全日本F3000

F3000:レ-スレポ-ト Rd.4/スズカ

   ■F3000 Race Report
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   MILLION CARD CUP RACE
   Round2 SUZUKA
                                1993/5/23
   SUZUKA
                1993 ALL JAPAN F3000 CHAMPIONSHIP ROUND 4
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   □素晴らしき闘志
   Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
    ひとりのドライバーが、コースを駆け抜ける。2週間前のあの出来事を乗
   り越える為に。
    レース前、彼は美祢の最終コーナーで起こったクラッシュの影響について
   「萎縮しちゃうとね。自分との喧嘩ですね」と精神的に自らを追い込んでい
   る様を表わしたコメントを残した。
    その彼の首から肩にかけては、万一に備えたテーピングがされていた。
    レースは、まさに精神戦だった。彼は、ポールポジションから終始レース
   をリードし続けるアーバインに置いて行かれまいと、途切れそうになる精神
   を支える為、必死に自らの身体に鞭打つ。アーバインは、常に彼の様子を伺
   いながら、自らの完璧なレース運びを展開していった。彼は、2位を維持す
   ることをよしとせず、刻々と変化するアーバインとのタイム差で我々に、自
   らの戦う様を見せてくれた。
    戦いの終わった時、彼は「車はトップをとれる力あるんだよね。だけど、
   自分の体力の負けでね。凄く反省しています。次回は、徹底的に身体作って
   くるつもりでね。言い訳は言いたくないし」と悔しそうに語りながら、「こ
   れで終わり」と自身に言い聞かせるように、インタビューを打ち切った。
    スタートからゴールまで、先頭争いをした2人には何一つ起こらなかった
   と見えるかも知れないが、モーターレーシングが、いったいどういうスポー
   ツなのかをまさに実感できる戦いだったと思う。この素晴らしき闘志を我々
   に見せてくれた彼の次回のレースに期待したい。
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   ◇決勝レポート:「アーバイン!念願の鈴鹿を制する」
    グリッド上に整列を済ませたマシンを見下ろす空は、昨日の雨の予選を思
   い出させる様にどんよりとして、明るくはならなかった。午前中、サーキッ
   トを覆った空と風は5月のこの季節にピッタリの爽やかなものだった。そし
   て、いつもなら、気温はそののまま上がり、観客席を覆うのだった。ところ
   が、今回は少し様子が違っていた。決勝時間が迫るにしたがって、風が最終
   コーナーから1コーナーに向かって強く吹き、空の機嫌の悪さも手伝って、
   レースそのものに重大な影響を与える、路面温度を下げていく。
    午後1時30分、予定どおりフォーメーションラップ開始のため、各車に
   火が入る。この時刻になると、風はますます強く、嵐を思わせるほど強く
   ホームストレートを駆け抜ける。気温は22度、路面温度26度と低い。
    波乱を予感させる天候であったが、波乱は天候のみに、とどままらなかっ
   た。コース上で、予選4番手のマルティニ、予選13番手の影山、その後ろ
   14番手の黒澤、さらに、19番手の服部とエンジンが始動できない選手が
   続出してしまったのだ。
    ただ、この4台のうち、黒澤だけは何とかエンジンスタートに成功したよ
   うだ。残りの3台をオフィシャルが黄旗で制止する中、フォーメーション
   ラップが開始された。制止が解かれると3台は押しがけでエンジンスタート
   を果たし、フォーメーションの最後尾につく。
    シグナルがグリーンになりレースがスタートされ、第1コーナーに真先に
   飛び込んだのは、前回の美祢に続き、ポールポジションを獲得したアーバイ
   ンだった。アーバインは昨年スタートに失敗することが多かったが、今年は
   そんなことを忘れさせるほどの絶妙なスタートが光る。今回も、他を寄せつ
   けないロケットダッシュを見せ、まんまと1コーナーを得た。
    その好調のアーバインに続いたのは、前回の美祢で起こしたクラッシュの
   影響が心配される星野だった。星野も素晴らしいスタートを決め、予選2番
   手を守った。もうひとり絶妙なスタートを決めたのは、5番手のダニエルソ
   ンだった。ダニエルソンはスタートと同時に、4番手のマルティニが後方ス
   タートとなって、開いた右に飛びだした。そこは予選3番手のフィレンツェ
   ンも読んでいたのか、すかさず牽制に入る。このフィレンツェンを見てアウ
   ト側に大きくラインを外すダニエルソン。この攻防に競り勝ったダニエルソ
   ンは3番手という好ポジションを得る。
    上位のスタートに大きな混乱は見られなかったものの、後方集団は1コー
   ナーでアクシデントを生む。まず、1コーナーに進入しようとしたカーカッ
   シが白煙を上げる。この時、おそらくタイヤをロックさせて、コントロール
   を失ったカーカッシが前の黒澤に接触したのだろう。黒澤はコースを大きく
   横切るかたちでイン側にコースアウトする。その際、ミカ・サロのノーズを
   ヒットする。このアクシデントで、即リタイアとはならなかったものの、ミ
   カ・サロは2周目、黒澤は3周目にピットへ入りそれぞれノーズを交換す
   る。
    オープニングラップの西コースを通過していた集団は、早くもバトルを開
   始しつつあった。スタートで、ダニエルソンに先を越されてしまったフィレ
   ンツェンに、鈴木が接近戦を挑んでいた。フィレンツェンにピッタリくっつ
   いた鈴木は、まさに理想のかたちで、最終コーナーを立ち上がる。定石どお
   りホームストレートで、インサイドに飛びだした鈴木は、フィレンツェンを
   1コーナーまでに先行。これで決着がついたかと思わせたが、なんとフィレ
   ンツェンは鈴木のアウト側を並走するかたちで1コーナーに進入する。フィ
   レンツェンの意地と鈴木の意地がぶつかりあった瞬間だった。残念ながら、
   鈴鹿の1コーナーから2コーナーは、この状態で通過できるコーナーではな
   かった。そのことを鈴木は良く知っていたのだろう。この危険なバトルを我
   慢した鈴木は、フィレンツェンがオーバースピードでアウト側にラインを移
   し始めると、一気に抜き去ることに成功する。
    このバトルで、アーバイン、星野、ダニエルソンに続く4番手を得た鈴木
   は、今度は3番手を狙って、ダニエルソンに接近する。そして、3周目のヘ
   アピンで早くも射程距離内にダニエルソンを収めた。鈴木は次の130Rで
   うまくインをとり、スタートで好位置を得たダニエルソンをあっさりとかわ
   し、3番手にその順位を上げる。
    一方、アーバインを追う星野は、1分51秒469のファステストラップ
   を叩きだし、アーバインのタイムを僅かに上回る。
    同じころ、アクシデントも続々と発生する。和田久が1コーナーのグラベ
   ルベットにつかまって脱出不能に、関谷が右ウイングを壊してピットへ入
   り、共にマシンを降りてしまう。混乱はこれで終わったわけではなかった。
   “落とし穴”は、あちらこちらにあったのだ。
    3番手を得て、今度は星野を追いかけていた鈴木が、その“落とし穴”に
   落ちてしまった。星野に急接近を果していた4周目になんと、シケインの進
   入でスピン、ノーズを進行方向とは逆に向けて、ピクリとも動けなくなって
   しまったのだ。
    鈴木は、僅か4周でコースを去る。そのずば抜けた速さが結果に結びつか
   ない不幸が彼を開放するのは、いったい、いつになるのだろうか。
    この鈴木のリタイアで、アーバイン、星野の先行は更に揺るがないものと
   なった様に見えた。この2台に続くのは、ダニエルソンを先頭にフィレン
   ツェン、スコット、アピチェラ、ラッツェンバーガー、チーバーの順。そし
   て、スタートで最後尾スタートを余儀なくされていた、マルティニが4周目
   には、早くもチーバーの後ろ9番手に上がって来る。同じ、最後尾スタート
   となった影山も上位と同等のタイムを刻んで、マルティニに続く10番手で
   上位を狙っている。既に、上位は1分49秒台を刻みはじめている。
    この2番手集団の中で、フィレンツェンがスコットに追い立てられてい
   る。スコットは、様子を伺っていたフィレンツェンを8周目の130Rの進
   入で料理しようとするが、フィレンツェンは、なんとか押さえ込む。スコッ
   トも無理せず一旦引こうとするが、そのスコットをアピチェラが攻める。そ
   のアピチェラを後ろからラッツェンバーガーが狙う。一瞬の隙も与えられな
   い緊迫したこのシリーズを象徴するようなバトルが繰り返される。
    この緊迫したグループの戦いは、11周目にフィレンツェンが、スコッ
   ト、アピチェラにパスされたことによって一旦決着する。以降、フィレン
   ツェンはズルズルと順位をさげていく。
    一方、その後方で、チーバーを攻めたてていた、マルティニも思うように
   タイムアップが図れず、前回の美祢の負傷が完全に癒えないチーバーに押さ
   え込まれている。逆に、後ろの影山に追いつかれているほどだ。
    フィレンツェン、マルティニとニューローラの低迷は、いまだ続いている
   のだろうか。
    レースが中盤を迎えると、アーバインの独走は決定的なものとなっていっ
   た。一方、そのアーバインを追うはずの星野はいまひとつアーバインを捉え
   きれず、逆に後ろのダニエルソンにジワジワ迫られる場面もしばしばだっ
   た。
    その中盤に、14周目辺りから更に激化していたチーバー、マルティニ、
   影山のバトルに決着がつく。マルティニはチーバーを攻めようとするが、
   チーバーは直線スピードが格別に速く、マルティニを寄せつけない。一方、
   影山は、その辛そうなマルティニをピッタリマークして隙を伺っている。そ
   んなバトルのさなかの17周目、「突然、エンジンが止まった」とマルティ
   ニ自身が言うように、マルティニがシケインにマシンを止めてしまったの
   だ。多くの有力ドライバーが消えていく。
    同じ頃、スタート直後に絡んだ、この2人にも異変が起こっていた。16
   周目に黒澤がピットへ飛び込む。タイヤを4本とも交換してコースに復帰す
   るが、かなりのタイムロスを負う。一方、ミカ・サロは、18周目に2コー
   ナーでスピン。惜しくもリタイアとなった。一度掛け違えたボタンは最後ま
   で、戻ることはなかった。
    そして、各所で局地的に発生するバトルは、終盤に向けて何らかの結果を
   求め激化していく。
    まずは、スコットの後ろでレース前半をしのいだ、アピチェラが20周目
   を迎えて、ついに動きだした。スコットもアピチェラの動きを察知して、タ
   イムアップを図り、この2人は1分49秒台に突入する高速バトルをコー
   ナーの各所で展開してみせた。この高速バトルはその状態のまま、ダニエル
   ソンに接近する。
    その後ろでは、影山がチーバーを攻めている。ところが、こちらはあっさ
   りと決着してしまう。20周目にチーバーが明らかに遅い、1分57秒33
   7を記録して一気にポジションを落としてしまったのだ。これで、影山は順
   位を8位に上げる。ところが、その影山をアクシデントが襲う。勢いの落ち
   ているフィレンツェンをパスしょうと果敢にアタックしていた、26周目の
   シケインで、スピンしてしまったのだ。その上、コースのイン側を僅かに開
   けて、コースをふさぐ危険な状態を生む。
    バトルは下位にだけ起こっていたわけではなかった。アーバインと星野の
   タイム差を観察していると、アーバインは星野の動きを常にチェックしてい
   ることが分かる。星野がタイムアップを果たすと、アーバインは、すかさず
   タイムアップしてくるのだ。星野は前回の後遺症に悩まされているのだろう
   か。アーバインの余裕の走りとは、対称的に星野の必死の追撃が目をひく。
    30周目を迎えたころ、星野、ダニエルソン、スコットがほぼ同時にペー
   スアップを図ってくる。まさに最後の賭という様相だ。
    最後のアタックに出た、スコットが31周目に1分48秒956という目
   を見張る速さで、ダニエルソンにグングン接近する。ダニエルソンも踏ん
   張って、1分49秒641で対抗する。この戦いは結局このまま、ダニエル
   ソンが表彰台を守りきって終結する。
    そして、長いバトルを終え、レースはチェッカーとなった。その時、空を
   見上げると、曇り空は依然、機嫌を損ねたままだった。
    スタートに失敗することの多かったアーバインが、念願の鈴鹿を制した。
   これで、シリーズは4人目の勝者を生んだ。開幕戦を独走で制したチー
   バー、富士を粘り抜いて勝ち取った星野、雨の美祢を巧みに攻め、守ったマ
   ルティニ、そして、今回、鈴鹿をとったアーバイン。
    依然シリーズは、今回2位に入った星野が、2番手につけるアーバインを
   4ポイント離して、リードしている。今回、ガマンにガマンを重ね得た星野
   のこの6ポイントがシリーズにどの様に影響するのか、興味あるところだ。
    今、シリーズの戦いはまだ始まったばかりだ。4人のチャンピオン候補を
   襲う5人目はいったい誰なのか。その候補者は、まだまだいるはずだ。
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   * 文中に使用しました周回数にはリーダー・ボードまたはシグナルタワ
    ーに表示されたものに1周回加算したもの、また、タイムには手元(ス
    トップウォッチ)計測または計時モニターに表示されたものを目視にて
    読み取り表記したものも含まれておりますので、必ずしも公式の記録及
    び結果とは一致しない旨ご承知置き下さい。
   * 取材場所/鈴鹿サーキット(三重)
   * 次回レポートは、第7戦富士スピードウエイ(8/15)を予定してい
    ます。なお、「第7戦」の表記は、第5戦が予定どおり開催された場合
    の表記となります。
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        1993 - MILLION CARD CUP RACE Round2 SUZUKA - SUZUKA
            レポート/福田 陽一(NBG01300)


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