全日本F3000

F3000:レ-スレポ-ト Rd.9/スズカ

   ■F3000 Race Report
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   MILLION CARD CUP RACE
   Round3 SUZUKA
                                1993/9/26
   SUZUKA
                1993 ALL JAPAN F3000 CHAMPIONSHIP ROUND 9
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   □もうひとつの舞台へ
   Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
    「利男選手が後ろから、かなり厳しいプレッシャーをかけてきていたの
   で、ポジションを守りきったという感じです」
    決勝当日、朝。彼は、F1の今シーズンの残りの2戦、つまり鈴鹿とアデ
   レイドに、ジョーダン・グランプリから出場することを発表した。この発表
   会見の中で、彼は「しっかりとF3000を走ってから」と当初F1への出
   場要請を断っていた事を明らかにした。
    エディ・ジョーダンとの関係、セルモの佐藤氏との関係をあげながら自分
   の考えを語る彼のコメントは、自分が今どこにいて何をすべきなのかを、い
   かにも“彼らしい”姿勢を示しているように思えた。
    その彼が、同じくF1への出場を発表している鈴木との間の素晴らしい
   レースを振り返ってコメントしたのが冒頭の言葉だ。
    「エディーはスタートが良かったし、そのあと後ろを何回かプッシュした
   んですけど、シフトミス1回か2回ぐらいで、大きなミスは無かったんで、
   並ぶまでは行けたんですけど、前に出るまでは行けなかったですね」鈴木
   は、苦笑いしながら完全なドライビングを展開した彼とのバトルをこう表し
   た。
    鈴木の言葉が示す様に、先頭を行くチーバーと服部のレースも含めて、結
   果の多くはスタートの瞬間全てが決まった、と言ったら言い過ぎだろうか。
    彼がどれ程の気合をもってレースに出て行ったのか、コックピットでレー
   スを待つ彼の表情がどんなだったか、それを知りたくなるような、精神力を
   見せつけたスタートダッシュだった。
    彼が素晴らしかったのはスタートだけでなかった事は、鈴木の言葉から
   も、鈴木の疲れ切った表彰台の表情からもその一端が伺えよう。
    レース中盤、他車のタイヤが次々限界を迎えるなかで彼のタイヤだけが何
   事も無かったとは考えにくい。暴れるマシンをコントロールしながらのドラ
   イビングで鈴木をあれだけ抑えきったのだろうか。鈴木の苦笑いの意味も分
   かるような気がする。
    シリーズでポイントを争うドライバーとして、針の先ほどのバトルをして
   きた対決者として、同じ舞台を目指す同志として、讃え合うこのふたりの爽
   やかな表情を見ていると、F1という大舞台を目の前にしている、ふたりか
   ら「F1だけがレースじゃないぞ」と言われているような不思議な気分にな
   る。
    さあ、世界で最も激しいシリーズの本当の戦いはこれからだ。
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   ◇決勝レポート:「チーバー!得意の鈴鹿でポイントリーダーに」
    決勝の朝。空は、雲が僅かに浮かぶ快晴である。その雲すら青い空のアク
   セサリの様に美しく輝くばかりで、意地悪をしようという様子は、とても見
   えない。爽やかに晴れ渡った空は、再び鈴鹿に戻ってきたシリーズを歓迎す
   る様に絶好のレース日和を我々に与えてくれた。
    シリーズは、前回の富士でその混迷の度合いを再び深めてしまった。そし
   て、今日の予選順位を見てもその混乱が容易には収まりそうに無いという思
   いを一層深めさせる。
    ポールポジシヨンをとったのは、昨日の予選で、いち早くベストセッティ
   ングを見つけ出したチーバーだった。チーバーは予選1回目のセッション
   で、独り1分43秒台という驚異的なタイムを記録して、ポールを獲得、午
   後をセッティングに費やすといった余裕も見せた。
    その堂々のポールポジションのチーバーに続いたのは、前回の富士でも速
   さを見せつけていた服部だ。そして、服部の後ろ3番手を同じく前回の富士
   で速さを見せつけ、表彰台の中央に立った鈴木が占めた。鈴木は、シリーズ
   ポイントで、今回ポールポジシヨンのチーバーと同点の16ポイントで4位
   を分ける。
    4番手にはシリーズ後半になって速さが光る関谷がいる。続いて5番手に
   シリーズ3位のアピチェラ。シリーズトップの星野は、今回は予選6番手を
   得る。第2戦富士の優勝と2度の2位が効いているものの、前回の富士と
   前々回の菅生はノーポイントとシリーズ終盤に苦しい戦いを強いられてい
   る。今回のこのポジションはやはり苦しいか。シリーズで星野に続く、アー
   バインは、前回の鈴鹿、優勝が記憶に新しい。3ポイント差の星野をまさに
   後ろから追う形となる。
    シリーズ争いをそのまま表すような予選順位からレースはスタートする。
   スタート時点の気温は既に、27度に、路面温度は、34度に達している。
   強い日差しが路面を照りつけ、時折、強い追い風がホームストレートを駆け
   抜ける。この夏のような路面に対応する為に、チーバーと関谷がハードタイ
   ヤをチョイスした模様。
    シグナルグリーンと同時に、チーバーはまずまずのスタートを見せトップ
   をキープして1コーナーに飛び込もうとした。そのチーバーに素晴らしいス
   タートで迫ったのは、服部だった。イン側からアウトに車を振って、牽制す
   るチーバーに接近、あわやと思わせるシーンだった。ところが、鈴鹿のセッ
   ティングを手の内に完全に収めている感のあるチーバーはその服部を突き放
   し、1コーナーをクリアする。服部は、更にチャンスを狙い、ヘアピンの進
   入でもプッシュするが及ばなかった。
    この時、チーバーをかわしトップに踊りでるチャンスを持っていたのは明
   らかに服部だった。そして、そのチャンスの時はハードタイヤをチョイスし
   ていたチーバーに対し優位に立てたこのオープニングラップだった。
    このバトルを耐えたチーバーは、ある意味でこの時点で何かを得て、この
   バトルを攻めきれなかった服部は、ある意味で何かを失っていたのかも知れ
   ない。
    このスタートでもうひとり何かを得たドライバーがいたとしたら、それは
   紛れもなくアーバインだろう。アーバインはこのスタートで、素晴らしい集
   中力を発揮し、上位陣を一気に抜き去り3番手にジャンプアップする。とて
   も考えられない、7番手からの大躍進だった。
    オープニングラップを終えたオーダーは、チーバーを先頭に服部、アーバ
   イン、鈴木、関谷、アピチェラ、星野、ラッツェンバーガー、フィレンツェ
   ン、影山の順。
    スタートでアーバインに前を許した鈴木は、早くも2周目に反撃に出る。
   鈴木は、ホームストレートでアウトからアーバインに並びかけるが、アーバ
   インは巧みに抑え込む。鈴木は以後もアーバインの後ろで一つラインを外し
   バックミラーに自分の姿を映し出し、精神戦を展開する。
    後方の注目は、10位を走行している影山だ。この集団の中で最も速いタ
   イムを刻み、上位進出を狙っている。
    もうひとりの注目は、速さが結果に残らない苦しいシーズンを送っている
   12位の黒澤だ。残念ながら、今回も5周目にトラブルに襲われ苦しい事態
   を迎えてしまった。チームは、リアのカウルを開け配線を触ろうとしたが、
   原因を掴めなかったのか、カウルをすぐにつけ直し、マシンをコースに戻
   す。
    上位を狙う2人の若者が明暗をわける瞬間だった。
    その間にトップ集団のタイムは1分51秒台を記録し始める。小さなコー
   ナーが速い服部は、ストレートの手前でチーバーに接近はするが、チーバー
   にストレートで徐々に置いていかれる。6周目にはその差は0.8秒に開
   く。一方 アーバインの後ろで抜きあぐんでいた、鈴木はコーナーでアウト
   からインへとラインをかえてアーバインの隙を伺うが、いっこうに隙は見つ
   からない。アーバインは絶妙なライン取りで、鈴木を抑え込むが、その為か
   2番手との服部の差を益々開く。
    レースが8周目に差しかかるとチーバー、服部の先頭グループとアーバイ
   ンを先頭にした、鈴木、関谷、アピチェラ、星野、ラッツェンバーガー、
   フィレンツェン、影山、ダニエルソン、マルティニの12位までの一団との
   差は益々広がる。
    凍りついた様に変化しない順位と図ったような前後の間隔で、レースは膠
   着状態に入った様に見えた。こんな状態ではあったが、レースをリードして
   いるのは、先頭の2台であることに違いなかった。服部は、1分50秒台で
   チーバーを追う。チーバーも服部のタイムを十分監視し、同タイムを刻む。
   服部の必死の追い上げではあったが、チーバーはジリジリと服部を離してい
   く。
    レースが進むにつれ、路面状況が悪化していることは明らかだった。この
   ままレースが進行すれば、順位のアップは望めないと判断したのだろうか、
   11周目にバックストレッチから130R進入で星野の後ろにいたラッツェ
   ンバーガーが星野に急接近を仕掛けるが、これを星野はうまく抑え込む。そ
   して、その動きを待っていたように、フィレンツェンを7周目に抜いてラッ
   ツェンバーガーの後ろに迫っていた影山が、次の1コーナーでラッツェン
   バーガーにアタックをかけるが順位は変化しなかった。以後も、影山はラッ
   ツェンバーガーよりも明らかに速いペースで、再三アタックを繰り返す。
    その影山を“不運”が襲う。影山のマシンがシケインの立ち上がりで失速
   したように、力を無くしホームストレートをスロー走行で下ってきたのだ。
   14周目の出来事だった。マシンは既にレーシングスピードを忘れており、
   影山はピット出口にマシンを止めざるをえなかった。目立った動きの少ない
   レースで唯一動きを見せてくれていただけに、おしい結果だった。一方、5
   周目に既にトラブルを抱えて、好調の影山と明暗を分けていた黒澤が再び
   ピットに滑り込む。しばらく作業は続けられたが、レースから脱落したこと
   は、明らかだった。
    トップ争いは、益々チーバーが優勢に運んでいた。第2グループに埋もれ
   てしまったシリーズリーダーの星野はこのグループの中でも速いタイムを刻
   んではいるが、アピチェラを交わすまでには至っていない。
    チーバーのハイペースに何とか食らいついていた服部も16周目には力尽
   きたのか、チーバーとの間隔が10周目には0.8秒台を保っていたのが、
   ここにきて1秒を越える様になる。チーバーにとって当面、気をつけなけれ
   ばならないのは、服部ひとりだった。3位以下はアーバインが巧みに抑え込
   みチーバーを脅かすことは到底考えられない。
    レースも中程を過ぎて、ハードタイヤをチョイスしたチーバーの走りは益
   々シャープに見える。20周目を過ぎた頃、1秒以内の膠着戦を戦ってきた
   アーバイン以下が、少しずつ間隔を開き始める。チーバーと服部の差も2秒
   となってしまう。服部はもはやチーバーの速さについて行けないのだろう
   か。アーバインと服部の差は5秒と大きく開いてしまった。
    レースの終盤を目前にして、鈴木はチャレンジの機会を伺う様に静かに
   アーバインに近づき始める。そして、21周目、鈴木が1分49秒2という
   速いタイムを刻むと、アーバインもすかさず1分49秒7を叩きだして逃げ
   るが、鈴木の方が僅かに行動が速かった。鈴木はその周のバックストレッチ
   でアーバインの真後ろにつくことに成功する。
    130Rもその緊迫した状態のまま駆け抜け、シケインを迎える。ここで
   アーバインは鈴木を僅かに離す。そのままの状態で1コーナーを抜けた2台
   は、再びヘアピンで急接近するが、順位の変動は生まなかった。
    この2台はこの攻防でペースを更に落としていた。そこに18周目に関谷
   をパスして鈴木の後ろにいたアピチェラが接近してくる。アピチェラは鈴木
   の真後ろで、機会を伺う様に、2台のバトルを見守る。
    27周目、ついに鈴木が機会を見つける。鈴木はホームストレートでアー
   バインのアウトに抜け出すと1コーナーまでの間、並走。アーバインは鈴木
   を牽制しながらラインを確保して一瞬速く1コーナーへ。鈴木は1コーナー
   のコーナリング中にアーバインに追突しそうになるほど接近していた。
    後ろからの攻撃をかわすアーバインやトップのチーバーに全く不安が無い
   わけでは無いはずだ。特にこの路面温度の高さが生むタイヤトラブルがその
   第一候補ではないだろうか。事実、24周目にダニエルソンが、27周目に
   はフィレンツェンがタイヤ交換のためピットインしている。
    ところが、そんな心配をよそにチーバーの速さは服部を引き離し続ける。
   29周目には、チーバーと服部との間隔が4秒に開き、アーバインは鈴木の
   ラインを逐一チェックしてラインをふさぐ。鈴木は再び後ろでアーバインの
   ミスを待たなければならなくなった。
    この様な緊迫した状況では、一瞬のミスやトラブルが全てを奪ってしま
   う。その“一瞬”が33周目にこともあろうかトップを追っていた服部を襲
   う。服部はスプーンの出口でスピン、縁戚に乗り上げてしまった。直前の周
   回からペースが落ちていた様子から、タイヤがついに悲鳴を上げたのかも知
   れない。これで、彼の2位は夢と消えた。残り2周の信じられない不幸だっ
   た。
    信じられない不幸は5位を走行してた関谷も襲う。服部のコースアウトの
   直後の周にコースアウト。残り1周の不幸だった。
    限界を迎えていた、マシンは次々とコースから消える。関谷と同一周回に
   10位を走行していた和田久が、ファイナルラップにミカ・サロがコースか
   ら消た。レースは最後に多くの犠牲者を生み出して幕を閉じた。
    鈴鹿の場合その勝敗にスタートポジションが大きな意味を持つことは、い
   まさら言うまでも無い。ところが、今年のシリーズは力が均衡するがゆえ、
   予選の一瞬のトラブルがスタート位置を大きく左右してしまうことが多くな
   り、一層混乱を呼ぶ結果となっていた。
    今日のアーバインを見ていると、スタートポジションに加えてスタートの
   重要性を改めて思い知らされる。ドライバーに求められいるのは、データに
   基づいた、セッティング能力もさることながら、一瞬の判断力と与えられた
   僅かに時間に集中する強い精神力だと感じる。
    一方、鈴鹿を再び制したチーバーの強さも改めて思い知らされた。今日の
   レースで、チーバーはポイント・リーダーに踊り出る事になった。チーバー
   を追った服部もマシンの限界を感じつつ、全力の追い上げを見せたが、最後
   の最後でそのマシンとの戦いに破れた。
    この激しいシリーズの栄光はいったい誰の手元に落ちるのだろうか。我々
   は、残された2戦に全ての答えを求めることになるのだろうか。
    今日、表彰台の中央で、ポイント・リーダーの栄冠を得たチーバーは、コ
   メントを求められ「とにかく、チャンピォンシップを2位で終えたくない
   ね。ぜひ、チャンピオンを獲得したいね」と苦笑いしながら語った。その脇
   で、シリーズ2位のアーバインと4位の鈴木が彼を見上げて彼のコメントを
   聞く。3位の星野も彼のコメントを聞いていただろう。シリーズは、この男
   たちの熱い闘士を抱えたまま、富士に舞台を移す。
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   * 文中に使用しました周回数にはリーダー・ボードまたはシグナルタワ
    ーに表示されたものに1周回加算したもの、また、タイムには手元(ス
    トップウォッチ)計測または計時モニターに表示されたものを目視にて
    読み取り表記したものも含まれておりますので、必ずしも公式の記録及
    び結果とは一致しない旨ご承知置き下さい。
   * 取材場所/鈴鹿サーキット(三重)
   * 次回レポートは、第10戦(第8戦)富士スピードウエイ(10/17)を
    予定しています。
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        1993 - MILLION CARD CUP RACE Round3 SUZUKA - SUZUKA
            レポート/福田 陽一(NBG01300)


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