Japanese F3

ANABUKIレーシングチーム レポート Rd.3-2

<決勝レース>
 なぜ、本山選手のタイムは伸びなかったのでしょう?
 道上、ロサ両選手のトヨタ・エンジンと本山選手の無限エンジンの特性の違い、新
品タイヤでのマシンバランスの不安など、その理由はいくつか考えられますが、松本
恵二監督は「ドライバー本人の問題やな」と言い切ります。
 つまり、本山選手の「ポールポジションを取るぞ」という気負いが仇となり、コー
ナー進入で突っ込み過ぎてしまい、タイム・ロスしてしまったというわけです。9回
裏、勝利を意識したピッチャーがボールを連発してしまうようなものでしょうか。
 しかし、そこは典型的な現代ッ子の本山選手。過ぎたことをクヨクヨする性格では
ありません。「予選タイムが出なかったのは、きっと何かの祟りだったんですよ」と
元気にジョークを飛ばして決勝レースに臨みます。
 日曜日は雨こそないものの朝から強風が吹き荒れて、筑波上空はまるで嵐のような
天候でした。
 決勝前の15分間のウォームアップ走行では、サーキット周辺の畑からもうもうと舞
い上がった砂埃がコース上に落ちてマシンを滑りやすくするうえに、突然の強い横風
がスムースなコーナリングを邪魔し、緊張するドライバーの心をかき乱します。
 追い抜きが難しい筑波では、スタートがいつもに増して重要です。
 シグナル・グリーンを合図に、本山選手はヒール・アンド・トゥの素早い操作でク
ラッチを繋ぎましたが、エンジンの回転数を上げすぎてホイールスピンをおこし、前
の二人より僅かに出遅れてしまいました。
 ところが何が幸いするかわからないもので、出遅れたおかげで1コーナーでの道上
選手とロサ選手の接触事故に巻き込まれずにすみ、本山選手はスピンした道上選手の
側をすり抜けて2番手に浮上。スタートの失敗で一瞬ガックリした本山選手でしたが
、俄然元気が湧いてきて、ぐんぐんロサ選手を追い上げます。
 16周目の最終コーナー立ち上がりでロサ選手が少しフラつき、2台の間隔はいっき
に接近。チャンスとばかりに本山選手はロサ選手のスリップストリームを利用してそ
のアウト側に並びましたが、敵もさるもの。1コーナー、第1ヘアピンと、がっちり
イン側のラインを守って本山選手の行く手を阻みます。
 本山選手はカッカする自分を静めるためにも、少し離れてロサ選手の様子を後ろか
らみることにしました。
 ロサ選手のマシンは明らかに安定を欠いており、特に最終コーナーがキツいようで
す。後で判ったのですが、ロサ選手のマシンは道上選手との接触でバランスが大きく
狂っていたのでした。
 敵の弱点を確認した本山選手は再び攻撃を開始し、みるみるロサ選手に詰め寄りま
す。
 22周目、最終コーナー手前からぴたりとロサ選手を射程距離にとらえた本山選手は
、メインストレートでロサ選手を抜いて、トップで1コーナーに進入しました。
 ところが、本山選手の走行ラインはコーナー立ち上がりでアウト側にはらみ、空い
たイン側を通ったロサ選手に抜き返されてしまいました。
 ロサ選手のテールを睨んだまま一周した本山選手は、前とまったく同じ方法で23周
目の1コーナーを奪いましたが、またしても立ち上がりでイン側がぽっかり。
 今度はアウト側の本山選手のほうが半車身さきにコーナーを立ち上がったのですが
、ロサ選手のラインが外側へはらんでしまい、本山選手は押し出される恰好でコース
アウト。マシンの態勢を立て直している間に、後方で3番手を争っていた早田岳士選
手とP・ペーター選手の2台が通り過ぎ、本山選手は4番手に後退してしまったので
した。
 この時の接触を「悪質な走路妨害」と本山選手は評しましたが、さてどうでしょう?
 レース中の接触事故というのは、あてられたと思う側にとってはまことに腹立たし
い限りですが、相手がワザとやった証拠はどこにもないのですから、事故の責任を相
手に押しつけるわけにいきません。一般道路の接触事故との大きな違いです。
 ロサ選手いわく「イッツ・レーシングだよ。イギリスF3なんかじゃ、20台からの
マシンがテールトゥノーズ状態で争っているから、接触なんてしょっちゅうさ。みん
な勝ちたくて、ひとつでも順位を上げるためにライバルのどんなスキも見逃すまいと
血眼になって走ってるから、あたりたくなくてもあたる時もある。自分があてられる
時もあれば、自分があててしまう時もある。レース中のバトルなんだから仕方ないよ
」とのことです。つまりロサ選手にすれば、イン側をぽっかり開けていた本山選手に
スキあり!ということなのでしょう。
 もちろんレース中の接触は危険ですから、できる限り避けるべきです。
 とはいえ、童夢チームが目指すF1で闘っているドライバーの全員が、ロサ選手の
語るところの<バトル>で鍛えられたドライバーであるのは事実であり、だからこそ
童夢は日本人F1ドライバー育成のために、若手ドライバーとともにF3をも闘いの
場として選んだのですから、それを十分承知の本山選手は負けるわけにはいきません。
 さて、幸いマシンにダメージのなかった本山選手は、他車が56秒台のところをひと
り55秒台で周回し、みるみる順位を回復しました。
 26周目に再び2番手を取戻したあとも追撃の手を緩めず、39周目には”三度目の正
直”の1コーナーでロサ選手をとらえ、今度こそはイン側を死守してコーナーを立ち
上がり、ついにトップを奪いました。
 実はこの時もロサ選手が本山選手に追突したのですが、今度ばかりは本山選手もガ
ンとしてひるまず、逆にロサ選手がフロント・ウイングにダメージを受けたのです。
 まさに死闘の45周レースにチェッカーが振られ、本山選手は今季初優勝。3秒遅れ
でロサ選手が2位に、そして1周目のスピンで最後尾にドロップした道上選手が目ざ
ましい追い上げで3位に入賞しました。
◇本山 哲選手のコメント◇
 いろんなことがあったけれど、自分なりにほぼ100点の満足できるパーフェクト
なレースでした。ロサ選手に押し出されてコースアウトした時も、絶対にリタイアだ
けはしたくなくて、気を取り直して、諦めないで追い上げたのが結果に繋がったんだ
と思います。 F3に参戦して6年目の初優勝について、勝ったこともですが、自分
の力を出し切れるマシン・体制で今年はレースを出来るということがとても嬉しいで
す。
 これからもチームや応援して下さる皆さんに喜んでもらえるよう、精一杯頑張りま
す。
◇松本恵二監督のコメント◇
 一時はどうなることかとヒヤヒヤしたが、結果オーライですね。今日の本山は本当
によくやった。
 再三ロサ選手の前に出ながら二度も追い越しに失敗し、ロサ選手と接触したのは、
もとはと言えば本山がイン側を空けてしまったから。インベタで立ち上がって、ロサ
選手の鼻先を抑え込んでいればああならなかったハズだ。三度目にはイン側を抑える
ようにしたので成功したけれど、もっと早くそうしないとね。
 でもまあ、追い上げて結果的には競り勝ったんだから、素直に褒めてやりたいです
ね。
 ウイナーズ・サークルでマシンを下りたロサ選手が差し延べた手を受ける本山選手。
「おめでとう、悪かったな」「わかってるよ」「お前もヤるな」「ああ、そっちこそ」
という無言の会話が、背中をたたきあう二人から聞こえてくるようです。
 デ・ラ・ロサ選手、道上選手、今回はエンジントラブルで力を発揮できなかったペ
ーター選手と、ライバル達も虎視眈々とチャンスを窺っています。
 シーズンの厳しい闘いは、まだ始まったばかりです。
 次戦は二週間後。5月7日、山口県のMINEサーキットで行われます。


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