全日本F3000

F3000-Rd2:富士決勝レースリポート

★全日本F3000選手権第2戦:富士スピードウェイ:決勝レースリポート
●カーカッシ、大波乱のサバイバルレースで初優勝
 4月12日、富士スピードウェイで開催された全日本F3000選手権シリーズ第2
戦「'92CABINインターナショナル・フォーミュラ・カップ・レース」は、
スタート前に降り始めた雨が波乱を巻き起こし、上位陣が次々と脱落する中、予
選7番手からスタートした91年の全日本F3チャンピオン、パウロ・カーカッシ
が、執拗に攻めるトーマス・ダニエルソンを最後まで抑えきり、F3000初優勝を
飾った。
●チーバー、バイドラーに無情の雨
 今回のレースから、今年から適用されるFISAの安全基準に適合しない昨年
までのマシンは使用できなくなり、すべてのチームが92年型のマシンで富士スピ
ードウェイに乗り込んだ。しかし、タイヤテスト、金曜日のフリー走行などが雨
にたたられ、レース距離を走りきったチームは少なく、データが完全でないこと
から、決勝レースでは波乱が予想されていた。
 そんな中で気を吐いていたのがポールポジションを獲得したロス・チーバー。
彼は第1戦から92年型のレイナード・無限を投入。一足先にセッティングを煮詰
め、予選でもトップ、決勝前のモーニングプラクティスでも2番手につけていた。
朝の走行でトップに立ったのが予選3位のフォルカー・バイドラー(ローラ・無
限)。第1戦では、マシントラブルを抱えながらも3位に入っており、以前の荒
い走行から、スムーズな日本のコース向きの走法に変わり、昨年から安定性を増
している。そして、この朝のトップ2台が、スタート直後に消えることになった。
 スタート前のフォーメーションラップあたりから雨が落ち始め、黒沢琢弥のよ
うにスピンする選手も出るほど(黒沢はスタートに間に合った)。全車、ドライ
用のスリックを履いてのスタートとなったが、このスタートで、フロントロー外
側につけていたエディ・アーバイン(ローラ・無限)がホイールスピンで出遅れ
る。ポールのチーバーは、うまいスタートでトップのまま第1コーナーへ。それ
をバイドラーが追いかけ、1コーナーでチーバーを追い抜きにかかる。しかし、
濡れた路面にタイヤをとられてチーバーがスピン。それを避けようとしてバイド
ラーもコースアウト。2台ともグラベルベッドの餌食となって、ここでリタイア
となった。
 このふたりのスピンをかわそうとした服部尚貴(ローラ・無限)が、グラベル
の飛び出して砂塵を巻き上げる。服部はノーズを傷めてピットイン、チーバーの
マシンのノーズコーンを借りて装着、コースに復帰するが大きく遅れてしまう。
 この第1コーナーの波乱を避けてトップに立ったのが、昨年後半から好調な鈴
木利男(ローラ・DFV)。昨年来、好調に上位を走りながらもクラッシュ、ト
ラブルなどに巻き込まれて運がない。その直後には日産のグループA、Cでコン
ビを組む星野一義(レイナード・無限)が続く。星野は、全日本F3000タイトル
奪回のために、ローラとレイナードの2台のシャシーを購入し、万全の体制。星
野自身はレイナードよりもローラの方が乗りやすいというが、チーバー追撃のた
めに、富士に強いレイナードをチョイスしていた。レイナードは、セッティング
が難しいが、一度決まれば、抜群の速さを見せるというのが、各チームの意見。
星野は、あえて、その困難な道を選択していた。
 雨は、スタート後には上がり、チーバーとバイドラーには文字通りの涙雨。乾
いたコースを逃げる鈴木、そして星野が追う。星野は何度か鈴木を抜こうという
姿勢を見せるが無理をせず、11周目には0.3秒だった差が、次の12周目には1.112
秒に広がる。十分な走り込みができていないマシン、そして初めて決勝を走るマ
シンとタイヤとのマッチングの関係もあるのかもしれない。それとも不調を抱え
ているのだろうか?
 13周目の3位以下の順位は、スタート直後の混乱をうまく避けたカーカッシ、
アーバイン、トマス・ダニエルソン(ローラ・無限)の外国人勢が3位争い。そ
の後方では黒沢、ジェフ・クロスノフ(ローラ・無限)、A.G.スコット(レ
イナード・無限)がバトルを展開。16周目、この3台が並んで第1コーナーへ。
ここでスコットが黒沢に接触、スコットはコースアウトしてリタイア。黒沢はピ
ットまで戻ったものの、ステアリングを操作するためのタイロッドが曲がり、フ
ロントサスペンションにもダメージを負ってリタイアとなった。
●中盤に波乱続出
 21周目、2位につけていた星野が、突然、Bコーナー出口で自らコースアウト
してマシンを止めた。アクセルワイヤーのトラブルで無念のリタイアだ。これで
鈴木は楽になったかと見えたが、またも幸運の女神が鈴木にそっぽを向いた。23
周目、2位以下を大きく離してトップを走っていた鈴木が突然のピットイン。左
リアタイヤのトレッドが剥離し、緊急のタイヤ交換。この交換に時間がかかり、
鈴木がコースに戻ったときには、すでに1周遅れ。鈴木の使用するのはヨコハマ
タイヤだが、同じタイヤを使う高橋国光(ローラ・無限)も、朝のウォームアッ
プでタイヤのトレッドが剥離、さらに決勝レースでも同じ症状が出て、2回のピ
ットイン。2回目のピットインでは、ホイールナットが噛んでしまい、タイヤが
はずれず、ベテラン高橋は、ここでマシンから降りている。
 鈴木は、昨年夏の鈴鹿1000キロレースでトップを快走中に、第1コーナーでリ
アのタイヤかサスペンションのトラブルで突然コースアウトし、リタイア。昨年
の最終戦となった富士の延期レースでも、一度ピットインしながら、最速ラップ
を連発しながらの猛追の最中に黒沢琢弥と接触。デイトナ優勝で今年はツキも変
わったかと思われたが、鈴鹿のF3000第1戦でも4位走行中に中谷にシケインで
追突されてリタイア、そして今日のタイヤトラブルと、まったくついていない。
 突然の鈴木の脱落でトップに立ったのがカーカッシ。昨年、F3チャンピオン
を獲得し、F3000の最終戦(延期レース)富士でも3位に入賞して、大物の片鱗
を見せていた28歳のブラジル人。今年から元ドライバーの赤池卓氏が結成したナ
ビコネクションチームに所属。レイナードのサイドポンツーンには小さいながら
も「NIFTY-Serve」の文字も見える。
 カーカッシを追うのがアーバイン。しかし、彼も鈴木、高橋と同じヨコハマタ
イヤを履くだけに、タイヤの消耗が気になるところ。その後方にはダニエルソン、
そして、予選14番手からスタートしたマウロ・マルティニ(ローラ・無限)が、
いつのまにか4位に浮上。マルティニのマシンには、予選の段階までエンジンが
完調でなく、コンピューターボックスを交換するなどの作業に追われたが、朝の
ウォームアップではトラブルも解決し、明るい表情を見せていた。5位には日本
人最上位となった和田久(ローラ・無限)が。それをクロスノフが追う。
 36周目の最終コーナー立ち上がりで、和田を抜いてきたクロスノフが突然スピ
ードダウンし、和田に抜き返される。目の前を走っていた周回遅れの鈴木の左リ
アタイヤがバーストしたのだ。スタンド総立ちとなる目の前で、鈴木はマシンを
よくコントロールして、ピットウォール脇にマシンを止める。コックピットから
飛び出し、ピットウォールを乗り越えた鈴木は、憤りの色を隠せないでいた。
●カーカッシ、苦しみながらもトップを死守
 37周目には、ダニエルソンがアーバインをパスして2位に上がり、トップを行
くカーカッシの追撃に入る。すぐにその差は1秒を切り、ダニエルソンが執拗に
カーカッシを攻めたてる。マシンの仕様の違いか、カーカッシのレイナードはス
トレートでよく伸び、反対にダニエルソンのローラはコーナーで差を詰める。カ
ーカッシはヘアピンでは毎周のようにタイヤスモークを上げるハードブレーキン
グ。それだけコーナーが苦しいのかもしれない。それでもカーカッシは最後まで
ダニエルソンを抑えきり、45周を走り切った後、真っ先にチェッカーの下をかい
くぐった。
 2位にはダニエルソン、3位には、44周目のBコーナーでアーバインを抜いた
マルティニ。4位にアーバイン、和田久がクロスノフの脱落で再び5位に上がり
初ポイントを獲得、6位にはF3で連勝しているリカルド・ライデル(ローラ・
無限)が入った。
「スタートはコースが濡れていたんで、慎重にいったよ。それがよかったんだろ
うね。ずっと勝ちたかったけど、本当に優勝できて、こんなに嬉しいことはない」
と、ヘルメットを脱いで眼鏡をかけたカーカッシは語った。
 優勝したカーカッシは、ダンロップタイヤを装着。昨年の第4戦、雨の美祢で
アーバインがヨコハマタイヤで優勝して以来の久しぶりのブリヂストン以外のタ
イヤ優勝ともなったが、今回のレースは、天候不順に影響され、マシン、タイヤ
とも熟成が進んでいない中での不確定要素が多い中でのレースでもあった。今後、
マシン、タイヤの熟成によって、また例年のように、チームの総合力の戦いとな
っていくことだろう。
  資料:テレビ朝日のレース中継、富士からの電話リポート
  RIJ-すがやみつる(FMOTOR4 Group Manager SDI00104)


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