全日本F3000

F3000:レ-スレポ-ト Rd.7/フジ

   ■F3000 Race Report
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   RRC
   FUJI CHAMPIONS
                                1993/8/15
   FUJI
                1993 ALL JAPAN F3000 CHAMPIONSHIP ROUND 7
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   □霧の中に消えたチャンス
   Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
    スタートが中断したことを示す「ディレイド」の文字がキャビン・タワー
   に表示されると、それぞれのマシンに乗り込み戦いの場に向かったドライ
   バー達は、一旦そのマシンを止めなくてはならない。
    今回、ポールポジションという好位置を獲得した彼にとってもそれは同じ
   だった。“カーナンバー1”をつけた彼のマシンは、静かに最も第1コー
   ナーに近い位置にマシンを止めた。
    シリーズ・チャンピオンを獲得した昨シーズンは、シリーズ全体を通して
   コンスタントにポイントを稼ぎはしたものの、優勝は1戦のみ。その優勝が
   この8月の富士だった。
    その彼が、“カーナンバー1”を引っ提げて臨んだ、今シーズンは思いも
   よらない苦戦を強いられていた。ニューマシンの不調も手伝って、昨年と同
   様に1勝はしているものの、その優勝を飾った美祢を除く残りの4戦はこと
   ごとく「ノーポイント」である。
    スタート前のインタビューでも、ポイントのことを気にしている様子だっ
   た。いつもどおり慎重なコメントをする彼の言葉に、今回の富士に対する意
   気込みを感じた。客観的に見ても、“カーナンバー1”を維持したいのな
   ら、今回のチャンスは、逃せないだろう。
    ポールポジションという結果は、荒れた予選が彼を助けたとも言えるが、
   彼の勝利への意気込みを後押しする要素もある。ホンダのF1の関係者が
   タッチしたと言われる無限の新エンジンがそれだ。スタート前、彼グリッド
   には、無限のスタッフシャツを来たエンジニアが、最後までエンジンカウル
   を外して調整に余念が無い。
    またとないチャンスを手にした彼を襲ったのは、予想もしなかった“霧”
   という敵だった。彼は、早々にコクッピットを離れ、車の脇に座り込む。一
   向に変化しない天候が相手ではどうしようもなかった。独りマシンの脇に座
   り込む彼を深い霧が取り囲んでいく。
    頭を抱える仕種で、いつまでも車の脇から離れようとしない、孤独な彼の
   姿がひどく心に残ってならない。
    次第に、彼のいるスタート位置からも、キャビンタワーの「ディレイド」
   の文字が、霧の彼方にかき消されるように、見えなくなっていく。
    このまま、シリーズの行方も霧の彼方に消える様に見えなくなるのだろう
   か。
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   ◇決勝レポート:「レース中止!濃霧が富士を襲う」
    真夏の富士。本来なら「暑く厳しい」レースとなる筈だった。ところが、
   はっきりしない天候は昨日の予選から一進一退を繰り返していた。例年な
   ら、じっとしていると汗が滲みでてくるのが常だったが、高原の爽やかさす
   ら感じられた。
    予想に反したという意味では、予選もそうだった。ウエットとドライが目
   ぐるましく変わるなか、2回の赤旗と大波乱だった。
    予選のオーダーは、無限のニューエンジンを得て、今季2勝目を狙うマル
   ティニのポールポジションを先頭に、前回の菅生で優勝を飾り波に乗るアピ
   チェラ、初戦の優勝以来コンスタントにポイントを重ねているチーバー、シ
   リーズポイントで星野に続くアーバイン、そしてスコットと上位5番手まで
   を有力外国人選手が占めてしまった。
    日本人勢では、6番手につけた和田久が最上位だった。今日のレースを彼
   は「今日みたいな(荒れるだろう)レースでは、走ってなきゃだめですね」
   と分析し、今日こそ完走したいとその意気込みを語る。
    シリーズポイントリーダーの星野は、なんと19番手と下位に位置してい
   る。星野は言葉すくなに、「あばれるしか無いね」と語る。
    「天候の事は分からないよ。タイヤはギャンブルだね」とチーバー。「速
   い人が後ろにいるから、今日は荒れるでしょうね」と日本人2番手の鈴木。
   彼らのこの言葉は上位に位置する多くのドライバーの考えと一致していたに
   違いない。
    午後1時20分。定刻どおり、その“荒れるレース”の序章、ウォーム
   アップの為のコースインが開始された。この頃になると早朝濡れていた路面
   も昼頃の天候の回復も手伝って、コース、イン側の一部を除いて、ほとんど
   乾いてきている。
    真先にピット出口に現れたのは黒澤。予選13番手と下位に沈んでしまっ
   た黒澤はオープンになったばかりのコースに爆音を轟かせて真先に飛び込ん
   でいった。続いて、ダニエルソン、ラッツェンバーガー、アーバインと一発
   の逆転にかけることが出来る位置にいるドライバー達がコースの乾き具合を
   確かめる様にコースインしていく。
    そんな中、関谷がコースインの為一旦停止したピット出口で、エンジンを
   ストール。立ち往生してしまう。関谷は、レーススタート前のフォーメー
   ションラップ開始時にもコース上で立ち往生、スタートに参加出来ず、ピッ
   トに押し戻されてしまう。昨日の予選で、マシンをクラッシュさせたらし
   く、その影響が出ていたのかも知れない。
    スタート時刻が刻々と近づいてくる。路面は乾いていて、雨は落ちていな
   いものの、空気はかなりの湿度を含んでいる様子で、時折、吹いてくる風に
   細かい水滴を感じる。
    フォーメーションスタート時刻がやって来てため、チームのスタッフがマ
   シンを離れる。ドライバーとマシンだけが取り残されたホームストレートに
   西から風がふく。その風が先程まで空でコースを眺めていた白い霧をコース
   上に呼び込んでしまう。
    ダミーグリッドをゆっくり離れたドライバー達はコーナーで、その突然の
   霧に襲われる。「最終コーナーからストレートのコントロールタワーが見え
   なかった」と服部が言う様に、とてもレースの出来る状態ではなかった。
    まるで、演出用スモークを焚いた様に、信じられない早さで視界がなく
   なっていく。スタート時刻を待っていたかの様なその霧は幻想的ですらあっ
   た。ポールポジション位置からも、1コーナーが全く見えなくなっていく。
    フォーメーションがコースを一周するのを待たずに、オフィシャルは即座
   に「スタート・ディレイド」を宣言した。時刻は午後1時52分のことだっ
   た。更に「スタートについては一旦中断したが、再スタートは霧の様子を見
   て決定する。マシンはスタート位置でそのまま待機するように」との指示も
   同時に出した。霧が足早にホームストレートを駆け抜けていたので、このま
   ま風が霧を押して行ってくれればとの期待もあったのだろう。
    ところが、その期待も虚しく、視界はますます無くなっていく、よく見え
   る所ですら70から80メートルという具合であった。午後2時には、ほと
   んどのドライバーがマシンから降りて、コース上でチームスタッフと霧が去
   るのを待つ。オフィシャルは、10分経過する度に更に10分間スタート進
   行の遅延を宣言するが、その姿をあざ笑う様に一向に霧は晴れようとはしな
   かった。
    スタートが中断されてから、約1時30分後の午後3時30分ころ、霧は
   若干晴れた様に感じられたが、それと引換えにに、ついに雨が落ち始める。
   そして、その10分後、一旦晴れかけた霧がまた濃くなったと同時に雨は本
   格的に降り始めてしまった。
    観客は観客席を離れ、チームはドライバーもスタッフもパドックへ引き上
   げてしまい。ホームストレートには、深い霧と雨の中、雨を避ける為のシー
   トを被せられたマンシだけが残り、10分間のスタート遅延のアナウンスだ
   けが、広いコースに響いていた。時刻は既に午後4時をまわっていた。
    ドライバーとチームの思惑は、天候という最大の敵に視界を奪われてし
   まった。5戦を終了して、5人の勝者を生むこの激戦のシリーズにとって、
   この「霧」のレースはどの様な意味を持つことになるのだろうか。
    現時点で、代替え開催の予定は発表されていないが、もし、このまま開催
   が見送られた場合、先のレーシング・パーク戦の中止に加え、更に1戦の重
   みが増し、ワン・チャンスで上位に躍り出る事が可能になる。一方、既にポ
   イントを落としてしまったドライバーにとっては、また一つチャンスを失っ
   たことになるのではないか。
    シリーズの行方は依然、深い「霧」のなかだ。
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   * 文中に使用しました周回数にはリーダー・ボードまたはシグナルタワ
    ーに表示されたものに1周回加算したもの、また、タイムには手元(ス
    トップウォッチ)計測または計時モニターに表示されたものを目視にて
    読み取り表記したものも含まれておりますので、必ずしも公式の記録及
    び結果とは一致しない旨ご承知置き下さい。
   * 取材場所/富士スピードウェイ(静岡)
   * 次回レポートは、第8戦(第6戦)富士スピードウエイ(9/5)を
    予定しています。
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            1993 - RRC FUJI CHAMPIONS - FUJI
            レポート/福田 陽一(NBG01300)


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