全日本GT選手権

GTインサイドレポート Rd.3/8

                    AUTOBACS CUP ALL JAPAN GT CAR CHAMPIONSHIP
                       1998  GT INSIDE REPORT
   Round 3 Hi-land GT Championship                              28 June '98
   Special Report                 特別レポート3                FMOTOR4版
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'98AUTOBACS CUP GTC第3戦 ハイランドGT選手権レース(6/27,28)
緊急特集『レースの安全性を考える』

◎GT-Aが実施したアンケートについて
 GT-Aでは、5月29日付で『98JGTC第2戦の事故を教訓とした今後の安全対策に関す
るアンケート』をGT-A会員に対して行っている。自由回答式で、質問は「貴方が
『事故にそなえて』、『事故防止の為に』、『事故が起こった時に』できること」
というもの。前文として「このGT-Aアンケートは、事故の過失追求や原因究明をす
るのではなく、今回の事故を教訓に二度と同じ事故を繰り返さないよう、今後への
問題提起、改善提案を『それぞれの立場』で書いて頂くものです」とある。アンケー
トは38エントラントおよび8主催者に送付され、うち33エントラント、6主催者から
回答を得た。それぞれ代表者のみでなく、ドライバー、メカニック、オフィシャル
など複数から回答が寄せられているので、その総数は150あまりに上る。ここでは
そのすべてを紹介する紙幅はないため、一部を抜粋して紹介する。なお、明らかな
誤字脱字の訂正など、表記に関してはかならずしも原文どおりでない部分がある。

■競技運営に関する提案
「提案1 ペースカーのドライバーもドラミに参加する。ペースカーのドライバー
は今回後方集団がどのようになっていたかを知っていないと思います。これはドラ
イバーとペースカーのドライバーのコミュニケーション不足(お互いの状況を理解
できていない)が大きな原因ではないでしょうか。ドラミに限らず、お互いの状況
を話し合える場が必要だと思います。(中略)提案2 オフィシャルとのコミュニ
ケーションを深める。たとえば、助けなければならないドライバーが家族や友人、
恋人等、知っている人と、話をしたこともない、知らない人の場合、どうしても違
いがあると思います。たとえば予選日の夕方にオフィシャルの人だけのピットウォー
クがあるとか、ドライバーが順番にサポートレースでのポストに入り、オフィシャ
ルの立場からレースを見るとかして(後略)」(ドライバー)

「天候その他で悪条件下でスタートする場合、ドラミ時にペースカーの最低周回数
を前もって決めておく(3Lapはスタートしない等)。その間に競技団は出来うる限
り状況を把握し安全にスタート出来る環境を作り出す。コントロールタワー・ペー
スカー・車載カメラ・チーム(ドライバーから)等より情報収集し状況に適した指
示をペースカーに与える(ポールポジション車にも)」(エントラント代表)

「他のカテゴリーと違い、車速(ラップタイム)が500と300では違いすぎる。その
あたりも考慮し、コースコンディションが少しでも悪い場合は中止する勇気が必要
ではないか」(チーム責任者)

「ドラミでの通達内容をドライバー、メカニックはもちろんレース関係者も知って
おく必要があると思います」(アドミニストレーター)

「(前略)ローリングスタートの場合、競技長は天候の状況や隊列の状態を見てダ
ンロップ出口付近で判断しますが、もう1周の時、ペースカーに連絡だけでなく、
同時に管制から11ポスト、12ポスト、13ポストに指示して黄旗を出したらどうかと
思います。台数の多いレースは隊列も長く、後続グループは状況が把握出来にくい
時も、最終付近のポストの旗を見て状況判断出来ると思います」(サーキット管制)

「(中略)前回の事故の場合もう少し管制がスムーズに指示してほしいと思いまし
た。各現場にいるオフィシャルは自分の見える範囲は行動できますが、見えない場
所の事故に関しては管制の指示で動くしかありません。たとえば管制では現場の状
況がモニターでわからない場合が有ると思うので、いち早く現場にいったレスキュー
などの人達が現場の事故の状況に応じて各現場に待機している車両(オフィシャル)
に管制を通さないで指示できる体制を取ったらどうかと思います」(救急)

「『ドラミ』をちゃんとやることは当たり前として、レース進行にもドライバーの
意見をもっと取り入れてみたらいい。現在は主催者とエントラント側の隔たりを多
く感じます。異常と思われるレース運営の結果をこのまま野放しにしたくはありま
せん。もちろん、施設の設備やオフィシャルの道具の充実は当たり前として、ちゃ
んと話し合う機会がぜひ欲しいです」(ドライバー)

■レスキュー体制に対する提案
「(プライベートでGT選手権に参加している救急外科、整形外科専門医の立場から)
今から約6~7年前の鈴鹿のF1の時には、予選1日目と2日目、そしてGP当日の3日
間、毎日19名のドクターがパドック内に設置されたメディカルオフィスはもちろん
のこと、コントロールタワーやヘリポート、各主要ポストに常駐する。そしてナー
ス17名、レスキュー46名、消防士39名の救護関係者が3日間、レースを見守る。延
べ人数にして約360名もの人々が、GPレースの救急医療スタッフとしてボランティ
アで働いているのである。3日間続けて働くスタッフもいれば、サーキットに常駐
するのは1日あるいは2日のみといったドクターもいる。だが、サーキットに常駐
しないドクターたちも大学病院や自分が勤務する病院に戻って、メディカルヘリコ
プターで運ばれてくるかもしれない重傷のF1ドライバーのために待機しているのだ。
 メディカルセンターに詰める各ドクターの専門科目は、麻酔科医1名、胸部外科
および一般外科医1名、整形外科医1名、熱傷専門形成外科医1名、脳外科医1名、
その他2名となっている。これだけのドクターが、救急専門に休日にそろっている
病院はあまりないのではないだろうか。小生が一時勤務していた大学病院の救命セ
ンターの休日当直体制でも、これほどのスタッフはいなかった。メディカルオフィ
スだけでなく、各主要ポストにもドクターとナースが常駐しており、酸素ボンベを
はじめとするトランク4個分もの救急セットが配置されている。事故現場でただち
に救命処置が取れるようになっているわけである。事故が発生してドライバーの生
命にかかわるような負傷を負った場合、いかに素早く救命処置が行えるかが、命を
救ううえで重要なポイントである。これらのスタッフの他に、救急医療に必要なレ
スキューカー13台、消防車17台、救急車7台、レッカー車6台、キャリアカー9台、
クレーン車8台、メディカルヘリコプター2機が待機しているのである。
 これほどまでとは云わないが、今や国内レースで最大のエントリーと観客動員を
誇るGT選手権である。メディカルスタッフだけでなく、レースの裏方さんの充実を
図ることも重要な事ではないだろうか。
 レスキューカー、チェイスカー、ドクターカーなどを各サーキット任せにしない
で、GTアソシエイションとして保有することも一つのアイデアかと思われます。も
し、GTアソシエイションで専属のドクターカー兼用のチェイスカーを用意されて
(足の速いステーションワゴンに医療機材をセットしたもの)、各レースを転戦さ
れる用意がおありであれば、小生、ドライバー兼ドクターとしてお手伝いする意向
は持っております。
 勿論、これらの自動車は大きな自動車メーカーからの協賛で行うのです。
 TVでは、なんだかよく訳の解らないお嬢さんが何やらバラエティ番組のノリでイ
ンタビューしたりお話をしているが、そうしたシーンだけでなく、オフィシャルや
メディカルスタッフなどの裏方さんたちをもっとクローズアップして、こうしたス
タッフの仕事を多くの人々に伝えることが必要だと思う」(ドライバー)

「火災事故が起こってしまった時 各ピットに耐火服を着用した給油マンがいるの
でバイクを利用して現場に急行できるルールがほしい(消火は1秒を争い、生命に
つながる)」(チーム責任者)

「スタッフ(マーシャル)のプロメンバー化を… マーシャルやレスキュー作業に
は熟練した知識と経験を生かした瞬時の判断力が求められると思います。しかし、
現在のボランティア(と聞いています)的な活動メンバーでは各サーキット毎にマ
ーシャル教育がさまざまであり、更に同一カテゴリーでの全日本レベルのレースは
一つのサーキットで年に一度しかなく、その結果、各コースでの作業や判断の統一
性に欠け、経験も乏しくなるのは致し方ないことと言えます。(中略)安全で速や
かな処理方法を施すには、多岐に渡り多くの専門知識と経験が必要となります。今
回の事故要因の一つに考えられるローリングスタート時のペースカードライバーな
ども著名なベテランドライバーをスタッフの一員として選び、シリーズを通したGT
レースのウリとしたいものです。正確に公平なジャッジを下し、クラッシュ処理や
負傷者を速やかに安全に対処する。更なる次戦へのレベル向上を目指す為に、厳選
し訓練されたGT専属のマーシャルやオフィシャル、レスキュー組織の誕生を望みま
す」(チーム・ジェネラルマネージャー)

■サーキット設備等に関する提案
「競技運営側は『ポストを見ないドライバーの過失』という一言で処理しますが、
信号旗は安全確保のため非常に重要なものですので、せめて『黄旗』と『赤旗』の
2種類をストロボ式のランプに変更してはいかがでしょうか」(チームマネジャー)

「富士のレースは雨と霧で視界不良が多いので特別に富士ルールを作ってみてはど
うか? 1.最終コーナーに信号(スタンド前と同じ)をつくって2クラスの車が、
1クラスの車がスタートしたかどうかを信号で確認出来るようにする。追い越しは
コントロールラインを通過した後とする。 2.最終コーナーのオフィシャルがス
タートした場合は青旗を振る。やはり追い越しはコントロールラインとする。 3.
シケインと最終コーナーに新しく信号をつける。1クラスがスタートした時に2ク
ラスの最後尾にまだ居るので。 4.インディーカーみたいにコース全周に信号を
つける」(チームマネジャー)

「スタートディレイ時にも、何らかの信号を点灯させる。また、コース上の信号で
は、特に雨に日の水しぶきにより見えづらくなるので、ストレートの両サイドの低
い位置にも補助的に信号を追加する。ドクターカーや消防等は、直ちに出動できる
よう、ピットロードエンドにも待機するべき。また、ポストから遠いところでの事
故発生に備え、オフィシャルがすぐ移動できるよう、各ポストで車に乗り待機する。
車載消火器を持って駆けつけられるよう、外し方等を再確認しておく」(ドライバー)

■ハード面(車両)についての提案
「車内消火器を1本から2本搭載。1本はドライバー保護用、残り1本はエンジン
にボタンひとつでON出来る様改善中。(中略)負傷者が出た場合は他のすべてのチー
ム、又、選手として救済の為の協力(少しでも)が出来たら良いと思います。たと
えお見舞でも…」(チームオーナー)

「車両には自動消火装置のようなものの設置を義務付けるべきではないかと考えま
す」(チーム役員)

「車両後部に雨天用バックフォグランプなどの取付」(メカニック)

「フューエルライン上におけるワンウェイバルブ(IN側、OUT側)の必要性を感じ
た(F3000などでは10年ほど前から付いていたのでは…)」(メカニック)

「性能を均等化するという名目でMAX120kgのウェイトを室内に固定した場合、今回
の事故のような追突で20~30Gかかった時にはたして安全なのかどうか、再検討す
る必要がある! やみくもに重量をのせることしか性能を均一にできないのか。安
全面・ランニングコスト面から再度検討」(チーム責任者)

■ウェア等、装備についての提案
「ツーリングカーでも、フォーミュラと同じバイザーを(ドライバーに)使用させ
る。インナーウェアーもきちんと着用させる。メカニックも可能であれば、耐火スー
ツでレースに参加する。メカニックや限られたスタッフ以外は、なるべくピットの
中に入れないようにする。準備できる限りの消火器をピットの中にも置く」(レギュ
レーションで決められている数以上に)」(チーム関係者)

「ジェットヘルメットの廃止。スーツの防水スプレー等対策。メカニック全員へ防
火スーツ(トリプルレイヤー)の着用。ピットエリアへの入場制限(メカニック以
外の)」(チーム関係者)

「ドライバー、給油マンは安全基準を満たした装備を身につけているが、給油時に
は他のピットクルーも危険にさらされるため、クルー全体の安全装備の充実をはか
る」(チームマネジャー)

■各人の心構え等
「私は、第3戦より給油を担当することになったが、まず、耐熱用の衣類、消火に
必要な物をそろえ、消火器に関しては作業するすぐ近くに常に置き、頭の中ではい
くつかのシュミレーションをして、どのように対応すれば良いかを考えておくこと
が必要である。また、事故に備えて給油の練習、消火する人の配置と、もしもの時
のためにチーム全員でどのように動けばよいかを話し合うことが大切であり、周り
の人々の動きを把握することが大切である。よって、事故が起こった時にどうすれ
ばよいかを考え、チーム全員で話し合い意志の疎通をはかっておくことが大切であ
ると思う。そして、実際に起こった時のために全員の動きをシュミレーションする
必要がある。その中から事故の時に冷静に動ける努力をする」(メカニック)

「ドライバーとしていろいろな事故を見てきて感じることは、レースの前夜はしっ
かりと睡眠をとり、十分にリラックスして、当日は集中して挑まなくてはいけない、
ということです。これがドライバーにとって、まず一番の事故防止策であり、ドラ
イバーの義務であると思っています。もちろん事故は起こって欲しくないですが、
もしもの時のためにフォーミュラーカーでなくともヘルメットのシールドはカット
シールドを使わないようにしようと思います。また、ヘルメットの手入れ、レーシ
ングスーツの中に着るものにも十分に気を使う必要があると思っています。万一、
事故が起こったときは、即座に的確な状況判断ができるためにも集中力と緊張感を
持ち、挑むべきだと思います」(ドライバー)

「富士での事故の際、チームの消火器を持って飛び出したが、いかんせん遠く重い
ために断念してしまった。もう、ドライバーも脱出していたと思ったからもあるが、
今思えば、まだ十分に間に合っていた。個人的には、遠くても消火作業を断念しな
いようにならねばと思う」(メカニック)

「理想をいえば、事故を起こした後続の車両のドライバーが、すぐ対応できるわけ
だし、もっとも早く的確な動きができるのではないかと思う。だが、レスキューも
ともに動くことが望まれる。先の事故では、僕も含め、すべてのドライバーが山路
選手のような判断と行動がとれたら、事はもっと小さく済んでいたと思われる。す
べての関係者がこれからはそうありたいと願う」(ドライバー)

「富士での事故の時は、火が出た瞬間に私たちのチームのピットからも消火器を持
って走りました。ですが、ピット出口でオフィシャルに止められて、消火作業はで
きませんでした。危険であるということは当然だと思いますが、ドライバーだけが
消火作業をしていたという状況では、もっと的確な指示をしてもらえると良いと思
います。私たちのチームは以前火を出したこともあり、安全にはかなり気を使って
います。給油マンのスーツもドライバーと同じものを使用し、給油の練習等も十分
に行っています。ただ、安全についてはやり過ぎということはないので、気が付く
限り今後も安全に心掛けようと思います。また、自分としてはエンジニアとしてチー
ムに指示を出す立場にあるので、このような事態が起きた際に焦らず的確な指示を
出すようにしたいと思います」(エンジニア)

*スペシャルレポート4に続く

                       GTアソシエイション事務局
                         GTインサイドレポート班
                        古屋 知幸 = QYB04322 =


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