LAP7 「まだ遠いエンジン音」
ドライバーにとって、走れない期間というのは、やはり厄介だ。
マイルを稼げない、経験を積めないというのもあるが、本当に苦しいのは、周りが走っているのに、自分だけが止まっているように感じる時だと思う。
次に乗った時、前と同じように走れるのか。速度感は鈍っていないか。ブレーキを奥まで持っていけるのか。
考え始めると、まだ走ってもいないのに、もう遅くなったような気がしてくる。
走れない時に一番怖いのは、感覚そのものを失うことではない。
失ったのではないかと、自分で思い込んでしまうことなのではないだろうか。
実際、走ることに勝るものはないだろう。
ブレーキのタッチも、ステアリングから伝わってくる感触も、身体にかかるGも、マシンが限界へ近づいた時の気配も、やはり実際に乗らなければ分からない。
だから、走れないことが不利なのは間違いないのだが、何もできないわけでもない。
車載を見返し、データを見直し、コース図を見ながら一周を思い出す。
どこでブレーキを踏み、どこから抜き、どこへ視線を送っていたのか。
マシンが向きを変えるまで、自分は待てていたのか。
ただ眺めるのではなく、その時の感覚まで思い出してみる。
どこで迷ったのか。どこで身体に力が入ったのか。どこでミスしたと思ったのか。
実際に走れないなら、頭の中で走るしかない。
いわゆる脳内走行だが、これも意外に馬鹿にできない。
うまくいく一周だけではなく、ブレーキングをミスった時や、リアが動いた時、ひとつのミスを引きずりそうになった時に、どう立て直すのかまで考えておく。
それだけでも、実際に似た場面が来た時の余裕は少し違う。
私自身、しばらく走れなかった後は、乗る前から妙な不安を感じることがある。
以前なら普通にできていたことまで、もうできなくなっているような気がする。
ところが、実際に乗ってみると全部なくなったわけではなく、 少し感覚が遠くなっていただけだったと感じることが多い。
何周か走るうちに、ブレーキの感覚を思い出し、視線の流れが戻り、身体から余計な力も抜けてくる。
そんな時は、「ああ、まだ自分の中に残っていたんだな」と思う。
だから、最初から前と同じように走ろうとしなくていい。
久しぶりなら、久しぶりなりでいいと思う。
「前と同じように走らなければ」と考えるより、「今回はどこまで戻ったか」と見た方がいい。
走れない時に維持しておきたいのは、闘争心ではないと思う。
いつも気持ちを張り詰めている必要はないし、走れないことへの苛立ちを抱え続けても、それが速さにつながるわけではない。
次に乗った時、また感覚を戻していき、そこから以前とは違う何かを掴めるかもしれない。
走れなかった時間を経たことで、これまで以上に進化できるかもしれない。
そのくらいの信頼とポジティブさを、自分の中に残しておけばいい。
走行距離が少ないことは不利だし、そこは綺麗事では埋められない。
だが、走れないことばかりを考え、自信まで失ってしまえば、コースへ戻る前から本当に遅くなってしまう。
走れない時のコンディション維持というのは、感覚を完全なまま保つことではないと思う。
たとえ少し遠くなっても、また自分の手で拾い直せる。そう思っていられることだ。
いつ走行を再開できるのか。どのレースから復帰できるのか。
今は、まだ分からない。
それでも、その時が来たらすぐに動き出せるように、準備だけはしておこうではないか。
2026/07/09
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