全日本F3000

童夢インサイドレポートvol.1

◆童夢インサイド・レポート 第1回 「鈴鹿タイヤテスト 一日目の巻」
 3月に始まった94年シーズンもあれよあれよという間に過ぎて、あと2戦を残すのみ。 ここまでを振り返ると、童夢チームとして最大の目標であるシリーズ・チャンピオンの獲得へ、まずは計画通りに進んでいると言っていいだろう。
 しかし”終わりよければ全てよし”の諺じゃないが、終わりでコケてしまったら、ここまでチームが流してきた血も汗も涙も膨大な資金も全てパア、である。
 3勝一番乗りを果たし、改めて兜の緒を締めて、よっしゃ!チャンピオン・ロード一直線やー!という時に、肝心のM・アピチェラが盲腸に倒れた(第7戦鈴鹿の予選日に発病した)のは、本人はもとよりチームにとっても”痛い”話だった。
 幸いマルコは手術も無事に成功し、ただいまイタリアで自宅療養中。11月15日の第9戦富士戦にはパワー・アップして完全復活する予定である。
 さて、本題のに移ろう。
 25、26日に鈴鹿で行われたタイヤテストは、シーズンを締めくくる11月の鈴鹿ミリオン最終戦で勝つためのタイヤ開発が主な目的である。
 ここへきてタイトル争いの直接ライバルとなったA・G・スコットはじめBS勢、第8戦の富士で3位に入った国さんらYH勢も、残り2戦で”結果”を生み出すべく、朝9時のスタートを待ちかねたように一斉にコースへなだれ込んだ。
 童夢の二人のドライバーにとっても、この鈴鹿テストはそれぞれの意味で強いプレッシャーを感じての発進となった。
 特に、前回の富士戦からチームの一員となったM・クルムは、アピチェラに代わりテストの主軸となって何種類ものタイヤを試す役目を果たしつつ、自分の走りの能力を最大限にアピールしなければならない。
 クルムの能力の高さや底力は、デビュー・レースでの4位入賞&ファステストラップ記録ですでに証明済だが、いま問われているのは、限られた周回内にどれだけタイムアップできるか、つまり予選でどのポジションを得られるかなのだ。
 ご承知の通り今の全日本F3000は、サーキットにもよりけりだが、予選結果が決勝結果の80%を決定すると言って過言ではない。
「何周も何周も走ってたら、誰かてある程度のタイムアップはできるんや。問題は、いかに早く、僅かな周回数でタイムを縮めていけるか。ドライバーはその技を身につけなアカン」と松本監督。もちろん、クルムとてそのへんのことは了解している。
 しかし、何と言っても乗ったばかりのF3000、しかもF3000で初めての鈴鹿なのだ。二日間のテストでその”技”を習得できるか否か。
「最終戦は1-2フィニッシュや!」という林ミノル代表の”至上命令”も発せられているのだから、クルムには悩んでいるヒマなんてなかった。
 一方、クルムにシートを譲ることとなったみっちゃんこと光貞秀俊にとっても、今年最大の正念場をむかえていた。
 もともと今季はテスト・ドライバー契約の予定が、諸般の事情でレースに出場することになったのだから、考えようによっては本来の立場に戻っただけなのだが、人一倍負けず嫌いの光貞にとって今回の交代劇は、屈辱以外の何でもなかっただろう。
 もちろんチームとしても別に光貞を見捨てたわけではなく、彼の可能性に期待していることはいまも全く変わりない。
 ただ実際問題、今の光貞ではチームの目標、すなわちドライバー、チームの両タイトル獲得という目標達成に対し、いまひとつ力が物足りないので、しばらく第一線から退いてもらったというのが事実で、できれば最終戦には3台エントリーしたいと思っている。
 今度の交代劇については他のチーム関係者やプレスの間でも「なにも今になって交代させなくても・・」という声が上がっていたようだが、じゃあ、本来の能力を発揮させてもらえないでいたマシン/童夢F104や、必死でマシンを作り面倒をみてきたチームのスタッフは可哀相じゃないのだろうか。
 光貞が今度のことに悔しさを感じたのなら、クルムからシートを奪い返すくらいのつもりで奮起すればいいのだし、我々だって彼が奮起し、ドライバーとして飛躍してくれることを願っているのだということは、知っておいてほしい。
 さて、頭を切り換えて鈴鹿にやって来た光貞には、タイヤの磨耗度を調べるロングラン・テストが待っていた。
 セッティングにタイヤ等、全て9月の鈴鹿戦仕様のマシンでコースに向かい、ゆっくり一周流した後の2周目。光貞は130Rでいつも通りに飛び込んだつもりがリアが右に振れ、態勢を立て直そうと左にステアリングを切り返したところそのままスピンし、アウト側のタイヤ・バリアに突っ込んでしまった。
 場所が場所でもあり、光貞がコクピットの中でくったりしているのを見て、後ろを走っていたドライバー達もビックリしたらしい。
 星野一義が慌ててマシンを止めたのに続き、スコット、影山正彦、M・マルティニらが駆けつけ、光貞をコクピットから引っ張りだした。光貞は背中を強く打ち、一瞬意識を失っていたがすぐに回復。幸いにも大事には至らず、パドック全体がほっと胸をなで下ろした。
 だが、マシンの方は左側のタイヤは二本とももげ、前後ウイングが吹っ飛ぶ大損害だ。 明日までに修復はできそうだが、光貞が乗っていたのはアピチェラのレース・カーなので、いずれにせよ工場に帰ったら慎重に慎重を重ねた点検・修理をする必要がある。
「このことはマルコには内緒にしとこなぁ」と童夢の面々は頷きあったが、マウロにJ・クロスノフetc...いづれはマルコの耳に届いてしまうだろう。
 路面にタイヤのラバーがのっておらずまだまだ滑りやすかったせいか、光貞の30分後にはR・チーバーが、その30分後には田嶋栄一がクラッシュして赤旗続き。もっとF3000に慣れたいクルムにとっては、マシンやタイヤの状況を読み取る上でも、有り難くないコンディションだ。
「いろんなコーナーでマシンのリアがナーバスな動きになる」というクルムの訴えに、チームはリアウイングを大きめのものと交換。リアのダウンフォースを増やし、マシンを抑えることでオーバーステアを解消する方法を取る。
 また、ピットに入る度に異なった種類のタイヤにはきかえ、ラップタイムも1分52秒台から1分46秒台へ目にみえて上昇しているのだが、それがタイヤの違いのせいなのか、ドライバーがマシンに慣れてきたことによるのか判断しづらい。これがアピチェラであれば迷うこともないのだが・・。
「午前中にはいた中で、もしいまレースに使うとしたらどれを選ぶ?」と松本監督はドライバーに選択を迫り、そこでクルムがチョイスしたタイヤと、その前後の硬さのタイヤで午後のセッションに臨むこととなった。
 涼しいくらいだった天候も午後にきて気温が上昇し、路面温度は30度。一ヵ月以上先の想定コンディションより10度以上も高いことから、クルムに振る予定だったロングランテストは中止にし、タイヤの比較テストをさらに進めることとなった。
 午後のセッションが始まり、何度か種類の異なるタイヤにはきかえてみたものの、クルムのタイムは1分46秒台の壁を破れない。
「頑張って頑張って走ってるんだけど・・。午前中にトーマスの出した1分44秒台なんて全然みえない」とクルムは萎れている。46秒台から先の速さの世界が、自分の中にイメージとして湧いてこないのだ。
 例えば絵を描く時、予め描きたい対象をイメージとしての中に置くからこそ、それを実際にキャンバスに移せるのであって、頭の中に何もなければ絵は描けない。
 それと同じで、46秒より先のイメージが頭の中にない限り、どれほど素晴らしい道具が揃っていても、新しい世界に到達はできない。
 そこでチームは一計を案じ、それまでの試していたコンパウンドよりもソフトめのタイヤでクルムをコースへ送りだした。
 するとどうだ。2周目には46秒台を切り、一度ピットに入ってサスペンションの調整した後はあっという間に45秒前半。もう一度ピットに入った後は、一気に44秒台に突入し、2周目にはその日の全体のトップ・タイム、1分43秒843をマークして帰ってきた。
 こうなると再び始めの硬さのタイヤをはかせても、コンスタントに45秒台前半から44秒台後半のタイムをマークするようになるのだから面白い。
 クルムも自信を持ち、チームも思った通りの反応が返ってくることに手応えを感じて、テスト一日目は終了した。


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