全日本GT選手権

GTインサイドレポート 99Rd.6/8

■ 1999 AUTOBACS CUP ALL JAPAN GT CHAMPIONSHIP
■ GT INSIDE REPORT
■ Round 6 GT CHAMPIONSHIP in TI                           FMOTOR4 EDITION
   GT INSIDE REPORT     インサイドレポート・特集      99/09/26
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'99AUTOBACS CUP GTC第6戦TI(9/25,26)

■GTアソシエイション事務局長に訊く
 過日、JAFが来季のGTCの技術規則を決定した。またGTアソシエイション(GT-A)
は、来年6月、スペシャルイベントとして初の海外レース開催を計画している。こ
れらを踏まえて、GT-Aの加治次郎事務局長に話を訊いた。

―まず、GT-AとしてはGTCの現状をどうお考えになっていますか。
加治事務局長(以下略)「今、日本のレースはみんな、おカネが回らない、お客さ
んが集まらないという状況になってしまっています。ある意味でGTC頼みという状況
になってしまっている。モータースポーツが世の中で認められるための責任が、今、
全部GTCにかかってきていると考えなければならないでしょう。
 そういう目で見たとき、今は国内のトップレベルのドライバーもチームもすべて
GTCに集結してきていると思いますが、その材料をどう組み立てて、スポンサーや観
客に見せていけるかが大事だと思います。今までは全部揃っていたとはいえなかった
んですが、これからはもう名実ともに(モータースポーツ全体を)引っぱっていか
なければならない。ほんとうにこれからの世の中に受け入れてもらえるようにしな
けらばいけない。また、ドライバーやチームや、その他の関係者の生活を担えるよ
うなものにしなければいけない。ですから絶対潰しちゃいけないんです。育ってい
けるかたちにしなけりゃいけない。そういう意味では今までとは違うと思っている
わけです。
 そのためにはレースのやりかたを少しずつ変えていく必要がある。世の中の変化
に合わせて、今ついてきてくれているお客さんやスポンサーの期待に応えていける
ものにしていく必要があると思います。
 今までは、なにか新しいものが出てくればそっちへ乗り換える、あっちの水がお
いしそうだからそっちへ行くというかたちでやってきたんですが、これからはそれ
では立ちゆかない。今は自動車メーカーもタイヤメーカーもずいぶん環境が変わっ
てきて、ほんとうの意味でグローバル化してきている。日本の市場のためだけにそ
んなにおカネが落ちるというわけにはいかなくなっているわけです。ましてこれか
ら日本の市場が伸びていくわけでもない。そういう意味でも、今までと同じことを
自動車メーカーやタイヤメーカーに期待していくことは間違っていると思うんです。
したがって(モータースポーツは)メーカーさんがおカネを使うだけの価値のある
ものにしていかなければいけない。そのためには、まず基本的にはお客さんの心を
とらえているかが一番大きな課題だと思います。自動車メーカーにとっても観客は
お客さんなわけですから。
 そういう意味では、今GTCはそれをとらえかけてる。今までのレースは内部の人
間だけおもしろかったんですよ。ごく限られた人だけね。それが今、多くの人にお
もしろいねと言っていただいてきている。さらにそれが、よくわかっている人には
さらにおもしろく感じられるし、そうじゃない、パッと見に来た人でもおもしろい、
というふうにしていかなければいけない。
 そのためには情報をもっと与えていかなければいけないと思います。テレビの放
送は現場に来たら見られない部分を見せなければいけないし、サーキットへ来たら
サーキットへ来ただけの情報を持って帰ってもらわなければいけない。たとえば、
迫力だとか音だとかというものはテレビではなかなか表せないけれども現場では表
せますよね。でも、それだけではダメで、ドライバーの技術とかチームの技とか、
クルマのすごさとかいうものを見てもらわなければいけない。そのしかけや設備も
必要だし、そういうこともやっていかなければいけないと考えています。
 たとえば、内側にいるわれわれはラップタイムも見てるしモニターも見てる。だ
からおもしろいと思っている。それだけの情報を与えられる状況になっているわけ
です。ところがお客さんはなにも情報が与えられていなくて、すごい迫力だろうと
いうことしか伝えてられていない。しかし、迫力だけだったらもっとすごいものは
いくらでもある。そんなことでお客さんの心がつかまえられるわけではない。問題
は人間が技としてやっている部分をいかに知ってもらうか、見せられるかというこ
とでしょう。チームがどういう工夫をしてるかとか、ドライバーがどういう悩みを
持って、なにと闘っているかとかいうことがもっと伝えられなければいけない。そ
のための素材としてはラップタイムも必要でしょうし、モニターにドライバーの顔
やチーム監督の顔が映ることも必要でしょう。野球の中継を見ててもいろいろな情
報が伝えられているわけですから。
 モータースポーツは、自分たちが遊ぶために造ってきたものですから、お客さん
は関係なかったんです。モータースポーツを職業としている人たちは自分の道楽で
おカネを落とす範囲でしかやってきていなかった。それでは、その人の気持ちが変
われば明日はなくなる。自動車メーカーが落としているおカネだってある意味では
同じです。そこにしがみついているかぎりは、たとえば前年比で半分になっちゃっ
たりするわけです。
 ところが一般の人たちの支持というものは急に半分にはならない。だから、つね
に自分たちの姿を知って、自分たちを支持してくれるお客さんたちはどっちを向い
ているのかを常に気にしてリサーチしていくことが大切です。ですからGT-Aでは観
客調査というものをずっと続けてきています。これはすごく大切なことです」

―GTCにプライベーターが参加しにくくなってきているという批判もありますが?
「誤解されやすいことなんで注意してほしいんですが、プライベーターのために
レースがあるわけではないんです。だからといってメーカーのためにやっているわ
けでもない。プライベーターだとかファクトリーだとかいうことにこだわるのは、
内輪の論理でしかないと思います。肝心なのは、どう一般の支持を得るのかという
ことです。一般のお客さんにとっては、プライベーターだとかメーカーだとかとい
う区別があるわけではない。だから、メーカーをバックにパフォーマンスの高いク
ルマを造れるチームがあるとすれば、それに対してプライベーターはどういうかた
ちでお客さんの支持を得るかを考えなければいけない。それはドライバーのキャラ
クターであったり、監督やチームとしてのキャラクターであったり、めずらしいク
ルマを持ち込んたりということだと思うんです。今、日本のGTCは、それを可能にす
るために特認車両制度を設けたり、遅いクルマを助ける措置をとったり、いろんな
かたちでそれをやっているわけです。
 今、GTCは表彰台に立てればなんとかスポンサーの支持を得られるようになった。
しかもそれがずっと独占されることのないように(さまざまな規則を)作っている。
今までの考えかたからしたら、そういう規則はおかしいと考える人もいるわけです。
だけど、おかしくったって、成立しなくてすぐ潰れちゃったら話にならないわけで、
そんなことよりは一般のお客さんに支持される、おもしろい、また見に来ようと思
わせる、それで(レースを)やっている人たちの地位が上がっていくことのほうが
大切なんです。
 自動車メーカーは、クルマを速くして勝つためにおカネを費やしています。しか
し、そのことは決してみんなの幸福ににはつながりませんよ、ということですよね。
かといって、それがなければ自動車メーカーにとって魅力が半減することになるで
しょう。われわれにとって自動車メーカーもスポンサーのひとつですから、スポン
サーにとっての魅力をどう作るかという視点も必要です。
 具体的に言えば、このレースにクルマが使われていることがメーカーとしてのス
テータスにつながるようになれば、自動車メーカーとしても関与せざるをえないわ
けじゃないですか。GT-Aの観客調査でも、スポンサーにどういう印象を持ちますか
という設問があって、かなりの人が『好感を持つ』という答えてくれてるわけです。
一般のお客さんが、レースの楽しみを自動車メーカーが支えてくれるんだという見
かたをしてくれるようになればいいということです。自動車メーカーがアピールす
べきことは、『勝った勝った』ということじゃなくて、別の領域だってあるはずな
んです。お客さんもそういうことに賛辞を与えてくれるように育ってくれることが、
モータースポーツを大きくしていくことだと思います。
 もっと多くの人たちの支持を受けるためには、ハードとしてのクルマに頼りすぎ
ていてはダメだと思います。ドライバーのすごさとか、チーム運営のすごさとか、
メカニックの仕事だとか、戦略だとか、それからモータースポーツにはビジネスゲー
ムという側面がありますから、そういう部分も伝えていくべきなんです。選手の努
力とかチーム戦略とか、それこそスポーツじゃないですか。そういうスポーツとし
ての魅力を伝えていく努力をしなければ、モータースポーツの発展はないというこ
とですよ」

―来年の車両規定については?
「車両規定については、GT-Aからも提案を出し、だいたいそれにそって決めていた
だいています。基本はハイテク競争のようになっていかないように、ということで
す。技術競争で勝負がつくのではなく、スポーツとして勝負がつくようにしていき
たい。もし、技術競争こそがモータースポーツだという意見があれば、私は別に反
対はしない。ですがそうであれば、その技術を、つまりわれわれはこういう工夫を
したということをもっとアピールすべきですよね。ただ、それに魅力を感じる人が
どれほどいるかということを考えると、それを重点にすべきではないと考えるわけ
です。
 安全面については、一般の人から見れば訓練されたドライバー、訓練されたメカ
ニック、訓練されたエンジニアが普通の人にはできないことをやっているからこそ
見てもらえる。それが危険なものであることは確かですが、それが生命の危険の領
域までいってはいけない。そのためにできるだけ安全なクルマにしたいということ
です。
 そのあたりはバランスだと思っているんです。NASCARだって昔からああいう格好
だったわけじゃなくて、だんだんにああなっていったと思うんです。ですが、日本
のマーケットだとか日本のファンにとってあのかたちがいいかどうかというと、現
状ではちょっと違うなと思っているんです。あそこまでを目指しているんではなく
て、ただ考えかたとして、開発すべきテーマというのを絞って、技術として取り組
んでもらうということになるんじゃないでしょうか」

―GTCのありかたを考える際に、参考にしているカテゴリーはありますか。
「NASCARとか、アメリカのモータースポーツのありかたというのは当然参考になり
ますし、ヨーロッパだって参考になる。ただ、日本的なものというのは当然あるだ
ろうと思っているんです。NASCARだって50年からの歴史があるわけでしょ? 50年
前から同じ形態でやっているわけじゃないんです。お客さんの支持があって少しず
つ変えてきている。日本にはそういう歴史がないんです。外から押しつけられて、
なんだかわからないままに潰しちゃって、また一から仕切りなおしになる。そのつ
どチームも潰れちゃうという格好でやってきたんだけど、もうそれは通用しない。
そういう意味ではF1だとかNASCARだとかCARTだとか、すこしずつ姿は変えながら自
分たちを維持していくというやりかたは参考になると思います」

―海外でのイベントについて教えてください。
「来年の6月下旬にマレーシアで開催する予定です。やるからには興行として成功
させなければいけませんから、F1やFIA-GTやアメリカン-ル・マンなどとバッティ
ングせずに安定して続けていける時期として、6月下旬から7月上旬に設定しまし
た。
 アジアに進出するのは、この地域の自動車マーケットが日本のマーケットと似た
姿をとっていくだろうと予測しているからです。GTCはアフターパーツマーケット
の活力を基盤としています。日本にはそういうマーケットが今あるわけで、それは
ヨーロッパともアメリカとも違っています。アジアの市場はそういう格好で進んで
きています。今後もそういう方向で進むでしょうから、われわれとしてもそれを当
然取り込みたいし、われわれを支えているパーツメーカーにとっても魅力的な市場
たりうるわけですから、その足がかりとしてGTCを使っていくというのはビジネスと
して当然の成り行きです。
 また、日本の国内だけでモータースポーツを考えていると、相対的にどんどん小
さくなってしまうわけです。これ以上大きくなるとは思えない。片方で韓国や中国
などアジアの経済発展がある。そこにヨーロッパやアメリカからいろんなメーカー
が来るでしょう。そんななかで日本がアジアを放っておいたら世界で孤立してしま
います。
 モータースポーツには、いわゆるクルマ文化という側面もあります。海外に進出
するということは文化を輸出するわけです。日本は、これまで音楽にしろなんにし
ろ欧米から大量に輸入してきました。ところが、最近はアジアのアーティストがど
んどん入って来ていますし、同時にアジアには日本のアーティストが進出していま
す。アジアの人たちは日本の情報を知っているし、日本のアーティスト、俳優に憧
憬を持っている。ところがモータースポーツはなんにもやっていないんですよ。
 また、スポンサーという側面でいうと、今は生産拠点がみんなアジアにいっちゃっ
てる。そういうスポンサーに対して魅力を保つためにも、国内だけでやっていては
もう限界なんです。大きな会社はみんなグローバル企業になってる。そういうグロー
バル企業がどういう戦略を持っているかというと、ほとんどヨーロッパ、アメリカ、
アジアという三極に分けている。日本はアジア地域のなかに組み込まれているんで
す。タイヤメーカーもそうです。アジアにどんどん魅力的な市場が育っているわけ
で、そのなかで日本の相対的地位というのはどんどん下がる。絶対的に小さくはな
らなくてもね。だからアジアに出ていくことはマストなんです。もう遅いくらいで
すよ」

―ヨーロッパのFIA-GTやル・マンとの連携については?
「クルマの供給元などが交流することは大事です。ただ、どういう人たちがレース
をするか、どういうマーケットがあるかということが日本とは基本的に違う。ヨー
ロッパのスポンサーと日本のスポンサーには違いがちょっとあるし、チームにも違
いがある。ドライバーだって違います。
 クルマについては、今年の鈴鹿1000kmで言えば、空力的には日本が有利になって
いる。ヨーロッパの場合には少量生産車でやっているからもともとのクルマの性能
は高いけれど改造範囲は狭い。パワーウェイトレシオは向こうのほうがいいけれど、
ラップタイムは日本のほうが速いというかたちだったんですね。ただ、来年の規則
になれば空力的な差もそんなになくなるから、リストリクターと重量で合わせれば、
同じクラスで走ってもそんなにおかしくないわけです。そのくらい近いところにい
るわけですから、ムリヤリ合わせる必要もないだろうと思います。
 それから、ル・マン24時間というのは世界的に見ても非常に特殊なレースなんで
す。富士スピードウェイのストレートが4本連続してある、そういう感じなんです。
あそこでそれなりにパフォーマンスするためにはかなりのトップスピードを維持し
なければならない。そういうクルマでシリーズ戦をできるかというと、過去から明
らかなように、できないんです。日本のシリーズ戦のように密度の高いレースとい
うのはとても成り立たないことがわかっているから今のGTCを作っているわけで、そ
れを今さらル・マンに合わせようという気はありません。
 実は、同じことはFIA-GTの人たちも考えているわけです。FIA-GTの人たちも、ル・
マンよりはむしろ日本のGTCと一緒にできないかと考えています。先日もミーティン
グをしましたけれども、彼らもわれわれの考えはよく理解してますね。クルマのレ
ギュレーションを完全にイコールにはできない、それはマーケットが違うからだ、
ということは彼らも理解しています」

以上


*第6戦TIサーキット英田のGTインサイドレポートは以上です。


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なお、メールへの個別の回答は出来かねますので、ご了承ください。回答をご希望
の方は、モーターレーシング・ファン・フォーラム(FMOTOR4F)の全日本レース会議
室、もしくはGTCインターネットのホームページ(http://gtc.info.sim.co.jp/)の
パドックフォーラムでご質問ください。


                       GTアソシエイション事務局
                         GTインサイドレポート班
                        古屋 知幸 = QYB04322 =


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