Japanese F3

ANABUKIレーシングチーム リリース Rd.6-2

            ANABUKIレーシングチーム
     1995年 全日本F3選手権シリーズ第6戦 レースレポート
〔決勝レース〕
 予報通り、朝から降り始めた雨はどうやら止みそうにもありませんでした。
 ウォームアップ走行で、コース上の水たまりがかなり深くなっていることを確認した本山選手は、いったんピットにもどってマシンの車高を上げ、フロント・ウイングの角度を少し立てぎみに調整し直しました。コーナリング時に前輪のグリップ感が少なく、マシンが外へ逃げようとする(アンダーステア)ので、ウイングを立てて空気抵抗を増やすことで、フロントの挙動安定を図ったのです。
 しかし、ますます強くなる雨のまえでは、グリップ感がなくマシンが滑ってしまうのは仕方のないこと。アンダーステアを完全に解消しようとセッティングをいじりすぎると、逆に今度はオーバーステア(マシンが内側に巻き込む動き)になる危険があります。
 前輪が不安定でおこるアンダーステアなら、ドライバーのハンドル操作やアクセルのタイミングでカバーできますが、後輪が不安定になるオーバーステアの場合ドライバーの運転でカバーするのは難しいのです。
「アンダーのキツいところで無理しなくてもいい。ストレートで追いつけるからな」と、松本監督の最後のアドバイスにうなづいて、本山選手はスターティング・グリッドに向かいました。
 1周のフォーメーション・ラップを終えて全車がグリッドに再整列し、いよいよレースがスタートしました。
 シグナルが赤から青へ変わるタイミングがすこし長かったためか、ポールポジションのロサ選手の動きが少し遅れ、その間隙をついて本山選手のマシンがロサ選手より半車身ほど前へ出かかりました。
 ところがその時、本山選手とロサ選手の間に割り込んできたマシンが一台。予選3番手の早田岳史選手がミサイル発射のようなスタート・ダッシュで、猛然と突っ込んできたのです。
 ロサ選手の前に出かかっていた本山選手でしたが、後ろから突っ込んできた早田選手に接触されそうになり、とっさにステアリングを外へ切りました。その瞬間、加速していたマシンの動きが僅かに鈍り、一度は抜きかけたロサ選手のマシンに抜き返されてしまったのです。
 ロサ選手と並んで1コーナーに進入した早田選手は、勢いあまって止まりきれずまっすぐグラベルベッドへ。前を横切る早田選手のマシンを危うく避けたロサ選手が、結局トップで1コーナーを立ち上がりました。
 本山選手はロサ選手を追って1コーナーから2コーナーへ。はでに飛んでくる水しぶきの向こうにライバルの姿が滲んでいます。
 あいかわらずマシンの挙動は不安定なのは、だんだん強くなる雨のせいでしょうか。前を行くロサ選手のマシンも自分と同じか、それ以上にふらついているのがわかります。
「負けるもんか!」本山選手は必死でマシンをコントロールしながら、ロサ選手の後ろ姿を睨みつけました。
 はじめは1秒以上開いていた2台の間隔が、目に見えないほど本当に僅かずつですが、1周ごとに確実に接近し、10周を過ぎる頃にはその差コンマ5秒にまで縮まりました。 しかし、それからがどうにもなりません。
 ますます激しさをます雨に何度か足を取られそうになるたびに、本山選手のそれまでの努力は泡となり、あっという間にロサ選手との差が広がってしまいます。
 先頭のロサ選手も何度かスピンしそうになってタイム・ロスするのですが、前車の水しぶきを受けず視界が良いぶんだけ、本山選手よりロスを挽回しやすいのです。
 近づいては離れ離れては近づきの繰り返しで25周が過ぎ、レースはチェッカーとなったのでした。
◇本山 哲選手のコメント◇
 スタートでせっかく掴みかけたチャンスを確実にできなかったのがとにかく悔しい。
 ただ、早田選手のマシンがほとんどぶつかりかけていたので、考える間もなくステアリングを切って、それを避けるしかなかった。
 レース中はアンダーステアがとにかく酷くて、何度も吹っ飛んでいきそうになった。
 でもそれはロサ選手も同じなので、前に出れなかった言い訳にはならない。
◇松本恵二監督のコメント◇
 ウェット・コンディションでは誰でもアンダーステアになるもの。
 それをどう克服して、相手を凌ぐかがドライバーの腕の見せ所だ。
 今日の本山の場合、コーナーの立ち上がりのアクセルの踏み込み方が、濡れている路面に対してほんの少し早く、そのぶんパワーをロスしていた。もっともっと丁寧な足の操作で、アクセルを踏み込まないと..。
 その点、今回のロサ選手のアクセル操作は敵ながら見事だった。
 本山にもそれが出来るはずだし、もっと意識的にそうしなければならなかったのだ。
 6ポイントを加えてランキング2位は守ったものの、ロサ選手とのポイント差は11点にひろがってしまいました。もし、次の菅生戦でロサ選手のトップ・ゴールを許してしまうことになれば、そのままシリーズ・タイトルもさらわれてしまうのです。
 表彰台の本山選手は、かつてない厳しい表情で、降りつづける雨空をじっと見据えておりました。
 背水の陣の第7戦は、7月30日宮城県のスポーツランドSUGOで闘われます。


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