全日本F3000

avex童夢with無限レーシングチーム リリース Rd.7

          エイベックス童夢with無限レーシングチーム
    1995年 全日本F3000選手権シリーズ第7戦 レースレポート
      「雨中の激闘!中野、5位入賞で今季二度目のポイント獲得」
 大会名:'95 十勝インターナショナルF3000選手権レース
 日時:1995年9月17日(予選16日)
 場所:北海道・十勝インターナショナルスピードウェイ(5.100 km)×(7+30)周 天候:雨
 気温・路面温度:19℃・23℃
 コースコンディション:ウェット
 観客数:37,300人(決勝日)
 9月17日、北海道の十勝インターナショナルスピードウェイで開催された全日本F3000選手権シリーズ第7戦「'95 十勝インターナショナルF3000選手権レース」において、エイベックス童夢with無限レーシングチームの中野信治選手(童夢F104/無限MF308)は5位に入賞、今季二度目のポイントをマークしました。
 レースは激しい雨の中でスタートしましたが、走行に危険な状態となったため、7周を終了時点でいったん赤旗中断。約1時間後に再開された30周の第2パートとの合計タイムで争われました。
 チームとしても全く初めて走るサーキット、しかも雨という非常に困難な状況ながら、中野選手は慎重かつアグレッシブな走りで第1パートを7位、第2パートを5位でフィニッシュ。両パート合算タイムで総合5位に入賞。
 前回のレースから改まったブリヂストンタイヤでの初ポイント獲得です。
<土曜日>
 戦後最大といわれる大型台風12号が日本列島へ向かって猛スピードで接近していた。 テレビ、ラジオで伝えられる予想進路によると、どうやら北海道・十勝地方も無関係ではなさそうで、日曜日は朝から雨が降る確率が70%だという。
 どうやら、明朝行われる予選二回目用のタイヤも、今から始まる一回目の予選に投入した方が良さそうだ。万が一ということもないではないが、何しろすでに灰色の雲が西南の方向から足早に流れ、湿気を帯びた空気もやけに冷たい。
 いつ降りだしてもおかしくない空を睨み、大方のチームが予選用のタイヤ2セットをマシンの側にスタンバイさせていた。
 93年に完成した十勝インターナショナルスピードウェイは全長5.1km。高低差のほとんどないフラットな地形に14のコーナーが配置された、典型的なストップ&ゴーの中低速コースだ。過去2回、F3000マシンによるエキシビジョン・レースが行われているが、どちらもに欠席した童夢チームにとっては未知のサーキットである。
 図面上でコース・レイアウトを研究したチームは”サイド・デフレクター”という新兵器を用意していた。
 F1マシンにも見られるが、フロント足周りの後ろ、サイドポンツーンの空気取り入れ口の前に、上から見るとボディに沿うように”ハ”の字型に取り付けられた、空気の整流板である。
 この整流板によってマシン下の空気の流れが良くなり、前後ともにマシンを押さえつけるダウンフォースが増え、より安定した速いコーナリングが可能になるというわけだ。
 反面、空気抵抗も増えるので富士スピードウェイのような高速サーキットには向かないが、十勝のようにコーナーが連続し平均速度の低いコースでは特に効果が期待される。
「速く走るために(マシンに)出来ることはまだまだある。まずは手短なところから攻めてみたが、勝つための体制がより強化されたことでもあり、今後も開発は進めていく」と奥明栄マシン開発部長は意気盛んだ。
 予選がはじまり実際にコース走ってみると、予想通りエンジン全開の5速トップ・ギヤに入れるのは、メインストレートとそれより少し短いバックストレッチの二箇所だけだ。 3速でまわる似たようなR角のコーナーばかり、しかも周囲の景色に変化がないため、ドライバーは自分がどこを走っているのか常に意識していなければならない。
 最終コーナーを2速で立ち上がり、シフトアップしながらメインストレートを駆け抜けるのだが、ギヤレシオの設定がいまひとつ合っていないのか、4から5速への繋がりが鈍く、最高速に達するまでにほんの僅かなロスが生じる。
 新兵器が功を奏しているのか、コーナリング・バランスはまずは安定しているが、前戦から履いているブリヂストンタイヤでのセッティングはまだ完璧とは言えない。
 それでも、2セットのタイヤをフルに活用して積極的なタイムアタックを行った中野は1分43秒858の6番手タイムをマークした。
 シングル順位の予選一回目結果に、松本恵二監督はじめ首脳陣もまんざらでない表情。 予報通り明日朝から雨が降れば、このまま3列目グリッドからのスタートになる。
 ギヤレシオを変更して臨んだ午後のフリー走行では、決勝レースを想定したセッティングの調整にあてられた。
<日曜日>
 しかし、やはり予報は予報だった。
 日曜朝の十勝スピードウェイは、ところどころ夜半の雨が残っているものの、路面はほぼ乾いているではないか。
 とはいえ、気温が前日より4度も低く、また前戦からタイヤ・ウォーマーの使用が禁止されてタイヤがなかなか温まらないせいか、予選が始まって30分経っても前日のタイムを上回るドライバーは現れないでいた。
 このままならまあ大丈夫だろう、と楽観的な雰囲気になりかけたラスト10分。いったんピットに戻っていた全車が再び一斉にコースへなだれ込むと、新品タイヤを残してあった高木虎之介選手がいきなりトップに躍り出たのを皮切りにラップモニターは激変。ダルマ落としのような恐怖の10分間が終わってみれば、6段目にあった中野の名前はなんと13段目に落ち込んでいた。
 完全に使い切っていたタイヤながら、1分43秒597と前日よりタイムアップしたのがせめてもの救いだが、ドライバーはじめチーム首脳の顔はおのずと暗い。
 マシンがピットに戻ってすぐに雨がパラつき出したのがなんとも忌ま忌ましいが、決勝レースになればこの雨こそが大きなチャンスを生む材料にもなるのである。
 台風の影響が時間とともに大きくなるのは明らかだったので、主催者の決定により、決勝レースは予定より1時間30分早めて行われることとなった。
 19台のマシン全てが無難にスタートしたものの、落ちてくる雨とマシンがはね上げるウォーター・スクリーンは酷く、川と化したコース上でF3000マシンは走るというよりは泳いでいるようだ。
 ほとんど勘に頼るしかない雨中のドライブは、ほんの少しでもハンドルを切り過ぎたりブレーキングやアクセル・オンのタイミングを間違えれば即コースアウト。他車との接触がなくても、ドライバーが危険な状況に置かれていることに変わりはない。
 慎重にスタートをきった中野は、1から2コーナーで数台をパスし、また他車のスピンなどもあって8番手に順位を上げてオープニングラップを終えた。
 その後も雨足は弱まるどころか激しくなるばかりで、コースのあちらこちらでスピンが続出。6周目の1コーナー手前でマシン2台が接触し、その破片がコース上に散らばった頃には、とてもレースを出来るコンディションではなくなった。
 先頭の高木選手が7周目のコントロール・ラインを通過した直後にセーフティー・カーが入り、全車スローダウン。生き残っていたマシンが列を作ってゆるゆる2周を走ったところで赤旗が提示され、レースは中断となった。
 約一時間後、少し雨足が弱まったのを見計らってレースは再開され、すでに7周を走り終えた第1パートと、残り30周の第2パートの合計タイムで争われることとなった。
 中野は第1パートを7位で終えていた。
 少し弱まったとはいえ雨はいぜんとして降り続けている。ドライバーなら誰しも「もう走りたくない」と言いたかっただろう。
 だが中野にとっては、今シーズン二度目のポイント獲得の大きなチャンスで、運が良ければ表彰台だってあり得るポジションだった。
 特に今回はブリヂストンタイヤに変更して二度目のレース。データがあろうがなかろうが、ここでそれなりの結果を出さなければシーズン途中でタイヤを変えた意味がない。
「こんな状況では、いつまた中断になるかわからない。残り周回数をアテにせず、仕掛けるなら早いうちに行けよ」
 マシンに乗り込んだ中野にひと声かけた松本監督だが、危険を承知でドライバーをコースに送るのは内心は気が進まないのか、いつものスタート前より口数が少ない。
 第1パート7周目の順位がそのまま第2パートのスターティンググリッドとなり、先頭から高木、T・クリステンセン、星野一義、鈴木利男、金石勝智、影山正美、中野、服部尚貴、A・G・スコット、近藤真彦、M・クルムの11台が整列した。
 かくしてレースは再開され、11台のマシンは水しぶきに包まれたまま1コーナーを立ち上がっていった。
 目をこらし、モニター画面に白とオレンジのエイベックス童夢号を探すと、7番手のまま2コーナーを立ち上がっていくのがチラッと映り、次のシーンではエイベックス号は6番手に浮上していた。
 次は5番手か、と期待して見ればなんと最終コーナーでストップしている。
 驚きと落胆がピットを走ったが、エンジンを止めることなく、すぐに体制を立て直した中野は9番手で2周目をむかえ、ピットでは安堵のため息がもれた。
 ところが、このスピン後退のせいで中野のレースは何ともややこしい展開になったのである。
 2分10~20秒台という超スローテンポのレースが3周目に入るとオーダーは高木-クリステンセン-影山-服部-クルム-中野-スコット-金石-鈴木-近藤のオーダー。 見た目、中野は6番手にいるのだが、それぞれのマシンとの現在のタイム差と第1パートのタイム差を合算しなければ、本当の順位は浮かび上がってこない。
 中野の前を走る服部とクルム両選手だが、第1パートの中野とのタイム差を考えると、実際は中野の方が前にいることになる。反対に、後ろにいる金石選手は、第1パートと現在のタイム差を合算すると中野より先行している計算になる。その後方にいる鈴木選手のラップ・タイムが異常に速く、合計タイムではぐんぐん中野に迫っていた。
 モニターの前に陣取った松本監督、浅井敬祐SSRチーム代表、岸本雅義チーフエンジニアの3人が、電卓を片手に中野と各選手との実際のタイム差の計算におおわらわだが、何しろタイム・モニターの文字が小さいうえに画面が5秒ごとにコロコロ変わるものだからすべてのタイム差をチェックしきれない。
 やっとこさ計算した結果を、雨に吹きさらしのプラットフォームにいる小西・米津の両メカニックに無線で知らせ、そこからサインボードで一周ごとに中野に知らせるのだが、ボードに提示できる情報量は限られている上、対象となるライバルが数周ごとにめまぐるしく入れ変わるため、現実クルムを追っている中野にすれば「何が何だか?」である。
 ただ、前後のマシンが誰であろうが、自分が少しでも速く走り切ることだけがポイント獲得への道ということだけは中野にも理解できた。
 雨はいっこうに上がる気配もなく、燃料が軽くなるにつれてマシンはアンダーステアが酷くなり、ドライビングは困難なんてものではなかった。それでも、混乱とやきもきの第2パートもついにチェッカーの時をむかえ、気がつけば5番手を走っていた中野は、両パートの総合結果でも5位に入賞したのである。
 ドライバーもピットも疲労困憊のレースではあったが、中野が怪我もなく困難なレースを走りきり、今季二度目の、そしてブリヂストンタイヤで初めてのポイントを獲得できたことはともかく喜ばしい。
 奥マシン開発部長のヤル気もヒートアップし、次の富士戦までにはタイヤとのマッチングを含めマシン戦闘力のいっそうの向上が期待できる。
 今季もあと2戦。
 チャンスと勝利の女神を捕まえるのは、まさに今だ!
次戦は10月15日。富士スピードウェイにて行われます。


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