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コラム

ハンマー伊澤のフロム・ザ・コックピットLAP9「もう一度、雨のSUGOで」

ハンマー伊澤

雨のSUGOには、独特の静けさがある。

疾風改のエンジンは甲高く響き、タイヤは絶えず水を掻いている。

それらの音が重なり合っているのに、ドライ路面で感じる鋭さは、少し遠のいている。

ヘルメットの内側では、自分の呼吸が妙にはっきりと聞こえる。

空は低く、コース脇の水たまりは、白く鈍い光を発している。

黒く濡れた路面の先で、見慣れたコーナーさえ、いつもとは違う距離にあるように感じられる。

SUGOは、好きなサーキットのひとつだ。

走っていると、自分が頭の中に描いたコースを、そのままたどっているような親しみを感じる。

コーナーから次のコーナーへ、走りたいと思うリズムと、目の前のコースの流れがよく重なる。

だが、雨のSUGOには、長く馴染めずにいた。

水膜が張りやすく、タイヤがどれだけ路面を捉えているのか、その感触がつかみづらい。

ブレーキを踏み、舵を入れても、その確かさが薄い。

よく知っている場所を走っているのに、自分と路面の間に、わずかな隔たりができる。

昨年十月、その雨のSUGOで優勝した。

あれから、まだ一年しか経っていない。

その勝利がずいぶん前のことのように感じられるほど、今年は思うように走れないことが続いた。

準備をして、走り、気になるところを確かめる。

次こそはと思いながら、次のレースに向かう気持ちが定まらないこともあった。

走るべきか、走らざるべきか。

仕事上で起きた事故に対して、私には責任がある。

走りたいという気持ちは変わらない。

それでも、その気持ちだけで出場を決めることはできなかった。

レースに向かう前に、自分が走ることの意味を、改めて考えることになった。

私のレース活動は、費用のすべてをスポンサーの方々からの支援で賄っているわけではない。

私たちのレース活動を知ってもらうことが、仕事を任せてもらうきっかけになる。

コックピットにいるこの時間も、私の仕事の一部である。

私たちのレースを見て、マシンを預けてくださる方がいる。

走行のサポートや指導を任せてくださる方がいる。

実際に走って得た感触は、マシン作りにも、整備の判断にも、走りを伝える言葉にも生きてくる。

うまくいったことも、思いどおりにならなかったことも、日々の仕事の中につながっている。

そして、責任を果たしていくには、仕事を続けなければならない。

その仕事の一部として、自分も走り続ける。

そう考えて、今回のフォーミュラビートSUGOラウンドに出場することを決めた。

コースに出て、ブレーキを踏み、舵を入れる。

ブレーキングの感触、ステアリングに返る重み、アクセルを開けたときのリヤの動き。

黒く濡れた路面が見せてくれない曖昧なグリップ感を、そうした感触から探る。

自分の操作に対して、マシンがどう応えたか。

そこで得た感触に合わせて、次の操作を変えていく。

一周して戻れば、また同じコーナーが雨の向こうに見える。

さっきの一周で感じたことを思い出しながら、次の一周を走る。

見た目からはつかめなかったものが、手のひらと足の裏で、少しずつ確かなものになっていく。

エンジンの響きも、水を掻く音も続いている。

呼吸を整え、次のコーナーを見る。

最終コーナーを駆け上がると、チェッカーフラッグが振られていた。

SUGOの雨は好きになれなかったが、また勝ったのだ。

一年ぶりのトップチェッカーは、何よりも懐かしく、十年ぶりに偶然親友と再会したかのような、何とも言えない嬉しさ、郷愁のようなものを感じた。

この雨の感触も、また走りの話をするときに、ふと言葉になって出てくるのだろう。 そんな経験を積み重ねながら、これからもこの仕事を続けていければと思う。

2026/10/26

HAMMER RACING HP:https://www.hammer-izawa.com/

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