全日本GT選手権

GTインサイドレポート Rd.3/6

                    AUTOBACS CUP ALL JAPAN GT CAR CHAMPIONSHIP
                       1998  GT INSIDE REPORT
   Round 3 Hi-land GT Championship                              28 June '98
   Special Report                 特別レポート1                FMOTOR4版
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'98AUTOBACS CUP GTC第3戦 ハイランドGT選手権レース(6/27,28)

緊急特集『レースの安全性を考える』

◎はじめに
 1998年全日本GT選手権第2戦「全日本富士GTレース」のフォーメーションラップ
中に起こった多重クラッシュは、GTCに携わる人々のみならず、広く多くの人たちの
関心を集めたと言える。これは事故に遭った負傷者の深刻さだけでなく、この事故
自体に日本のモータースポーツが抱える内在的な問題点が集約されていると、多く
の関係者が考えたからだろう。
 レースに関係する人々の多くが言うように、モータースポーツとは本来数多くの
危険が存在するものであると同時に、安全に行われることを前提に競技され運営さ
れなければならないものである。にも関わらずこれまで事故が起きており、かつそ
の経験が教訓として活かされていない現状がある。今回のレポートは、こうした現
状を関係者がどう受けとめているか、どう変えていこうと考えているかを集約した
ものである。第2戦の事故の原因究明や状況分析を意図しているものではない。
 GTインサイドレポートは、本来GTCを訪れるプレス・サービスを基本とするもの
で、GTCの話題の1次ソースという意図を持って編集されている。しかし、このレ
ポートに関しては、通常より幅広い方々からコメントを集め、プレスのみならず、
レースに携わる人々すべてへのメッセージとして作成した。そして、今回(第3戦
仙台)に限らず、このテーマに関しては、今後も継続的に取材を行い、引き続きレ
ポートして行く予定である。
 また、GT-Aより提供された多数のアンケート回答に関しては、すべてを掲載する
スペースがなく、少しでも読みやすくするため、私どもで編集を行ったものである
ことをお断りしておく。

                                                  GTインサイドレポート班


◎太田哲也選手の現況
兼子眞チームFCJ監督「当初72時間しか生命の保証はできないと言われた状況から、
4~5時間にも及ぶ手術を6回受けて、どうにか命だけは助かりました。身体の皮膚移
植は7割が終了しましたが、あと3割、細かい部分についてはこれから進めなければ
なりません。顔の損傷が激しく、治療はしておりますが、整形は今後の問題です。
まぶたは、1ヶ月あまり縫い合わせてあり、当人は暗闇のなかでの闘病生活を強い
られていました。現在では一部分だけ開き、薄目を開けて回りの状況を少し感じら
れる状態になっています。足は、左足はなんとか立てる状態ですが、右足は挫滅を
受けています。完治にはそうとうの困難が伴うと思われます。右手の機能回復にも、
かなりきびしいリハビリが必要でしょう。こうした身体的ダメージのために、本人
はかなり精神的にまいっていますが、みなさんからインターネット等で寄せられた
応援メッセージを支えに頑張っています。どうか、これからも応援をよろしくお願
いします」


◎GT-A事務局長 加治次郎氏に聞く
第2戦富士での事故を、GTアソシエイションはどのように受け止め、また現在何を
行い、今後このような事故や危険に対し、どのような対策を行っているのかをGTア
ソシエイションの事務局長である加治次郎氏に尋ねた。(インタビューは6月26日
午前に行われたもの)

-GT-Aとして、第2戦富士での事故の原因究明は行っているのですか? また、こ
の事故をどうとらえているのでしょうか?
事務局長(以下同)「個々の事故の原因を究明する事は、我々のすべき仕事ではない
と思います。それよりも『今後こういうことが起こらないように何が出来るか』と
いうことが、本来の仕事だと考えます。また、現在論議されている原因に関しても、
あくまでそれぞれの立場での推測の域を出るものではないと思います。そんなに事
実がたくさんあるわけではなく、起こった事実は1つなんだと思います。この事実
を確定させることは誰かがしなくてはならないと思いますが、これはJAFが競技を
統括しているわけですから、そこはJAFの仕事なんだと思います。ですから、その件
はJAFが設置したレース安全対策検討会に期待し、GT-Aとしてはこれに協力をしてい
き、その報告を受けて今後こういう事故が起こらないようGT-A会員それぞれの立場
で改善への行動をしてもらえるようにリーダーシップを発揮したいと考えます」

-では、GT-Aは現在、事故対策の努力としてどのような行動を起こしているのです
か?
「GT-Aには、各エントラントだけでなく主催団体、サーキットなどレース・イベン
トを支える幅広い職種の会員がいます。また、エントラントの中にもオーナー、ド
ライバー、メカニック、スポンサーなど多くの人がいますから、その個々がそれぞ
れの立場、視点で今回の事故を、そしてGTCに限らず過去の事故も含めて、ですが
思うところがいろいろあると思います。そこで、そのような広い視点で問題提起、
改善提案をしてもらえるように、『'98JGTC第2戦の事故を教訓とした今後の安全
対策に関するアンケート』というアンケートを実施しました。これは評論家のよう
に起こってしまったことを分析するのではなく、自分たちが携わっているもの中で
の出来事として捉え、その上で自分たちの行動の反省材料として、今後まずは事故
が起こらないよう、不幸にも起こってしまったらどう行動・対処していくかを考え
るためのものです。これにJAFが行っている事故原因の究明と対策とをあわせて、今
後の自分たちのためになる対策、改善をしてもらえるコンディション作りをしよう
と考えています。今そういう下地作りを始めたところです」

-今はまだ、そのアンケート以外は具体的な行動には移されていないわけですね?
「事故の原因というのは1つでなく複雑に絡んでいるのは、お解りかと思います。
先に説明したとおり、仮定の段階である今その個々を突き詰めていくことはそこに
軋轢を生じさせるだけだと思います。また、深く論議をするにはある程度テーマを
絞って行う必要があります。ですので、まずは先のJAFによる事実関係の報告を待
ち、それが出たときにレースに携わるみんなが、他の人を非難するのではなく自分
のこととして、何が出来るのかを考えて行動できるようにしたい。現段階では、ま
ずその準備をすべきだと考えています」

-そのアンケートですが、現在どのような状況になっているのですか?
「6月26日の時点で、GT-A会員の38エントラント中の35チームから、主催者等8団
体中6団体より回答がありました。これは1団体1つの回答ではなく、ドライバー、
オフィシャル、チーム関係者、レース関係者と幅広い個人からの回答になっており、
総回答数は150件を超えています。事務局では、これからこれを取りまとめる予定
で、一部抜粋はこの第3戦仙台のGTインサイドレポートで紹介されます」

-先ほどそのアンケートの一部を拝見しましたが、エントラントやドライバーと主
催者、オフィシャルなど立場や利害によって意見の対立や偏った問題点の指摘など
もあるようですが、こういったGT-A会員の幅広さによる対立も見受けられますが?
「確かに目前の事だけを考えていれば、そういうことも考えられますが、レースで
大きな事故があってレースが出来なくなれば、そんな利害など意味がありません。
我々はJGTCというひとつのレース・イベントを成立させることが目的であり、あく
までも安全にスポーツとしての競技が出来なければいけないわけです。例えば、そ
のために施設の改善が必要だとしても、経済的な問題もあるでしょうから何でも無
限に出来るわけはない。では、そこに関わっているすべての人が、何が出来て何が
出来ないかということを分かり合いながら、解決していかなければならないと思い
ます。
 オフィシャルの立場の改善に関しては、これはJGTCを設立したときからの課題の
1つになっていながら何も手が着いていません。私自身は今回の事故の反省として
考えている事項です。これは、オフィシャルが競技をコンダクトしているわけで、
他のスポーツで言えば"審判"なわけです。ですから、もっと審判員としての権威が
あり、ジャッジの絶対性を持っていただけるような環境を作る必要があると考えて
います。現状では、事実上ボランティアでやっていただいてるわけで、これを支え
るには一般の観客が見ても『カッコイイからオフィシャルをやりたい』という環境
にならないとダメなわけです。この辺が海外などとの差になってるとも思いますね。
また、エントラントには技術的レベルの問題で、オフィシャルを審判として信じら
れないと言う意見もありますが、これを言うとタマゴが先かニワトリが先かという
ことになってしまいす。私としては、まず審判として信頼すべきだと思います。事
故にしてもオフィシャルだけの責任ではないと考えられることが、ひいてはレス
キューやジャッジの正確さ、早さに繋がる動きのひとつになっていくのだと考えま
す」

-アンケートの中にはGT-Aが専門のオフィシャルを持つべきだという意見もありま
すが、将来的にはそこまで考えられているのでしょうか?
「海外にはそういう事例もありますから、それも一理あると思います。ただ、サー
キットはそれぞれに環境も違いますし、設備も違いますからサーキットごとにオフ
ィシャルがいことは別に不合理なわけではありません。ですから、シリーズ戦専任
のオフィシャルが良いと言い切れる状況ではないと思います。ただ、参加チームに
してみれば常に同じ競技長なりオフィシャルが同じようにジャッジしてくれれば、
安心感があることは確かでしょう。ですから、今回の事故を契機にそういった点も
論議してくれればと思います。そして、それが安全を確保できて、しかもこのレー
ス・イベントを良くしていけるなら採用したいですね。ですが、一方でボランティ
アで参加してくれているオフィシャルがいなければ、モータースポーツは成り立っ
ていかない部分もあります。ですから、その人たちのやる気を高めて大切にしてい
くということも忘れてはいけないと思います。こういうことは一方から見ていても
ダメなわけで、みんなが分かり合いながらどういう形がいいかを探っていかなくて
はと思います」

-ドライバーの側にも問題点が多いという記述も多く見受けられますが?
「GTCもこれだけ続いてきまして、一定の秩序が出来てきています。また2クラス
の混走というGTC独自の状況もあるわけです。そこでドライバーとしては安心して
走りたいことから、自分の知らないドライバーが入ってくることをいやがる声があ
ることは事実です。一方で、モータースポーツは参加できる間口の広さもひとつの
良さでもあるわけです。ただ、スポーツである以上、必要なレギュレーションは熟
知してもらいたいです。レースの前に基本的なルールの確認などということをして
いるようでは、野球やサッカーといったトップスポーツと較べて恥ずかしいことで
す。そういった基本事項の再確認にドライバーズ・ブリーフィングの時間を使うの
ではなく、その日の天候などの状況の確認やサーキットの特性などを確認すること
で事故の確率を大きく減らせると思うのです。これは新しいドライバーに限ったこ
とではなく、トップ・ドライバーと言われる人の中にも競技規則をちゃんと理解し
ているとは思えない人も残念ながらいます。この点も今回の反省点のひとつだと思
います。ただ、今そういう人たちが危ないから制限すべきというのは、早計だと思
います。ですが、よりレベルの高い競技を行うようになれば、競技者のレベルは必
然的に上がって、技量の足りない人は淘汰されることになる。そういうシステムを
どう構築するか、また混在するならどうすればいいのか、それともそれはいけない
ことなのかに決着をつけるべく、真剣に検討する時期にあるように思います。ただ、
今いきなり結論を出すのは早急すぎるでしょう」

-また、一部ではGT-Aも含め主催者の利益優先から、悪コンディションでの無理な
開催や危険の高いピットへ入れるゲスト数が多くなっている事への批判もあります
が?
「確かに私たちもピットに入るゲストの数が増えていて、事故に巻き込まれること
には不安を感じています。しかし、スポンサーへの配慮や経済的側面からおのおの
に事情があるとは思います。これは各エントラントで十分注意し、ゲストに対して
も安全事項を徹底するようにしてもらいたいです。またゲストだけでなく、エント
ラントにもピット内での喫煙など安全への配慮を欠いた行為があることも非常に危
惧しています。しかし、これをオフィシャルが注意するとか、誰かが監視するとい
うのではなく、我々が自覚を持って考えねばいけないと思います。
 悪コンディションでのレース開催に関しては、GT-Aからその可否を訴えることは
ありません。基本的にはレース・イベントとというものは予選まで終了すれば、そ
の時点でほとんどのコストは掛かってしまっているんです。これはエントラントで
も同じことでしょう。観客だってレースを見たいと思って待っているわけですし。
そういった全体のことを考えて出来るだけの事をしたいとは考えていると思います。
事情を知らないメディアや観客のみなさんは主催者側の都合でゴリ押ししていると
お感じのようですが、決してそういうわけではないんですよ。見方によっても第2
戦の事故であっても、安全な状況を探りながら行った結果であると思います。対立
的な立場というのではなく、それぞれの立場でお互いの立場を分かり合いながら努
力していると思います。そうであるからこそ、レースの中止が決まったときに、あ
あいう状態の中でエントラントのみなさんにすすんで協力していただいて、観客に
ご挨拶する意味でデモ周回を行えたと考えています。決して一方的に誰かが利益だ
けを考えて行っているというわけではないことは、誤解をされないでいただきたい
と思います」

-今回の事故に対するメディアの報道にはどうお感じでしょうか?
「モータースポーツを報道するメディアのみなさんも、これもレースの世界を構成
する一員だと私は考えています。ですから、メディアのみなさんにも我々と同じよ
うに考えていただければと思います。今回のように大きな事故が起こると、事象の
特異性や事故現場や負傷者のケガの具合などショッキングな状況だけをクローズアッ
プして報道することは、レースに対するマイナス・イメージを広めることにもなる
と思います。これにより、『レース=危険』というイメージを固定化してしまうこ
とになり、結果レース・イベントが衰退することになってしまいます。これはメデ
ィアにとっても本意ではないでしょう。私としては、必ずしもすべてを書くことだ
けが正しいことではないと思います。そういう意味でもメディアのみなさんにも今
回を契機に、メディアとしての役割をそれぞれ熟考をしていただきたいと考えます」



◎JAFモータースポーツ局に聞く
「昨年10月のF3での事故をきっかけに、JAF内部にレース安全対策検討会を発足さ
せました。この会はJAFの安全部会とレース部会から、両部会長以下のメンバーを
ピックアップしたメンバーで構成しています。会合は昨年中に1回、年が明けてか
ら数回開かれています。ここで、レースの安全性について、ハードの面と、規則の
運用などソフトの面、両面についての話し合いをしました。ちょうどその矢先に先
日のGTCでの起こったものですから、あらためて会合を開き、さらに対策を検討し
ています。その結果、ローリングスタートの手順についてのブルテンを先日出しま
した。検討会としての最終的な結論というものは、GTCの件についてもF3の件につ
いてもまだまとめきれていませんので、今後も随時会合を開いていくことになりま
す。現在まで検討会で話し合われたことの具体的な内容については、まだ結論をま
とめきれていない段階ですので、公表は控えさせていただきたいと思います。最終
的な結論がまとまった段階でどういうかたちで発表するかは現在検討中です」

 ■レース安全対策検討会メンバー
 大橋孝至 (安全部会長)        鈴木修二 (レース部会長)
 山口義則 (安全部会副部会長)     水野雅男 (レース部会副部会長)
 関谷正徳 (安全部会委員)       木村芳郎 (レース部会委員)
 鈴木隆史 (安全部会委員)       長谷見昌弘(レース部会委員)
 村井正夫 (安全部会委員)


*スペシャルレポート2に続く

                       GTアソシエイション事務局
                         GTインサイドレポート班
                        古屋 知幸 = QYB04322 =


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