全日本F3000選手権第9戦 富士 決勝 取材メモから 優勝 20 アンドリュー・ギルバートスコット(予選:5位) 記者会見の会場に現れたアンドリューに、嬉しいという表情はなかった。 一見、楽に逃げ切った様に見えたレースだが、 決してそうではなかったことが、彼の表情からうかがえた。 予選2回目のタイムアタックでは、ニュータイヤを付けて走り出だした 途端に赤旗中断。満足にアタック出来ずに、不本意な5位だった。 決勝レース、そんな彼に幸運が訪れた。スタートでグリーンランプが 点いた直後に、18ダニエルソンがエンジンストール。彼の後ろのグリッド だった25ロスは一瞬出遅れた。アンドリューは3番手で1コーナーを抜けた。 「僕のマシンはストレートスピードがあるから、ここ富士で多少有利だった。 だから、スタートでロスとトーマスの前に出れたはラッキーだった。 実は、みんな(他のBSユーザー)より少し堅めのタイヤを選んだ。 これはもっと前でスタートすることを予想したからで、こりゃ失敗かなと 思った。だから、マルコに追いつくことはできると思ってたけど、 かなりしんどいなって。それが、1コーナーで3番手だろ。ラッキーだったよ」 彼はそのトップスピードを活かして、マウロ、マルコをあっさりかわし、 トップに立つとじわじわと差を付けだした。 「あとは十分な差を早めに付けて、その差をキープすることを考えた。 確かにマルコのプレッシャーはきつかった。 けれど、彼のタイヤが早くから傷んだらしくて、ペースが上がらないようだった。 僕の方は、選んだ堅めのタイヤがこの気温に合っていて、全く問題がなかった。 そう言う意味では作戦通りに進んだ。彼との差はタイヤの差だったんだろう」 質問がチャンピオンのことに進むと、アンドリューの表情はさらに堅くなる。 「チャンピオンのことはまだ分からないよ。マルコはとっても速いしね。 鈴鹿ではロスも速い。マウロもホシノもいるし。とにかくベストを尽くすだけだ。 まだわからない」 87年に日本F3に登場して以来、ようやく手にしたビックチャンス。 しかも、荒っぽいとか、ムラがあるなど、そのスピードの割に高い評価を 得ていなかった彼が、ついに頂点の見える位置に来たのだ。 本当の真価を証明するレースを前に喜んでいられないのも分かる気がする。 2位 8マルコ・アピチェラ(予選:1位) 勝てるはずのレースだった。彼の顔にはそう書いてあった。 開口一番、 「アンドリューの言うとおり、タイヤの差だけだよ」 普段は、明るいおとなしい感じのマルコが、かなり強い語調で そう言ったのには、正直驚かされた。 ご存じの通り、この不況下でレースを支えているのはF1でも、F3000 でもタイヤメーカーの力である。だから、公式の席ではあまりタイヤのことは 言及しないのが、不文律となっている。それをあのマルコがあえて言い切った のだから、彼の心中に穏やかでないものがあったのだろう。 盲腸の手術も無事に済み、体調も万全。鈴鹿のテストで光貞がクラッシュさせた 彼のレースカーも全く問題なく仕上がっていた。 予選では赤旗後の混雑した状況で、2位だった。それなのに、ダニエルソン のタイム取消により、タナボタでポールを拾った。流れは彼にあるはずだった。 「とにかくタイヤが安定していなかった。気温が高かったので、 後半は苦しいかと思っていたけど、すでに10周過ぎからおかしかったんだ。 バイブレーションが出て、あのタイムが精一杯だった。ちょっとでもラインを 外したり、操作が大きくなるともうメロメロだった」 マルコはもう、余計なことは話したくないと言った風情。 チャンピオン争いのことでも、言葉は少ない。 「ご存じの通り、鈴鹿は抜くところが少ない。だから予選が最大のポイントだろう。 ロスも速いけど、僕にとっての勝負はアンドリューだけだ」 と、はやくも一騎打ちへ気持ちは向かっているようだった。 3位 9 マウロ・マルティニ(予選:3位) ここのところパッとしないマウロだが、終わってみればしっかりと 3位を獲得していた。 「とにかく、トップスピードが足りないんだ。予選の2回目では だいぶ良くなったけどね。その分コーナーで頑張るから ちょっとアンダーが気になるし」 と、マシンのポテンシャルにいたくご不満の様子。 レースでも 「今のマシンの状態を考えれば、この成績はベストだよ」 とひとこと。 レース序盤は11黒澤と激しく3位争いをしたが、彼が脱落すると 後方から上がってきた星野が、3~2秒の間隔はあるが、 激しいプレッシャーをかけてきた。 「ホシノのプレッシャーは結構すごかったよ。ただ、彼はタイムに ムラがあったね。だがら、何とか逃げ切れると思った。 それより、周回遅れが気になったね。まったく、誰がジョーカーを引くか そんな感じだったよ」 ちなみに星野は 「チームからとにかく結果を残すように言われてさ。無理はしないというか 優等生の走りをしたよ。ちょっと、フラストレーションも溜まったけど、 これが成績に繋がったんだと思う」ということでした。 外国人3人ともおとなしいタイプだったためか、 日本人もいなかったせいか、 上位2人の気持ちがすでに鈴鹿に飛んでいたせいか、 すごく静かに淡々と進んだ記者会見だった。 このコメントは、トップ3記者会見の会話を中心に、 チームリリースと古屋が拾った話を加え、再編したものです。 11月13日 富士スピードウェイにて取材 古屋 知幸 = MGG01235 =