Rd.2 Fuji
[ COSMO OIL International Formula Cup ]
1994.4.10
(2)
《F3000レースレポート》
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■ギルバート-スコット!初のポール・トゥ・ウイン
Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
週の始めに日本列島を覆った春の陽気は、レース開催スケジュールを知っていたか
の様に週末になって一変し、雨の気配は無いものの太陽が見えない気温10度という
非常に寒い天候となってしまった。レース開始時間が近づくにつれ、幾分陽射しが見
えはじめたものの16度という低い路面温度に変化はなかった。
各チームは、この急激な天候の変化をどの様に予想して決勝に望んだのだろうか。
同じく“曇り”のまま低い路面温度で戦った予選で、ポールポジションを獲得したの
は、前回の鈴鹿に続いて、ギルバート-スコットだった。前回の鈴鹿では、ポールの
優位を生かせず、予選3番手のチーバーにまんまと出し抜かれる恰好となったギル
バート-スコットだけに、激戦の予選を制した意気込みは、只ならぬものがあったろ
う。インタビューには無条件で“嬉しい”という表情を見せていたが、果して今回の
スタートはどうなるか。
予選2番手は、鈴鹿を3年連続で制し、今年もチャンピオンに“挑む”チーバーが
とった。「スタート位置はあまり関係無い」と今回も勝ち進みたい意向を覗かせる
が、当初から“レイナードの富士におけるパフォーマンス”が疑問視されていただけ
に、彼が今回どの程度マシンの実力を証明できるかがシリーズのカギとも言える。
そのチーバーの後ろには、前回の鈴鹿で2位に入り、童夢F104の基本性能と熟
成度の高さを見せつけたアピチェラがつける。「今年はチャンピオンになりたい」と
言い切るアピチェラは、昨年シリーズ第8戦のここ富士で、トップ走行中にカウルの
留金が壊れカウルがガタつくという不運に見舞われ大きなチャンスを落としている。
もしかしたら、アピチェラが、富士の難しさを最も知る人物かも知れない。
予選4番手には、富士スペシャリストの鈴木。5番手には、朝のウォームアップで
トップタイムを叩きだしていた一昨年のシリーズチャンピオン、マルティニ。そし
て、日本人期待の影山、黒澤と続く。前回、惜しくもリタイアした星野、日本人最上
位に入賞した服部、後半素晴らしい追い上げを見せた金石は、12番手、13番手、
14番手と後方に沈んでいる。もっとも、富士は予選順位を鈴鹿ほど要求しないサー
キットだけに、序盤の混戦さえうまく避けられれば、追い上げにも期待できる。
予選上位3人の1分15秒台を除けば、4番手から、実に15番手まで全て1分
16秒台という予選結果は、レースの凄じさを弥が上にも感じさせた。
大混乱を予想させるレースは、皮肉にも前回のビデオでも観ている様なギルバート
-スコットの脱落から幕を開ける。シグナルが変わって最も上手くダッシュをしたの
は、ギルバート-スコットの真後ろに位置する3番手のアピチェラだった。アピチェ
ラは、ギルバート-スコットがスタートダッシュに失敗する隙にイン側に滑り込む
と、ギルバート-スコットを一気に引き離そうと1コーナーに突進する。一方、アウ
ト側のチーバーは、ギルバート-スコットをアピチェラと挟みうちする様にイン側に
ライン取りする。ギルバート-スコットは、そうはさせじと、1コーナー進入までに
速度を回復、何とかチーバーだけは後方に追いやった。
1コーナーでは、前回マシントラブルに泣いた光貞が弾きだされる様に1コーナー
のグラベルにマシンを止める。事実確認は出来なかったが、光貞の後方で集団を抜け
出そうとしていた星野の左前タイヤとのタイヤ同志の接触の様に見えた。これで光貞
は、今回もまたリタイアリストの先頭に名を刻むこととなった。
この光貞のリタイア以降、序盤にトラブルが続出した。まず、服部がサントリー
コーナー手前でスピン。中谷がフロントウイングを壊してピットへ滑り込むと、高橋
が最終コーナー辺りでコース脇に車を止める。2周目には、光貞と同じ1コーナー進
入で檜井が止まりきれずにグラベルへ飛びだしてしまう。檜井はスタート前、マシン
の調子良さをあげながら「狙っています」と言っていただけに、惜しい戦列離脱と
なった。
まるで不幸の神でも取りついているかの様に、またもや、ポールポジションをフイ
にしてしまったギルバート-スコットが追うのはアピチェラだった。アピチェラはギ
ルバート-スコットに自らの優位を見せつける様にグングンとその間隔を開いていっ
た。オープニングラップが終了するころには、その差は2秒にも達する。依然順位は
激しく動くが、アピチェラの優位は揺るがず。それを追うギルバート-スコットを先
頭にした、チーバー、マルティニ、鈴木、サロが上位を形勢する。
この上位グループで最も勢いがあるのは、4番手のマルティニだった。アピチェラ
やギルバート-スコットに匹敵するタイムを立て続けに叩きだして、チーバーとの間
隔をつめて、4周目には、1コーナー進入でインからチーバーをかわす。そして、更
にギルバート-スコットが記録する1分18秒台前半のファステストラップを塗り替
えるラップの応酬を仕掛けてくる。一方、マルティニに3番手を奪われたチーバーは
タイムだけを見れば、後ろからやってくる鈴木よりも遅い。もっとも鈴木は、マル
ティニとほぼ同じタイムを記録しており、チーバーも1分18秒台後半を記録してい
る事を考えると、チーバーが遅いというより、鈴木が速いということかも知れない。
そのチーバーを追う鈴木にチャンスが訪れたのは、10周目だった。鈴木は、1
コーナー直前にチーバーのインを取るが、ここでは抜くまでには至らず、鈴木はチー
バーと並走したまま1コーナーからサントリーコーナーに向かう。チーバーが譲らな
かったのか、鈴木が攻めなかったのか。結局、鈴木は得意の富士ではチーバーという
壁の攻略に失敗し、以降チーバーを抜く機会を得ないまま、序盤を終える。
序盤、特に面白かったのは、7位以下の戦いだった。7周目辺りから、7位の黒澤
を先頭にした影山、クロスノフ、星野の争いが激化しはじめる。長い富士のストレー
トでスリップの奪いあいをする各車が周回ごとに順位を変えて最終コーナーに現れ、
相手にラインを読まれまいとインからアウトに激しく動くその様は、春に乱舞する蝶
の様でもあった。この中で、もっとも苦しいのはクロスノフで、必死のディフェンス
も功を奏さず確実に順位を落としていく。一方、攻めが当たっているのは、星野だっ
た。一気に集団を抜け出し上位に躍進しそうな勢いがある。
2、3周後には、このグループに金石が加わって、混戦の度合いが増す。金石は、
一気に順位をあげてきており、12周目には、7番手と8番手に落ちついた星野、影
山に続く9番手に浮上する。一方、黒澤は10番手にまで順位を落す。
中盤、ほぼ決まったと思われた上位形勢に思っても見なかった展開が訪れる。序盤
4秒近くあった、トップ独走状態のアピチェラとそれを追うギルバート-スコットと
の間隔が18周目辺りから飛躍的に詰まり始めたのだ。18周目に3秒7まで詰まっ
たそのタイム差は、19周目に2秒1に、20周目には1秒2に、21周目にはつい
に1秒を切るまで詰まる。その間、アピチェラは1分18秒台のタイムを記録してお
り、上位が1分17秒台のタイムを記録しているところを見ると、優位を一気に失っ
たのにも頷ける。
22周目には、アピチェラもようやく1分17秒台後半のタイムを記録したが、時
すでに遅く、17秒台前半のタイムで勢いにのるギルバート-スコットは、23周目
のストレートで、アピチェラのインに飛び込み、速度の違いを見せつけて難なく、
トップを奪い返した。
終盤を迎える時点での順位は、ポールポジションスタートのギルバート-スコット
がトップに返り咲いき、1秒後方にアピチェラ、その4秒後方にマルティニ、1秒後
にチーバー、6秒おいて鈴木、サロ、星野、金石、影山と続く。
この中でもっとも緊迫しているのは、鈴木、サロ、星野の5位争いだ。まず、28
周目辺りから鈴木の真後ろについて機会を伺っていたサロが、32周目に1コーナー
進入で鈴木をパスする。そして、鈴木の後ろで、トップのギルバート-スコットと同
じく1分17秒台を確実に記録していた星野と鈴木の一騎討ちが始まる。
36周目には、鈴木に追いついた星野は、機会を伺って、暫く周回を続ける。約4
周後の40周目に1コーナーで鈴木を星野がパスし、何とか6位入賞を手に入れた。
今、思えば序盤速いペースを維持してきた星野にもこの辺りで限界が来ていたのかも
知れない。この時、“抜かれた鈴木”は“抜いていった筈の星野”のこの状態をいち
早く察知したのかも知れない。間隔をほとんどあけず、鈴木は星野に再アタックをか
ける。そして、まさかの“逆転”を抜かれた3周後になし遂げてしまう。
一方、同じくギルバート-スコットに“逆転”されたアピチェラはそのペースを徐
々に落としていく。37周目にマルティニに2位を奪われ、チーバーに真後ろまで迫
られたのがなんと最終ラップだった。最後の1周に表彰台を掛けたチーバーと序盤の
ラップリーダーの意地を見せたいアピチェラの戦いは、笑顔の表彰台上のチーバー
と、車両保管に最も早く車を置くアピチェラに明暗を分けた。
レースが終わると、鈴鹿の屈辱を晴らすかのような、ポール・トゥ・ウインを決め
たギルバート-スコットが表彰台の中央に立つ。2度もポールポジションを獲得する
力が、一度は失ったトップの座を奪い返す力が、単なる運だとは考えにくい。今年、
ギルバート-スコットがシリーズを席巻する可能性は十分に感じられる戦いぶりだっ
た。
2位を得たマルティニは、安定した走りが目を引いた。もともと、派手な走りをす
るドライバーという印象は無いが、今回もポイントとなるところでは、確実にポジ
ションアップを果していたので、新型ローラの仕上がり如何では怖い存在になると改
めて思い知らされた。一方、3位に入ったチーバーには話題になっていた“レイナー
ドの富士への適合”という点についての回答が求められていた。今回のチーバーを見
ている限り、その答えは見えてこない様に思う。鈴鹿ほど相性がいいとは思えなかっ
たが、それにも増して、チーバーのドライビングの上手さが目についた。4位には、
一時はトップを走ったアピチェラがつけた。アピチェラの速さは誰もが認めるとこ
ろ、いま最も勝てる可能性を持つドライバーだと思う。そのうしろ5位には、前回に
続いて、安定した走りを披露したサロがつけ、5位までが全て外国人ドライバーが占
めるという状態になる。
日本人最上位は、6位の鈴木だった。7位の星野との終盤の激しいバトルは見応え
があった。レース終了後、星野が真先に鈴木のところに駆け寄り握手を求め、鈴木は
ペコリと頭をさげた。その2人の姿が印象に残った。ただこのバトルが6位争いだっ
たあたりに今年の厳しさがあるのかも知れない。8位には「追い上げるしかないん
で」という言葉通りのレースを行った金石が入った。今後、金石が予選上位に入った
時の活躍は見逃せない。今回は、黒澤、服部が下位に沈み、最後まで上位を狙ってい
た影山はリタイアに終わった。
シリーズを2戦を終了して、早くも2人目の勝者が誕生した。もちろんシリーズは
始まったばかりだ。チーバー、ギルバート-スコットやアピチェラ、マルティニ、サ
ロが一歩リードしているものの、これから性格の違うサーキットでの転戦が続く。例
えば、シリーズが再びここ富士に戻ってきた時に彼らがリーダーである保証は一切無
い。それがこのシリーズの厳しさの証なのかも知れない。
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☆ 文中に使用しました周回数やタイムには、計時モニターに表示されたものを目視
にて読み取りしたものが含まれておりますので、必ずしも公式の記録及び結果とは
一致しない旨ご承知置きください。
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《次戦の予定》
Rd.3 Mine [ F3000 MINE ALL STAR ] 1994.5.8
《次回レポートの予定》
Rd.4 Suzuka [ MILLION CARD CUP RACE Round2 SUZUKA ] 1994.5.22
次回は、第4戦の模様を鈴鹿サーキットからお送りする予定です。
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レポート/福田 陽一(NBG01300)
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