全日本GT選手権

GTインサイドレポート 99Rd.3/7

■ 1999 AUTOBACS CUP ALL JAPAN GT CHAMPIONSHIP
■ GT INSIDE REPORT
■ Round 3  SUGO GT CHAMPIONSHIP                           FMOTOR4 EDITION
   GT INSIDE REPORT     インサイドレポート・特集      99/05/30
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'99AUTOBACS CUP GTC第3戦SUGO SUGO GT選手権(5/29,30)


☆特集 GTへの提言 ~チーム関係者に訊く~
 前回、第2戦富士のインサイドレポートでは、最近のGTCマシンの性能向上および
コストの高騰について、福山英朗(*81 ダイシンシルビア)、鈴木恵一(98年GT300
チャンピオン)、木下隆之(#32 cdmaOneセルモスープラ)、松田秀士(#55 STPア
ドバンタイサン バイパー)の各氏に意見を訊いた。今回は、チーム監督その他、前
回とは立場の異なる方々の意見を掲載する。

長谷川勇(*25 モモコルセ・アペックスMR2)総監督
「全体の盛り上がりを削がないようにしながら規制していくことはつねに必要だと
思いますよ。ただ、現状でもGT300のMR2は危険だということはないと思います。
GT500では微妙な空力でグランドエフェクトでやってますが、GT300の空力はまだそ
こまでいってません。従来のツーリングカーのレベルですよ。絶対速度が知れてま
すから、ブレーキ性能も決して悪くないです。レギュレーションは、今年は現行の
ままでいいと思います。車両の安全規定を強化するとしたら、剛性確保とか前後の
クラッシャブルバリアとかそのあたりでしょう。あと言いたいのは、内輪だけじゃ
なくてお客さんに喜ばれるレースをしないといけないということです。レースファ
ンがそんなに急激に増えるとは思えないんで、チューニングカーを楽しむユーザー
を動員しないといけない。(ユーザーが)走るチャンスを多くするなど、そのあた
りの運営も強化すべきだと思います。うちは部品メーカーなんで、お客さんに喜ん
でいただくことを考えています。チームもクルマも、日曜日に走らせるだけってい
うんじゃマンネリだし、地方を転戦しているんだからディーラーの人たちが走る機
会を作るとか、いろいろな努力が必要だと思いますよ。『これでいいや』じゃ衰退
しますよ」

土屋春雄(*25 モモコルセ・アペックスMR2)監督
「GTのタイムが上がってきているのは正常進化しているだけ。世界中でマシンを遅
くしようという傾向があるけれど、遅ければ安全ということではない。今このシリー
ズは成功してるんだからむやみにいじらないほうがいい。コストだってウチは今一
番安い。ポルシェは設計が20年前のクルマでしょ。開発らしい開発をやってないそ
のまんまのクルマ。そのクルマにあわせて遅くしちゃって(進歩が)止まってたら
レースはなにもおもしろくない。ターボだから速いという理屈も、そうは思わない。
ほんとうにオレがやりたいのは3リッターNA。今のレギュレーションを考えたらこれ
が一番速くなると思ってる。だからといってNAはカネがかかるとも思わないよ。ウ
チなんか確実にエンジンを2レースは使ってるし、コストもそんなに上がってない
よ。要するにアイデアの問題。ウチのクルマなんか溶接さえできればだれにでも作
れるはず。決まった予算のなかでのカネの使いかたしだい。ウチがカネかけるよう
になっちゃったらGTは悪くなると思うよ。でもオレがほかのクルマやったら、もっ
ともっと速くなるよ」

坂東正明(*19 ウェッズスポーツセリカ)監督
「GTCってのはいっぱいエントラントがいるから盛り上がるんだろ? どうやってエ
ントラントを増やすかもっと考えたほうがいいと思うんだよな。べつに速すぎるか
らカネがかかるとは思わねェよ。NAは軽くしていいっていうけど、軽くするのには
ウンとカネがかかる。土屋さん(土屋エンジニアリング)はカネかかってねェって
いうけど、あそこはノウハウの蓄積があって自分のところでやってるからだろ。土
屋さんに同じクルマを作って同じメンテナンスしてくれって言ったらウンとかかる
んだから。カネがかかるのはある意味しょうがねェんだけど、もう少しエントラン
トを増やしたかったら、もっとGT300をTVに映せと言いたい。今のGTCってGT300がい
て成り立ってるんだろ。メーカーが争っているGT500だけでレースをやってみな。台
数は少ないし、どこかがやめたら終わりだろ。GT300はメーカーがいなくてもでき
る。だからといってGT300だけでレースをやったら今度はお客さんが入りますか、と
いう点も見逃せない。つまりだな、GT500とGT300両方いねェと成り立たないんだ
よ。そういうコミュニケーションがあってGTCってのは成り立ってるんだ。同じ上納
金払ってるのになんでGT300はTVにちゃんと映らねェんだよ。全員が盛り上げてるっ
ていうのをちゃんと伝えろよな。GT300じゃ視聴率が取れないなんていうのはやりか
たを知らないだけだよ。もしそんなこというヤツがいたらクビにしちまえばいいん
だよ。それくらいGT-AがTV局に言ってもいいんじゃないの」

平岡寿道(*86 BP・KRAFT・トレノ)監督
「カネがかかるって言うけれど、速くしようとするとあるていどはしかたないんで
す。スポンサーへのソフト費用がかかるということもあるでしょう。ウチや土屋さ
んのところ(*25 モモコルセ・アペックスMR2)みたいだったら問題はないけど、
GT500のチームみたいにトレーラーでクルマ運んでテント出すとおカネがかかる。ハ
コ(のレース)の最高峰ということを考えると、その部分をカットすることはでき
ないでしょう。コスト削減のために、GT-Aが金曜日にもタイヤ規制をしてるし、
メーカー占有のテストもなくなってる。このあたりは現状でいいと思います。
 車両側の安全という点で言えば、NASCARやFIA-GTではドライバーの保護のために
サイドストラクチャーが3本入っているし、ドアの材料は変えちゃいけないという
規制がある。これだとドライバーの安全性は高められるでしょうが、今度は乗り降
りの問題とかも出てくるんです。ただ、GT500とGT300の速度差が開くと危険です。
昔はスタートから15周ぐらい周回遅れにならなかったのが、今は8~9周で周回遅
れになるんです。つねに後ろを気にしなきゃいけないくらいのタイム差がある。こ
の差が近づいてくれればバックマーカーがそうそうは出てこない。GT300とGT500を
分ける話もありますけど、興行的に成功するかどうかでしょうね」


高橋規一(*99 大黒屋ぽるしぇ/氏は現役の救急医でもある)
「安全面で一番気になるのはシートベルトのちょうど股のあいだの部分のベルトで
す。5、6点目っていうんですか? このベルトだけは、ドライバーが変わると調
整できない。3点式のELRみたいになればシートを動かしてもベルトが合わなくて
困ることはないんですけどね。今はレギュレーションでだめだという調整機能なん
ですが、ここが合わなきゃ死ねというようなものですよ。
 あとは、レース中になにかあればボクが止まって(救護措置を)しますよ。今回
ボランティアドクターを買って出たんですが、レースウイークは富士もここも金曜
日から手配してくれていて、あとは合同テストのときだけ来ればいいのかなという
体制になっています。
 (速度を抑えるということでは)タイヤをレギュレーションで変えてコーナリン
グスピードを下げたりすることも考えられるだろうけど、(それが)安全面に結び
つくかどうかなって思いますね。速すぎるから危険というより、速さを維持するた
めにおカネがかかりすぎ。コントロールするとすればエンジンに対する型式認定で
す。まあ、封印しろとまでは言わないけれど、スペアエンジンをボンボン使うチー
ムと、われわれみたいにエンジン1基でオイル交換ぐらいしかやりようのないチー
ムの戦いですから…。なんらかの規制というか、たとえば壊れたときだけ乗せ換え
を認めるとかしたらどうでしょう」

ピエール・アンリ・ラファネル(#35マツモトキヨシ・トムススープラ/BPRシリー
ズ、FIA GT選手権、全日本GT選手権のそれぞれにフル参戦した唯一のドライバー)
「BPRシリーズ(消滅したヨーロッパのGTシリーズ)、そしてFIA GT選手権が経験し
た問題と同じことが、今ここで起こっていると思う。BPRでは当初、コンストラク
ターがマシンをプライベーターに供給していたので、どのチームにもチャンスがあ
った。(ワークスと)同じマシンを入手できたので、多少高くてもそれを購入して
レースに参加していればチャンスはあったんだ。毎年エボリューションモデルが出
て、チームはそれを購入した。ただ、ワークスチームがワークスマシンで参加する
ようになって、マシンを供給するにしても1年落ちのものしか出さなくなってプラ
イベーターが上位に入れなくなり、やる気をなくして去っていった。ボクがいたGTC
レーシングもそうだった。これでFIA GT選手権からGT1クラスがなくなったんだ。
今、全日本GT選手権はこれと同じ方向に向かっているように思える。選手権のレベ
ルはどんどん上がっている。去年ホンダが圧倒的に速くて、トヨタはそれに対抗す
べく戦闘力の高いニューマシンを開発した。今年、トヨタはそのニューマシンを6
台も供給しているが、仮にホンダ、ニッサンが来年2台だけで参加するようになり、
トヨタもそれに合わせてプライベーターに供給しなくなったら、選手権は消滅して
しまうだろう。プライベーターがワークスと同じマシンを購入できなければいけな
い。ニッサンのようにワークスマシンを2台しか出さないというのは選手権にとっ
てはよくないと思う。あれがすごく速くて選手権を圧倒するようになり、ほかのコ
ンストラクターも少ない台数に集中するようになるとメーカー同士の争いになり、
プライベートチームはいなくなって選手権はなくなってしまうだろう。BPRや、FIA 
GTのGT1クラスのようにね。
 この選手権のいい点としては、リストリクターのサイズとウェイトハンディもう
まく機能しているようで、同じマシンが勝ちつづけるということがないことが挙げ
られる。いろいろなクルマ、チームにチャンスがある。決して同じチームの1台の
クルマがシリーズを圧倒してしまうということがない。3つのコンストラクターが
参加しているし、プロモーションもいい。多くのプロフェッショナル・ドライバー
が参加している。だから観客動員数も多い」

和田孝夫(#11 エンドレスアドバンGTR)
「今は天気がよければお客さんはたくさん集まるだろうし、おもしろいレースがで
きるだろうけど、はたして来年、再来年とこれが続いていくかどうか。実際に去年
出ていて今年いないチームもけっこうあるし。みんな見栄張ってやってるけど内情
はどこも苦しいと思いますよ。主催者も雨降ってお客さんが来なくて大赤字になれ
ば一気に苦しくなってしまうだろうし…。
 ちょっと別のことを言えば、トップレースはお客さんも集まって興行自体成功し
ているかもしれないけど、底辺のレースはエントラントも集まらなくて大変なんで
すよ。たとえばGTCの前座などは集まるんですけど、それ以外はどのカテゴリーも軒
並み参加台数が減っているんです。ボクも最近底辺のレースにどんどんかかわって
いるんですが、台数集めるのが大変なんですよ。宣伝も足りないからいつやってい
るかもわからないですし。ボクが底辺のレースに出ていたころはもっと観客も集まっ
ていました。底辺のレースがなかったらトップレースもありえないんですよ。トッ
プレースがあるのもトップドライバーがいるのも底辺のレースがあるからなんです。
GTCの関係者もそのことをもっと考えてほしいです。前座でいろいろなカテゴリーの
レースをやるとか。今もやっていると言われるかもしれないけど、もっともっとやっ
てほしいですよ。それと雑誌の人にとくに言いたいですけど、モータースポーツ誌
を買っているのはそういう(底辺の)レースに関わっている人なんですよ。彼らは
名前が載ればうれしいんだから、もっと扱ってほしいです」

長谷見昌弘(#3ユニシアジェックススカイライン/ハセミ・モータースポーツ代表)
「今のGTCはずいぶんおカネがかかるようになっちゃってるのはたしか。速すぎる
ことよりもそのほうが問題だと思う。モータースポーツというのはスポンサーから
おカネをもらわないとやっていけないんだけど、今、スポンサーから出る金額って
いうのは正直いってバブルのころの約半分でしょう? だったらクルマの値段も半
分にしないとやっていけないんだけど、もうその範囲を完全に超えてるんです。も
うひとつは、技術開発の速度が速すぎて1年落ちのクルマがまったく売れなくなっ
てる。GTCには、かならずしもトップ争いには加わらなくてもいいっていうチームも
あるんだから、そういうチームに1年落ちのクルマを安く売るという市場が成立す
れば、いい循環ができる。でも今は1年落ちのクルマではなんの楽しみもないから
それが成立しない。(技術開発を追いかける)トップチームも大変だけど、そうい
うチームも大変なんですよ。
 GTアソシエイションのなかでもJAFのなかでも、メーカー関係者には、10年、20年
とレースを続けていけるレギュレーションを考えてほしいですね。今の規定ではひ
とつのメーカーがやめてしまうとエントリーが減って、CカーやJTCCの二の舞になっ
てしまいます。GTCがスタートしたころはよかったんですよ。とにかく台数を集め
て、いいレースをしようとしていた。それが台数が増えてお客さんが集まるように
なると、次は勝つことを最優先に考えるようになっちゃった。結局、メーカーの担
当者というのは上からいわれて勝つことを優先しなくちゃいけなくなっちゃうんで
すね。ほんとうにレースを愛していたら、長く続けられるように考えるはずなんで
すけどね。プライベートの人たちはレースを愛しているんです。そういう人たちを
だいじにしないとGTCはなくなっちゃいますよ。これからもお客さんを集めていくた
めには、続けることがだいじなんです。GTCも10年続いたら大したものだと思いま
すよ」

千葉泰常(#55 STPタイサンアドバンバイパー/*26 タイサンアドバンポルシェ)チー
ムタイサン監督
「メーカーが車両規則を独自に解釈しすぎていると思います。第一の問題として街
を走っているクルマとあまりにもかけ離れてしまっている。その第一はウェイトだ
と思います。昨年までの最低重量は1150kgだったものが、1100kgになった。生産車
はスープラもNSXも1300kg以上あるわけだから、レースカーが1100kgというのはおか
しいです。それとエンジンの搭載位置によって重量を変えるという規定があります
が、それについてもNSXは生産車からミドシップだが、スープラも生産車とは違って
いてフロント・ミドシップになっている。あれをなぜミドシップと見なさないのか。
非常におかしいと思います。それと安全性の問題をあまりにも度外視していると思
います。われわれが大切に育ててきた信吾(舘信吾選手)の死をきちっと受け止め
なければいけないと思う。
 それと重量ハンデは非常にいいと思いますが、たとえば車両重量とリストリクター
径のことについても、あまりにも国産車のことしか考えていない。さらに、今年エ
アボックスのサイズの規定がありますが、それも2リッターなどの国産車を対象とし
た規定であって、FIAの規定より小さく、われわれのようなV10の8リッターのエンジ
ンでは収まりきれないサイズです。そういうことも踏まえてもらいたいです。それ
とわれわれは当初ポルシェのGT1を持ってくるつもりだったが、はじめからリストリ
クターの径が38mmなどと言われる。それでまず鈴鹿(の開幕戦)を走ってみろ、そ
の結果で軽減するから、と言われる。だがその『まず走ってみろ』ができないんで
すよ。
 どんなクルマでもナンバープレートのついたクルマならいい、というふうにして
いかないとお客さんにとっての魅力もなくなってきてしまいます。逆にワークスは
2台というふうに制限してもいいと思う。今やGT300クラスまでGT500と同じ傾向に
なってしまっている。プロモーションも、たとえばポラロイド・チャリティーのよ
うにお金を取ることばかりではなく、なにか考えないといけない。中学生や高校生
にとっては1000円というのは大変だと思います。それとフォーミュラ・ニッポンに
F3があるように、ジュニアクラスを、たとえば3年落ちのクルマを使ってやるとか
して、次の人たちを育てたほうがいいと思います。ペーパー上はありましたけど、
シーズンおわったらマシンを売らなければいけないとかということをほんとうにやっ
たほうがいいと思います」

以上


◎この特集第3回は第4戦MINEで行う予定です。


*今回のGTインサイドレポートは以上です

                       GTアソシエイション事務局
                         GTインサイドレポート班
                        古屋 知幸 = QYB04322 =


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