全日本F3000

F3000:レ-スレポ-ト Rd.8/フジ

   ■F3000 Race Report
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   FUJI INTER
   F3000
                                 1993/9/5
   FUJI
                1993 ALL JAPAN F3000 CHAMPIONSHIP ROUND 8
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   □もうひとつの勝利
   Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
    「チャンスがあるんで、行くしか無いね」と予選終了後のインタビューに
   彼は、力強く答える。マシンの空力的な不安定をあげながらも、「自分がの
   びるまで、走ってみたいよね」と気合を感じさせるコメントを残す。
    レースがスタート準備に入り、ダミーグリッド上に多くのマシンが整列す
   ると、彼も5番手という自分のグリッドにマシンを止める。彼は静かにヘル
   メットを脱ぎ、脇に置くと、目を閉じて、何事かをイメージするように少し
   上を向くような姿勢でコクッピットでコンセントレーションを高める。
    レースがスタートすると、多くの観客は今日のレースがだだごとで無い事
   に、トップが引っ張るパレードレースでは決して無いことに気づく。一周の
   間にポジションが1つや2つは簡単に変わる。後方から速い車がどんどん追
   い上げてくる。上位から遅い車がどんどん落ちていく。そこでは、まさに
   “戦い”という名のレースが行われていた。
    そんな中、彼はレース前に語った意気込みを実戦するように、果敢に攻め
   ていく。上位争いに加わることすら余り無かった昨シーズン、速さはあるも
   ののいま一つ安定性を欠いた今シーズン前半、そんな過去のレースを払拭す
   るように、攻めた。レース後半には、高速バトルに置いていかれないとする
   だけ出なく、何度となくポジションアップを狙った走りを見せた。
    今日のレースで、評価されなければならないドラバーは多い。予選8番手
   からファンの期待どおりの追い上げを見せ、優勝を飾った鈴木。予選16番
   手という後方からいつの間にか上位争いに加わり、目を見張るペースで追い
   上げ、素晴らしいパッシングを見せてくれた服部。予選の不調をものともせ
   ず22番手から上位に進出し、シリーズに対する執念と素晴らしいバトルを
   見せたアーバイン。
    そんな“世界で最も高次元の戦い”の中で、ラッツェンバーガーとの激し
   いバトルを展開して見せてくれた、彼のドライブにも称賛の拍手を送ろう。
    何故なら、彼は、混乱のレースの中で貴重な4位を自力でもぎ取ったのだ
   から。
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   ◇決勝レポート:「鈴木利男!大激戦の中、今季初優勝」
    思わぬ天候のいたずらで、中止を余儀なくされたシリーズ第7戦から3週
   間を経過した富士にそれぞれの思いを抱いて、再び集まった参加チームを迎
   えたのは、前回、彼らを翻弄し続けた“悪天候”であった。
    大型台風13号の余波を受けて、予選は午前中の1回目が風雨のためキャ
   ンセルとなっってしまった。午後の予選も降ったり止んだりと大混乱だっ
   た。そんな中、予選前に設けられたフリー走行で、チーバーがクラッシュ、
   マシンを大破させ、予選出場を断念した。また、アーバインも原因不明のミ
   スファイアに悩まされ満足な予選が出来なかった。
    決勝は、一転して素晴らしい天候に恵まれた。暦の上では、秋だという
   が、照りつける太陽をみる限り、遅れて来た真夏を思わせる。ただ、風だけ
   は、涼しく秋の訪れをかろうじて知らせていた。4万6千人の観客と好天に
   恵まれた富士であったが、シリーズを覆ってしまった“混乱”は簡単にはお
   さまらなかったようだ。
    午前中に行われたフリー走行で、ミカ・サロがヘアピン進入手前のコー
   ナーでアウト側に飛びたし、左セクションを大きくヒットしてしまう。ピッ
   トに引き戻されたマシンは左タイヤを支えるアームとリアのウイングを根元
   から失っている。チームは、修復を急いだが、結局、決勝出場を断念した。
   予選7番手を得て、フリー走行でもクラッシュする直前の周回にトップとほ
   ぼ同等のタイムを刻んでいただけに惜しい結果となった。
    決勝スタート直前、ポールのフィレンツェンの表情を見ると、特に気負う
   様子もなく、カメラマンの要望に答える等、余裕すら感じさせるが、その表
   情にはやはり緊張が見えた。予選後のインタビューでは、タイヤに関する不
   安をあげていたようだ。予選2番手のアピチェラは、フィレンツェンとは対
   象的に自信を感じさせる表情だった。このふたりのスタートが勝負の流れを
   左右するかも知れない。
    日本人最上位の予選5番手を得た関谷は、静かにスタートを待つ姿が印象
   的だ。
    前回のポールを“悪天候”に奪われてしまった、マルティニは6番手から
   追い上げを狙う。ところが、チームはグリッド上で慌ただしくエンジンの上
   部を調整している。オフィシャルが立ち会っているところを見ると、おそら
   くリミッターを交換しているのではないかと思われる。
    シリーズポイントリーダーの星野は、今回も予選のタイミングがうまく掴
   めず、11番手と低迷してしまった。
    また、22番手に予選で不運に見舞われたアーバイン、最後尾にマシンを
   修復したチーバーがいる。この位置からの彼らの追い上げがレースを変える
   かも知れない。
    スタートは、ポールのフィレンツェンがまずまずのスタートを見せ、トッ
   プを守りきって、1コーナーをクリアする。一方、後方スタートを切った星
   野は、回りを囲まれて身動きの取れない状態に陥ってしまう。
    そして、ここから“後方にいる速いドライバー”と“前方にいる遅いドラ
   イバー”が混乱を起こして「今日のレースは面白くなる」といったマルティ
   ニの言葉が徐々に現実のものとなっていく。
    その“予言者”マルティニが混乱の先頭を切ってしまう。オープニング
   ラップのBコーナーのラン・オフ・エリアにストップしてしまったのだ。原
   因は分からないが、余りにも早いリタイアに、彼の不運を感じる。前回、霧
   の彼方に失ったチャンスは彼の元には戻ってはこなかった。
    そして、混乱は止まず、チャンピオン争いにその手を伸ばす。後方で、も
   がいていた星野が前を行く中谷に追突するかたちで、1コーナーのグラベル
   ベッドに飛びだしてしまった。その際、スコット、クロスノフも同じくコー
   スアウトする。幸いクロスノフはコース復帰を果たすが、コースに大量の砂
   を出す。序盤で、ポイント争いを行っているはずの上位選手を含む4選手が
   姿を消す。
    大混乱のスタートが終了してみると、トップの順位に大きな変化が起こっ
   ていた。その中で、飛び抜けた速さで、順位をあげて来たのは、富士スペ
   シャリストの鈴木だ。この時点で既に4番手を確保している。
    フィレンツェンを追うアピチェラも素晴らしく速く、4周目にはフィレン
   ツェンをかわしトップに立つ。後方では、関谷もカーカッシをかわし、順位
   を上げる。
    この時点でのオーダーは、アピチェラを先頭に、フィレンツェン、ラッ
   ツェンバーガー、鈴木、関谷、カーカッシ、黒澤、高橋国光の順。そして、
   早くも9番手には予選22番手からスタートしていた、アーバインが来てい
   る。最後尾スタートのチーバーも14番手まで順位を上げている。
    この上位グループで、最も速いタイムを刻んでいるのは、4番手の鈴木で
   ある。4周目には、1分19秒998のファステストラップを記録してホジ
   ションアップを狙う。一方、フィレンツェンからトップを奪いとったアピ
   チェラも負けてはいない。5周目に1分19秒856を叩きだし応戦する。
    タイムだけで無く、順位も大きく動く。速いペースで上位進出を目指す黒
   澤が、6周目にカーカッシをパスして6番手に順位を上げると、同じく、後
   方から激しい追い上げを行ってきた、アーバインも7周目に高橋国光をがパ
   スして8番手まで順位を上げる。
    3周ほど前からラッツェンバーガーの背後について様子を伺っていた、鈴
   木がダンロップコーナーから態勢を整えていた9周目にホームストレートで
   インに並びかけ、オーバーテイクに成功する。
    そして今度は、レース序盤、速いタイムを刻んで、上位へのジャンプアッ
   プが確実視されていた黒澤を“混乱“が襲う。
    周目数が10周をこえた頃、黒澤がピットに近いイン側にラインをとっ
   て、ピット前で自分のマシンの後ろエンジンの辺りを指さして何やらアピー
   ルする。ピットは事態が掴めていないのか、大きな動きを起こしてはいな
   い。
    黒澤は、この後タイムがカグリと落ち込み、1分21秒台に近いタイムを
   刻みだす。明らかに何か異常を抱えているようだ。そして、14周目のホー
   ムストレートで7番手に上がっていた、アーバインにパスされ、順位を7位
   に落とす。
    トラブルを抱えた黒澤にかわり、上位を目指して上がってきたのは、服部
   である。14周目にトップと同程度のタイムを刻んで、高橋国光をパス。今
   度は、カーカッシを攻め、16周目にカーカッシをパスし、8番手にジャン
   プアップしてくる。
    一方、同じく追い上げが期待された、チーバーはペースが思うように上が
   らない様子で下位に低迷している。昨日のクラッシュのダメージが響いてい
   るのかも知れない。
    レースも17周を過ぎると飛び抜けて速いふたり、鈴木と服部が目立ち始
   める。明らかに速い鈴木は、優勝への突破口を開くべく、17周目に前を行
   くフィレンツェンにアタック、パスに成功し、2番手を得る。同じころ、服
   部もペースの落ちていた、黒澤をパスし、7番手に上がってくる。
    激しく動いた順位だったが、アピチェラの先頭はかわらず、続いて、鈴
   木、フィレンツェン、ラッツェンバーガー、関谷、アーバイン、服部の順。
   服部までは、等間隔で周回しており、全選手とも高い次元での戦いを繰り返
   している。目を見張る追い上げを見せて来た、鈴木、アーバイン、服部もこ
   こに来てやはり目ざましいジャンプアップは難しい様子である。そんな中で
   も、関谷が1分19秒156の自己最高タイムを記録してラッツェンバー
   ガーに迫るなど、一瞬の隙をも見せられない状態にはかわりは無い。
    一方、服部の後ろでトラブルに苦しんでいた黒澤は、カーカッシ、高橋国
   光にも抜かれ、21周目に力無くピットへ滑り込む。暫くコックピットで、
   諦め切れない様子の黒澤だったが、数分後コックピットを離れてしまう。
    予選の結果を「完敗です」と自分に言い聞かせる様に言い切った彼を、不
   運がまた襲った苦しい結果だった。
    激しい戦いもレース中盤を過ぎ、レースはこの膠着状態のまま終わるかに
   見えた。ところが、突然、あろうことかトップを快調に独走していた、アピ
   チェラのマシンをトラブルが襲う。
    25周目を快調に独走していた、アピチェラのマシンのリア・エンジン・
   カウルが破損してバタついて激しく揺れているのが確認された。外れかけた
   カウルはまるでアピチェラの優勝を拒む様に、空気抵抗を生み出してアピ
   チェラが前に進むのを阻止した。
    アピチェラはすぐさまピットへ滑り込むが、その間に、アピチェラの背後
   で彼を狙っていた鈴木がトップに立ち、高次元の戦いを展開している上位グ
   ループは、瞬く間にアピチェラを優勝はおろか、入賞圏からも追い出してし
   まう。
    チームは、すぐにバタついているカウルをガムテープで補強して、アピ
   チェラをコースに送りだすが、1周もしないうちに再び元の状態になってし
   まう。
    アピチェラは、再びピットに飛び込むと、カウルを換えようとするピット
   クルーに、「早く出たいんだ、カウルを外してくれ」と訴えてノーカウルの
   ままコースに飛びだして行く。残念ながら、空力が全く効かなくなったマシ
   ンは到底まともに走れる状態ではなかった。アピチェラは3度目のピットイ
   ンで、エンジンを切ってピットにマシンを止める。
    アピチェラの悔しさともどかしさが空回りした瞬間だった。ポイントは
   一瞬にして夢の様に吹き飛び、彼の富士は終わった。
    トップを独走していたアピチェラが消え、レースが残り15周を切ると、
   鈴木、服部は益々ペースを上げてくる。共に、1分18秒台に突入する勢い
   でレースをリードする。特に服部は、予選を思わせる気合の入った走りを見
   せた。32周目には、1分18秒795を記録、アーバインを追いかける。
    そして、ついに36周目に服部がアーバインを射程距離におさめる。そし
   て、次の周、服部がアーバインの真後ろにつくき、ホームストレートでアウ
   ト側に出て、並びかけるが、アーバインはうまく服部の行く手を塞ぐ。服部
   はなんとこの周回に1分18秒427を記録している。
    次の周に今度は、服部に攻められた、アーバインがタイムアップを果た
   し、服部の追撃を突き放そうとする。服部とアーバインの駆け引きがコース
   の各所で繰り広げられる。
    アーバインの出方を暫く伺っていた、服部は42周目のダンロップコー
   ナーの脱出でアーバインの真後ろにつき、富士の長いホームストレートの始
   まりで、アーバインのスリップに入り込むとストレート半ばで、すぱっとイ
   ンに飛びだす。アーバインもアウト側で服部を抑えようと懸命に牽制する
   が、服部の勢いは止められなかった。
    服部は落ちついてチャンスを待ち、確実に定石どおりのオーバーテイクを
   集まった観客の前で見せつけた。これで、服部は5番手にホジションアップ
   する。
    レースも残り僅かになっても、鈴木は非常に速いタイムを維持しているた
   め、フィレンツェンはタイムアップして鈴木を狙うが捕らえ切れない。その
   後方では、関谷が再三、ラッツェンバーガーを脅かすが、いま、一歩のとこ
   ろで、前に出ることが出来ない。服部は、アーバインをパスして関谷を追う
   が、レース終了が迫っている。
    レースが終わってみると、45周を短く感じる非常にテンションの高い
   レースだった。そのレースを十分な速さと確実な技術で、リードした鈴木は
   激戦のシリーズ6人目のチャンピオンに相応しいと言える。
    そして、その鈴木と同じかそれ以上の速さで、レース中盤以降を盛り上げ
   てくれた服部にも驚かされた。そして、同じく物凄い追い上げで6番手を獲
   得したアーバインにも驚かされた。そして、この高次元の激しいバトルを堂
   々と受けてたった、フィレンツェン、ラッツェンバーガー、関谷にも称賛の
   拍手が必要だろう。
    そして、惜しくも不運に泣いたアピチェラが富士で失ったものは余りにも
   大きいかも知れない。
    終盤に向けて、ひとつの方向性が見えるはずだった、レースは混乱と、ま
   だ、誰にでもチャンスがあることを強烈に示して、シリーズを再び“混乱”
   の中に引きずりこんでしまった。
    優勝者インタビューで、いつも落ちついた冷静なコメントをする鈴木が、
   初優勝の時の様に涙ぐみながら語る。そして最後に、「今度の鈴鹿が多分勝
   負だと思います」と言ったのが、心に残った。
    シリーズは、3戦を残すのみとなった。我々は、今日のレースでシリーズ
   チャンプを知ることは出来なかったが、この3戦を見逃す訳には決していか
   ない事だけは知ったのでは無いだろうか。
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   * 文中に使用しました周回数にはリーダー・ボードまたはシグナルタワ
    ーに表示されたものに1周回加算したもの、また、タイムには手元(ス
    トップウォッチ)計測または計時モニターに表示されたものを目視にて
    読み取り表記したものも含まれておりますので、必ずしも公式の記録及
    び結果とは一致しない旨ご承知置き下さい。
   * 取材場所/富士スピードウェイ(静岡) 取材協力/大西 良徳
   * 次回レポートは、第9戦(第7戦)鈴鹿サーキット(9/26)を予定
    しています。
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            1993 - FUJI INTER F3000 - FUJI
            レポート/福田 陽一(NBG01300)


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