ったのではなかった。自らドライバーという職業の話に触れ、職業として
   ドライバーを捕らえ、自分の生きてきた人生を振り返って、冒頭の言葉を
   言ったのだ。
    レース前のコメントは総じて“弱気”に取れた。「作戦なんて無いよ、や
   るだけさ」という何時もの彼流の表現は聞けなかった。
    ところが、レースが始まってみると、彼は、レース前のコメントなんて全
   て嘘だった、と感じさせるほど勝利への執念を見せた。全てを自分の力で自
   分の方に向けさせようとする彼流の素晴らしい展開を見せてくれた。
    優勝のコメントを求められて、「勝ちから遠ざかっていたから、いろんな
   イライラも出たしね。チームの技術力に、ドライバーとして感謝していま
   す。見事ですよね。全てスタッフの勝利ですね」とチームをほめた。
    レース前のコメントとレース後のコメント。我々に語られる彼の言葉は、
   何かしら彼の心の奥の何かを訴えている様に思えてならない。最近、彼がよ
   く言う「もう少し身体を鍛えないとまずいね」という言葉も出ていた。
    「いつまでも出来ることじゃないから」
    僕たちは、表彰台の上で、嬉しそうにシャンパンを開ける彼の姿を見なが
   ら、日本一速い男と言われ続けてきた彼へのいろんな思いを巡らせ、複雑な
   思いを抱えて表彰台の勝利者インタビューを聞いていた。
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   ◇決勝レポート:「星野!得意の富士で、ポイントリーダーを奪取」
    シリーズの決着を果たすべく集まったエントラントを迎えたのは、富士特
   有の不安定な天候だった。決勝開始を直前に控えたコースを覆う“どんよ
   り”とした雲は、果して我々にどの様なドラマを見せてくれようとしている
   のだろうか。
    この「富士」を舞台に、残されたドラマ2幕の内の1幕が幕を開ける。予
   選順位を見るとチャンピオンシップを戦うドライバー達の闘志と意気込みが
   明らかに読み取れた。
    前回の鈴鹿で芸術的なロケット・スタートを見せ、みごと2位を得たアー
   バインが今回のポールシッターだ。インタビューに答える印象も余裕が感じ
   られた。
    予選2番手には、一発の速さが光るフィレンツェンがつける。そして、そ
   の後ろには、「あまり意識しすぎると」と言いながらも「ここでポイントが
   ほしいね」と本音をチラリと覗かせるポイント3位の星野がつく。
    現在ポイントリーダーのチーバーはこの星野の後ろで今回のポイントゲッ
   トにかける。そして、中谷、スコットを挟んで、ポイント4位を鈴木と分け
   るアピチェラが続く。その鈴木は17番手、路面のコンディション変化をあ
   げながら複雑な表情だった。
    関谷にかわり国際F3000チャレンジャー野田ドライブするトムス・レ
   イナードは23番手。「まだ、行ける、と思う。いいレースが出来るよ」と
   非常に表情も明るい。
    定刻どおりフォーメーションラップを終えたマシンが、それぞれのグリッ
   ドにマシンを止めた時、路面温度は天上を覆う不気味な雲の影響で下がりつ
   つあった。
    大混戦を予想させる今日のレースはスタート前に、余りにも惜しいプロ
   ローグを我々に与えることとなる。5番手と素晴らしい予選順位を引っ提げ
   てレースに望んだはずの中谷がスタート直前のグリッド上で、エンジンをス
   トールさせてスタート出来なくなってしまったのだ。これで、スタートは一
   端中断。オフィシャルは中谷のマシンを最後尾に移動させ、一周減算のレー
   スを発表した。
    これで、7番手のアピチェラは前が空き願ってもないチャンスを得たこと
   になる。正式スタートからほぼ10分遅れで各車がグリッド上に再びつく
   と、ドラマの第1幕が開く。そして、この第1幕は想像を絶した目まぐるし
   い戦いを繰り広げる。
    シグナルグリーンと同時に飛びだしたのは、やはりアーバインだった。ス
   ルスルと絶妙のスタートを見せた。続いて、数台が横一線に並ぶ様に第1
   コーナーまでの先陣争いをするが、この争いで一歩抜きに出たのは、3番手
   スタートの星野だった。2番手スタートのフィレンツェンは大きく遅れてし
   まった。
    星野に続いたのは、チーバー、スコット、アピチェラの第2軍勢だった。
   この3台はこのままオープニングラップを激戦で終え、2周目のホームスト
   レートを横一線で通過、インへアウトへと激しく動き、誰がトップで1コー
   ナーに飛び込んでも不思議のない状態を作りだした。ところが意外な事に、
   この3台の中で、最も勢いの劣るのがチーバーだった。結局、チーバーはア
   ピチェラ、スコットに遅れをとり、3周目には、勢いに乗るダニエルソンに
   もかわされ、大きくその順位を落とした。
    スタート同時に飛びだしたアーバインは、後方の攻防に忙しい星野をオー
   プニングラップで大きく離した。2周目にもこの傾向は大きく変わらかっ
   た。このままアーバインの独走というパターンも想像できた。ところが、今
   日の星野は違った。レース前の消極的な発言が嘘のように勝利への執念を燃
   やした。アーバインとて星野と僅か1ポイントという無いに等しいポイント
   差のチャンピオン争いをしているのだ、簡単に引き下がるわけはない。
    そして、機会は3周目にやってきた。星野は前の周までのアーバインとの
   間隔を嘘の様に詰め急接近を果たす。最終コーナーを真後ろにピッタリと
   くっついて立ち上がる星野とアーバインの姿をホームストレートの観客は総
   立ちで見送った。この第1幕のハイライト、チャンピオン候補どうしの直接
   対決の瞬間だった。
    そして、観客の見送る4周目の1コーナーで星野は実力でアーバインを先
   んじることに成功する。アーバインも星野もトップドライバーらしくフェア
   に戦い、その勝負をつけた。
    これでレースは先頭を星野にアーバイン、アピチェラ、スコット、ダニエ
   ルソン、フィレンツェン、チーバーの順となった。星野は、アーバイン以下
   を徐々に引き離しにかかる。後方では、今回から黒澤にかわりキャビンに乗
   り込んでいる金石が激しい動きを見せて積極的に上位進出を伺う。
    レースも10周目を迎えると「星野パターン」という言葉が久しぶりにあ
   ちこちで囁かれ始めたが、このまま星野に独走させまいとアーバイン以下も
   激しくアタックしてくる。
    まず、5番手のダニエルソンの後ろにいるスタートで順位を落としていた
   フィレンツェンがそうだ。7周目にダニエルソンの後ろからインに飛びだ
   し、ブレーキング競争に挑むがダニエルソンが巧みに進路を塞ぐ。限界まで
   攻め、守った2台があわや接触か、と思わせる接近戦だった。
    一方、原因不明のペースダウンで7番手まで順位を落としていたチーバー
   が今度はマルティニに攻めたてられている。マルティニは18番手からこの
   位置までポジションアップしている、この勢いでいくとチーバー攻略も時間
   の問題に見える。
    後方では、予選16番手と「利男パターン」を期待させる位置からスター
   トしていた鈴木は8周目にカーカッシをパスして11番手まで進出してく
   る。
    星野、アーバイン、アピチェラの上位陣は1分19秒前半を刻んでいる
   が、これと遜色の無いタイムを叩きだしているのが、この鈴木と鈴木と同じ
   く、富士では追い上げの楽しみな服部だ。服部も徐々にペースアップしてい
   る模様。
    そして、この混戦に一つの決着がつく。6番手のフィレンツェンのペース
   が再び落ち始めたのだ。12周目にチーバー、マルティニにまとめて先行さ
   れたのを皮切りに、その後ろで上位を狙って、星野とほぼ同じタイムを刻む
   鈴木と、12周目に鈴木に先行を許したものの真後ろに続く服部の射程距離
   に入ってしまったのだ。結局、フィレンツェンは14周目に鈴木に、15周
   目に服部にパスされズルズルと順位を落とし、16周目にはタイヤ交換のた
   めピットへ入り、この激しい戦線から離れた。予選2番手を生かせなかった
   フィレンツェンがこのレースに残したのは、タイヤ交換直後に叩きだした1
   分17秒台のファステストタイムだった。速さが生きないレースが続く。
    フィレンツェンの後退で再びポイント圏内に返り咲いたチーバーであった
   が、後ろのマルティニが意外にうるさい。マルティニは、15周目にホーム
   ストレートでチーバーのインに並びかけ、オーバーテイクを試みるが、今回
   もレスダウンフォース仕様と思われるチーバーを直線で交わすのはむりだっ
   た。1コーナーを守りきったチーバーだったが、この周のダンロップコー
   ナーでマルティニに先行を許すこととなってしまった。これで、チーバーは
   またもやポイント圏外に弾きだされたかに見えた。ところが、チーバーは次
   の周の1コーナーで再びマルティニを抜き返し、6番手に返り咲く。意地と
   テクニックが交錯した攻防戦だった。この後、チーバーは前半のペースダウ
   ンからは考えられないペースをアップを果たし、5番手のダニエルソンに急
   接近を果たす。
    レーススタートからずっとスコットを抜きあぐんでいたダニエルソンで
   あったが、チーバーが後方に迫ってきた事を知ってか、ここに来てスコット
   へのプッシュを本格化させ19周目にスコット攻略に成功する。
    スコットは、勢いに乗るダニエルソンを押さえ込む事にどれだけの精神力
   を注いでいたのだろうか。この後、スコットは緊張の糸が切れた様に20周
   目に速さの復活したチーバー、次の周には鈴木とマルティニにパスされて一
   気に順位を落とす。
    一方、スコットが落ちてダニエルソンが来たことを知ったアピチェラはア
   タックの時を見極める様に22周目のホームストレートでアーバインの後ろ
   につき、1コーナーを狙うがアーバインに抑えこまれる。アタックに失敗し
   たアピチェラにダニエルソンが急接近しプレッシャーをかける。一瞬たりと
   も気が抜けない状態が続く。
    レースも半分を過ぎると、星野の独走は決定的に見えた。それでも何かが
   起これば分からない。星野から大きく離れてはいるが、アーバイン、アピ
   チェラ、ダニエルソン、チーバー、鈴木までが等間隔でひしめきあう。この
   中でシリーズチャンプに関係無いと思われるのは、ダニエルソンのみ。現在
   ポイントトップのチーバー、アーバイン、星野、アピチェラ、鈴木と全ての
   ドライバーが数秒の中で先を急ぐ。自らの力で勝ち取る事が出来るポイン
   ト。ここで勝てばリーダーに踊り出ることが出来る。もし駄目なら、チャン
   ピオン候補から外れることだってあるのだ。緊迫した状態でレースは、後半
   を迎える。
    この緊迫した状態で最初にアタックをかけて来たのは、やはり鈴木だっ
   た。27周目にチーバーの真後ろに滑り込むとそのまま機会を伺って周回す
   る。そして、ホームストレートでインに抜け出すとブレーキング競争に挑
   む。ほとんど速度差の感じられない2台はそのまま1コーナー進入を迎える
   が、チーバーは鈴木の為にマシン一台分だけインにラインを空けてアウト側
   を並走する。鈴木もある程度突っ込んだところで、チーバーを先行させる。
   ポイントがかかった重要な攻防だった。そんな緊迫した状態でふたりのプロ
   フェッショナルの「本当のプロフェッショナル競い合い」を見たような気が
   した。決して相手を傷つける事なく自分のポジションを得ようとする彼らに
   本当に魅せられた。結局、この戦いは鈴木が29周目にチーバーをパスして
   決着する。
    レースも残り10周を切るとこのままレースを終わることの出来ないドラ
   イバー達のアタックが開始される。レース後「アーバインがしつこく来るし
   ね」と星野がいう様に、星野との間隔を大きく開いていたアーバインがここ
   に来て間隔をつめてくる。のこり数周でどこまでつめ詰められるか。
    一方、追い上げを確実に順位に反映させていたダニエルソンが、ついに
   38周目、アピチェラをパスして、長い攻防戦に“けり”をつけてり表彰台
   を得た。
    もうひとり“けり”をつけたのは、マルティニだ。鈴木に先行を許して6
   番手のポイント圏ギリギリのチーバーを36周目にくだし、序盤から続いた
   長い戦い終止符を打ち、チーバーは貴重なポイントを失う。
    また後方では、ズルズル順位を落としていたスコットを取り囲むように8
   番手の金石を先頭に野田、服部が争いを激化させている。なかでも金石、野
   田が勢いを持って上位を狙っているという状況で、服部は既に序盤の速さを
   失っておりこの戦いについて行くのがやっとという様相だ。そして、この戦
   いも42周目に野田がダンロップコーナーでスピンする事によって終結して
   しまう。野田の悔しそうな仕草が印象的だった。
    終わってみると、アーバインを4周目にパスした星野の勢いと最後まで耐
   え抜いた精神力。ダニエルソン、鈴木のすさまじい追い上げ。マルティニと
   チーバーの攻防戦。チーバーと鈴木の感動的なバトル。金石、野田の若い走
   り。フィレンツェンのファステストラップ。全てが記憶に残る爽やかなレー
   スだった。
    そして、星野が表彰台の中央にいた。ポイントでも32ポイントを獲得し
   てトップに立った。「追いつけなかった」という、アーバインは2位で星野
   にシャンパンを浴びせる役に甘んじなければならなかった。シリーズポイン
   トでは、2ポイント差でその星野を追う。3位表彰台には、最も確実に速さ
   を表現した男、ダニエルソンが立つ。
    4位にはアピチェラが、5位には鈴木がつけ、それぞれポイントを上げた
   が、鈴木は今回の5位で総合22ポイントとし、星野から10ポイント離
   れ、残念ながらチャンピオン候補から外れてしまった。
    まずは、星野が一歩リードし、鈴木がその戦線を外れた。今わかっている
   のは、ただそれだけだ。
    決戦は、鈴鹿。第2幕は星野、アーバイン、チーバー、アピチェラがその
   幕を開ける。4人で開けた幕を閉じるのはいったい誰か。
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   * 文中に使用しました周回数にはリーダー・ボードまたはシグナルタワ
    ーに表示されたものに1周回加算したもの、また、タイムには手元(ス
    トップウォッチ)計測または計時モニターに表示されたものを目視にて
    読み取り表記したものも含まれておりますので、必ずしも公式の記録及
    び結果とは一致しない旨ご承知置き下さい。
   * 取材場所/富士スピードウェイ(静岡)
   * 次回レポートは、第11戦(第9戦)鈴鹿サーキット(11/14)を予定
    しています。
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         1993 - INTERNATIONAL F3000 FUJI FINAL - FUJI
            レポート/福田 陽一(NBG01300)


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