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F3000 レポート [Rd.6 Fuji] (2)

                  Rd.6 Fuji
               [ FUJI INTER F3000 ]
                  1994.9.4
                    (2)
             《F3000レースレポート》
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 ■ギルバート-スコット 今季、富士2連勝を飾る
 Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
  前戦の菅生から1カ月以上のインターバルを置いて、9月を迎えてもまるで記録的
 な猛暑の夏が終わっていないぞ、とでも言う様な“熱い”富士にシリーズの舞台が
 戻って来た。その“熱さ”は、レース開始時刻には気温33度、路面温度55度とい
 う値を示す。この季節にしては予想以上に高い路面温度は、シリーズ後半戦のキーポ
 イントとなる重要な戦いに何を問うつもりなのだろうか。
  このところ決勝より“面白い”と評される激戦の予選を制したのは、ギルバート-
 スコットだった。ギルバート-スコットは、シリーズ第2戦の前回の富士で逆転ポー
 ル・トゥ・ウインを成し遂げ富士を得意としている。同じ富士とは言え、前回は全く
 条件の違う気温10度足らずの“寒い”状況だっただけに、単純に比較することはで
 きないが、“熱い”中でも確実にポールを占めてくるあたりは流石と言わざるを得な
 い。そして、その「当然さ」と言わんばかりの落ちつき具合が、いっそう不気味なほ
 ど自信を感じさせた。
  予選でそのギルバート-スコットと同じ1分16秒台のタイムを記録して、後ろか
 ら優勝を狙うのは、服部、黒澤の日本人コンビだ。ともに過去、このシリーズの優勝
 経験があるだけに、ギルバート-スコットを巻き込んだ三つ巴を期待したいところ
 だ。但し、服部には、必ずしも富士を得意としないレイナードという課題がある。特
 に路面温度の高いこの季節が課題とされてきた過去の経緯からマシンの不安は拭えな
 い。マシンの不安という意味では、黒澤とて同じ状況の様だ。前日の予選でモノコッ
 クにまで及ぶクラッシュをおこしており、メカニックが修復を行ったものの、その影
 響がどの程度残っているのかが不安になる。
  予選4番手には、94年型のローラの熟成をここまで“こぎ着けた”マルティニ。
 5番手には、チーバー。6番手には、ツーリングカーでのクラッシュの影響の心配さ
 れる星野と続く。激戦の度合いは7番手から9番手の後方に影山、アピチェラ、サロ
 のトップ選手が埋もれていることでも伺い知ることが出来る。その上、ポールのギル
 バート-スコットと9番手のサロとの予選タイムがたった1秒しか違わないのだ。
  前回の富士同様のポール・トゥ・ウインを狙いたいギルバート-スコットだが、前
 回と同じであってほしく無い点もあったはずだ。ギルバート-スコットは前回の富士
 でスタートに失敗し、23周目に渡ってアピチェラの後塵を拝する苦悩を味わってい
 る。そんなギルバート-スコットの思いを想像するとスタートランプにも一層の緊張
 がある様に思えた。
  シグナル・グリーンに最も素早く反応したのは、やはりポール・ポジションのギル
 バート-スコットだった。ギルバート-スコットは、オープニング・ダッシュを狙っ
 ていた2番手以下をいとも簡単に退け1コーナーまでを完全に制してしまう。
  ギルバート-スコットにつづく服部と黒澤は1コーナーまでに先を争ってサイド・
 バイ・サイドの状況を作りだすが、互いに相手を牽制するあまりギルバート-スコッ
 ト攻略はおろか後方から好スタートを切っていたチーバーに迫られしまう。
  そのチーバー、素晴らしいスタートで上位各車の間を縫って1コーナーを抜けるこ
 ろには、予選5番手の位置からギルバート-スコットに続く2番手へのジャンプ・
 アップを果たす。
  チーバーに先を越された服部、黒澤、マルティニはコーナー毎にその順位を激しく
 争う。まず、服部の前に黒澤が出る。すると、服部がフロント・ロウの意地を見せて
 最終コーナーまでに黒澤を再び追い詰め、ストレートで真横に並びかける。黒澤はこ
 の時なんらかのトラブルに捕らわれたかの様に、服部の先行をあっさり許すと、服部
 の後ろからストレートの加速を掛けていたマルティニにまで並びかけられる。黒澤は
 この周のストレートで服部とマルティニに先を越される。
  続いて、マルティニは黒澤をパスした直後の勢いのまま3番手の服部に襲いかか
 り、その順位を奪いとる。一方、マルティニに抜かれ5番手に落ちていた黒澤は更に
 アピチェラに抜かれ6番手にその順位を下げる。交錯し順位を入れ換えた黒澤とマル
 ティニに天と地の結末が下った感じがする。まさに、波に乗るマルティニと空回りす
 る黒澤を象徴する光景だった。
  スタートを難なく決めた感のあるギルバート-スコットにとって2番手以下のこの
 一連のバトルは願ってもなく好都合だった。この間にギルバート-スコットはグング
 ンと2番手以降を引き離しにかかることが出来た。混乱が一時安定した4周目のオダ
 ーは、ギルバート-スコットを先頭にチーバー、マルティニ、服部、アピチェラ、黒
 澤の順。
  混戦は更に続く。順位が安定してくると、マルティニにギルバート-スコットより
 勢いがあること見えて来たのだ。ギルバート-スコットが1分19秒688というタ
 イムを刻めば、マルティニは1分19秒200の上位で最も速いタイムを記録する。
  こうなると、マルティニにとってひとまずの“マト”は前を行くチーバーになる。
 案の定、マルティニは6周目の最終コーナーの立ち上がりでチーバーを捕らえ真横に
 並んで1コーナーを抑えた。ところが、チーバーはここで意地を見せ、マルティニが
 開けたイン側に飛び込み一旦は奪われたポジションをサントリーコーナーまでに取り
 戻す。まさに意地を見せたチーバーだったが、マルティニ側に優位があることは明ら
 かだった。7周目、マルティニは再びチーバーを1コーナーで先行、今度はしっか
 り、ブロックラインをとり決着をつけた。
  この後、チーバーは集中力を失った様に順位を落として行く。10周目に服部に1
 コーナーで難なくパスされると、12周目には同じ場所でアピチェラに交わされる。
 そして、14周目に6番手にまで順位を上げていたサロがチーバーに追いついた時に
 は、チーバーは先頭グループで最も遅いタイムを記録するまでに至っていた。
  ところが、難なく交わせる筈だったチーバーにサロは思わぬキバを剥かれる。15
 周目の1コーナーでサロがチーバーを先行した途端、サロのマシンは明らかにエンジ
 ンがブローしたと分かる白煙をもうもうと上げる。単なるメカニカルトラブルだった
 のか、ドライバーのミスだったのか。いずれにせよ、後方から上位進出を狙える機会
 だっただけにサロには惜しい結果となった。
  サロのトラブルとは関係なくチーバーの不調は続く。16周目には、8周目に黒澤
 をパスして6番手にまで上がって来ていた星野にパスされ、チーバーは、絶好のス
 タートを生かせないまま後方にその姿を埋もれさせる。
  レース序盤に後方で繰り広げられるこの様な情景とは全く別の次元を戦うのは、
 トップ独走の揺るがないギルバート-スコットだった。12周目にはひとり1分18
 秒台に突入するタイムを叩きだし快調に先を急ぐ。
  レース中盤、ギルバート-スコットは2番手マルティニとの間に3秒から4秒近く
 の優位を築くが、マルティニもこれ以上離されることは無く、ときおり一発の速さを
 披露しギルバート-スコットに必死に食い下がろうとする。
  一方、バトルが激しさを増したのは、3番手争いの方だった。21周目、3番手の
 服部にアピチェラが追いついてきたのだ。急接近したアピチェラは長い富士のスト
 レートで服部に牽制行動を示してから定石どおり1コーナーを奪い取った。ところ
 が、今日の服部は、ここで粘りを見せた。レース序盤のチーバー同様、1コーナーの
 立ち上がりでイン側に滑り込んで、サントリーコーナーまでに再びポジションを奪い
 返したのだ。服部に逆襲を食らったアピチェラは、23周目に再び攻勢を仕掛ける
 が、服部はここでも粘りを見せアピチェラを辛うじて退ける。
  そして、激しい3番手争いは30周目に意外な決着を見る。実は観客が服部とアピ
 チェラの激しい争いに、目を取られている隙に、5番手に順位を上げていた星野が1
 分18秒台の速いペースでこの2台に追いついて来ていたのだ。そして、この周に服
 部を追うアピチェラをパスしてまったのだ。ツーリングカーでのアクシデントの影響
 を心配されていた星野がこれで、4番手をゲットする。
  レース終盤、4番手を得てアピチェラに代わり服部を追う立場となった星野は33
 周目に服部との間隔を徐々に詰めはじめるが、35周目に服部が1分18秒874と
 いう、これまでのファステスト・ラップを叩きだして逃げ始めると、その間隔は逆に
 開き始めてしまう。服部のそのスパートを確認したかの様に、アピチェラが動きだ
 す。アピチェラは37周目に星野を1コーナーでパスし4番手を取り戻すと、ギル
 バート-スコット、マルティニ、服部の上位3台が行っている1分18秒台のタイム
 アップ争いに参加。38周目には、服部のそれまでのファステスト・ラップを更新し
 てくる。
  のこり数周、独走のギルバート-スコット、それを追うマルティニ、表彰台を狙う
 アピチェラがそれぞれの力の限界で疾走するが、結局、ポジションの変動は起こらぬ
 ままレースは幕を閉じる。
  レースが終わって、表彰台の中央にギルバート-スコットが立つ。本当に文句のつ
 けようが無い完全勝利だった。これは、彼が信頼するチームとともに登りつめた芸術
 の様にすら思えた。あまりの独走にレースの盛り上がりがいま一つ感じられないとう
 副産物を生み出すほどだった。
  2位には、マルティニが入った。マルティニがここまで上がって来るとは正直言っ
 て想像もしなかった。もともと力のあるドライバーなので、彼の実力に見合ったクル
 マがやっと出来てきたのだろう。長いインターバルの中で多くの課題を消化してきた
 チームの成果が現れて来たというところか。シャーシが出来れば、エンジンの優位を
 プラスして、恐い存在になるかも知れない。
  3位に入った服部は、本当に我慢のレースをした。次々やって来る追撃者を退けな
 がら、何とか3位を守り切ったというレースだった。それは、それで十分評価に値す
 るし、恐らく完璧でないマシンでのアピチェラとの攻防など流石と思わせるものだっ
 た。ただ、ひとつ気になったのは、このところ、彼のレースは余りにも“後ろ向き”
 の様な気がしてならない。彼ほどの人がまさか「3位を目指してレースをしている」
 のでは決してない筈だ。体制の整備を早めに整えて、ボク達に“攻撃的な守り”を見
 せてくれる事を期待してやまない。
  4位には意外に苦戦したアピチェラが、5位には「むずかしいね」と控えめのコメ
 ントをしていた“是ぞベテラン”という渋い走りを見せてくれた星野が、6位には、
 まさに“空回り”した感のある黒澤が入った。
  再び「高速の富士」と「テクニカルの鈴鹿」という2つの舞台にシリーズが戻って
 来た。さて、この先、誰が主導権を握るのか。舞台は10月の鈴鹿に移る。
  ひとまず、今日、秋の雰囲気の漂う“熱い”富士の1戦は終わった。
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 ☆ 文中に使用しました周回数やタイムには、計時モニターに表示されたものを目視
  にて読み取りしたものが含まれておりますので、必ずしも公式の記録及び結果とは
  一致しない旨ご承知置きください。
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 《次回レポートの予定》
   Rd.7 Suzuka  [ MILLION CARD CUP RACE Round3 SUZUKA ] 1994.10.2
   次回は、第7戦の模様を鈴鹿サーキットからお送りする予定です。
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                        レポート/福田 陽一(NBG01300)


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