全日本F3000

F3000:レ-スレポ-ト Rd.1/スズカ

   ■F3000 Race Report
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   MILLION CARD CUP RACE
   Round1 SUZUKA
                                1993/3/21
   SUZUKA
                1993 ALL JAPAN F3000 CHAMPIONSHIP ROUND 1
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   □挑戦、再び・・・
   Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
    「ボクはシリーズを勝ちたいんだよ」予選終了後のインタビューで彼はそ
   う答え、今日のレースで無理をするつもりは無いと言った。
    そのコメントには何とも言えない彼の不安が感じられた。そして、その裏
   には逆に「今年こそ行ける」という自信が感じられた。それ故、このレース
   に失敗する事への一層の不安が現れていたのではないだろうか。
    彼の今年は全てが揃っていた。彼の言葉の多くは、自分に向けられたもの
   の様に思えた。
    最有力候補と言われながら、結局初戦しか優勝することの出来なかった昨
   年を含めた過去のレースや過去のシーズンは、彼にいったい何を語りかけて
   いるのだろうか。
    彼が、今年をどの様に戦うのか。慎重なコメントとは、裏腹に彼はある戦
   略をもって、このレースのグリッドに並んだ。
    そして、真先にチェッカーをくぐった時、やはり彼はある不安を抱いたの
   だろうか。
    群がる報道陣に嬉しそうにヘルメットを高々と掲げて応える。
    「日本でチャンピオンを取るまでは、日本を離れないよ。これでチャンピ
   オンシップに勝ったとは思っていないよ」そう言い残して彼は表彰台を降
   り、報道陣の海に消えて行った。
    今年の彼は明らかに違う。
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   ◇決勝レポート:「チーバー!昨年同様、開幕戦を勝利で飾る」
    風は冷たく、空は晴れ渡っていた。決勝出場予定の24台がグリッドに整
   列を済ませると、日差しは思ったよりもきついことに気づく。路面温度27
   度、気温14度とタイヤにとっては微妙な状態にある。
    午後1時30分。何時ものように、エンジン音が高鳴る。
    スタートと同時に飛びだしたのは、フロントロウ、イン側のチーバーだっ
   た。そのチーバーに続いたのは、アピチェラの動きをいち早く察知してイン
   側に進路を取った予選3番手の星野だった。続いて、昨年はスタートに苦し
   んだアーバインがつけ、結局ポールポジションで、期待の大きかったアピチ
   ェラは、鈴鹿では非常に大事なスタートに失敗し、5位とその順位を落とす
   結果となった。
    久々の上位スタートに成功した、星野は彼らしく先行するチーバーを早く
   も追い上げており、チーバーには苦しいオープニングラップとなった。
    星野は、その“何時でもいける状態”のまま2周目を迎えていたが、その
   周のシケインでも大きく縁石に乗り上げる程の気合の入った走りで、チーバ
   ーを攻め込む。ここで、チーバーもミスを犯したのか、立ち上がり加速が鈍
   く、星野は容易に急接近することに成功する。
    チーバーの真後ろを得た星野は、このまま最終コーナーを立ち上がり、ホ
   ームストレートで一気にインを取り、サイドバイサイドで1コーナーまでの
   ブレーキング争いに持ち込んだ。チーバーはインを平走する星野の鼻先を1
   コーナー進入で、辛うじて押さえ込み、なんとかトップの座は守りきった。
   2人のトップドライバーの素晴らしい腕の駆け引きだった。しかし、この時
   “ここを攻めきれなかった星野”と“ここを守りきったチーバー”この2人
   には何らかの決着がついたのではないだろうか。
    そして、この後この2人を含めたレース環境は、刻々と変化していたのだ
   った。スタート時には、冷たかった風もこの時点では徐々に和らぎ、太陽は
   悪戯に路面を照りつけ始めていた。
    チーバーの戦略とは、いったいどの様なものだったのだろうか。もし、レ
   ースが進行するに従って、天候を含めた環境が変化するに違いないと予想し
   ていたのなら、その予想がもしや、現在変化しつつある状況と同じ結末を指
   向していたのなら、彼の戦略は的中したと言わざるを得ないだろう。チーバ
   ーがある戦略をもってこのレースに望んでいたことは確かだった。なぜな
   ら、彼はブリヂストンユーザーの中でただ独り“ハード”タイヤをチョイス
   していたからだ。
    周回数が4周目を迎えるころ、星野を従えたチーバーはレースをリード
   し、3位以下をジリジリと離し始める。一方、3番手のアーバインに食らい
   ついていた黒澤は、アーバインを追い立てるが、彼の押さえ込みにあってし
   まい、どうすることも出来ないでいた。逆に5位以下が団子状態で接近して
   きて、予断を許さない状態となっていた。
    周回数が、6周目を過ぎて、順位もある程度安定してきた時、後方で、一
   気に順位をアップしてくるマンシがあった。予選9番手スタートの関谷だ。
   この時、彼はトップのチーバーとほぼ同じタイムか、時には若干速いタイム
   を記録して、7番手を走行していた。そして、前を行くアピチェラを攻めた
   てていた。
    同じころ、ラッツェンバーガーが逆バンクで、コースアウト。再スタート
   を何とか果たすが、コース上に多量の砂を出す。
    上位は、大きな変化を起こさず淡々とレースを進行させていたが、周回数
   が10周目に差しかかったころ4位以下を苦しそうに抑えこんでいたアーバ
   インがここに来て一気にペースアップ。明らかに星野に接近したのが分か
   る。一方、その星野は先行するチーバーより遅いラップタイムを刻んでお
   り、追撃の様子は見られない。
    元気のいい関谷は、12周目、先程から狙っていた、アピチェラをようや
   くパス。6位にその順位を上げてくる。ここまで来ても関谷の勢いは止まら
   ず、前を行くスコットを目指していることは明らかだった。そして、そのス
   コットを15周目にパスし、5位に順位を上げた関谷は、上位陣の一角アー
   バインに押さえ込まれている、黒澤に襲いかかろうと急激にその差を詰めて
   くる。
    上位陣は誰もが決定打を欠き誰かがペースアップすると、置いて行かれま
   いとしてペースを上げると言う状態が続く。
    その間、期待の新人、檜井が15周目にピットへ滑り込んで行く。何とか
   コースに復帰を果たすが、7周後に再びピットへ。惜しくもリタイアとな
   り、トップフォーミュラの厳しい洗礼を受ける結果となった。
    そして、“もう新人でも無いですよ”と本人は言う影山が不運にも、16
   周目カーカッシに接触され、ヘアピンでスピン。すぐに復帰するが、その順
   位を落とす。
    17周目、ついに全開で追い上げて来た関谷が黒澤に追いつき、黒澤を揺
   さぶると黒沢もペースアップを図りアーバインに接近戦を挑む形となった。
    黒澤は、前にアーバイン、後ろに関谷と苦しい戦いを強いられていた。関
   谷は低速セクションが速いのか、ヘアピンでアタックをかけている。19周
   目もイン側にノーズを突っ込んでねじ込もうとするが、黒澤は見事に、勢い
   に乗った関谷を封じ込める。しかし、その隙にアーバインは黒澤を少し置い
   て行く。
    このチェックアンドブロック合戦も20周目に、黒澤が2コーナー辺り
   で、テールスライドをさせたのを見過ごさなかった関谷に軍配が上がった。
   これで4位にポジションアップを果たした、関谷は更にアーバインを狙う。
    タイヤが明らかに辛そうな黒澤は、後ろからスコットにも攻めたてられる
   結果となる。チームは、タイヤウォーマを着けたままのタイヤをピットレー
   ンに出して、緊急事態に備える。
    周回数も23周目を迎えると、上位陣は、チーバーを先頭に星野、アーバ
   イン、関谷、黒澤、スコット、アピチェラ、利男、服部の順で1分49秒台
   に突入し容易にはそのフォーメーションを崩しそうにはなかった。冷たかっ
   た風は止み、日差しは更にきつくなる。タイヤが持たなくなった者から脱落
   する、それを静かに待っているという様相だった。
    そして、その最初の犠牲者になったのは、アピチェラだった。28周目、
   利男がアピチェラをパス、その順位を上げる。そのアピチェラに服部も接
   近、ポールスタートのアピチェラには苦しい8位争いとなった。
    一方、チーバー、星野、アーバインは残り周回数が少なくなり、相手を待
   っている訳にはいかなくなったのか、それぞれ勝負にでる。ある時は、星野
   が一気にタイムアップしてくる、そしてあるときは、アーバインが星野に急
   激に接近する。しかし、それも長くは続かず順位は変わらなかった。
    攻防戦はその後ろでも行われていた。タイヤが苦しいのか、スコットに攻
   めたてられていた黒澤が、30周目の1コーナーでそのスコットに並びかけ
   られた。ここは上手く交わしたもののS字で、先に行かれてしまう。これ
   で、順位を下げたと思われた黒澤だったが、130Rで再び抜き返し、その
   順位を死守した。
    そして、このレース最後の誤算が起こる。4位のポジションからアーバイ
   ンを狙っていた関谷がバックストレッチで、明らかに何かが壊れたという様
   に、スルスルと力を無くしてスローダウンしてしまう。予選9番手から素晴
   らしい追い上げを見せていただけに、この結果は余りにもおしい。
    結局、レースは、絶妙なスタートを決め、星野の序盤の追撃に耐え、後半
   はタイヤに助けられたチーバーがトータルパッケージの優位性を見せつけ
   て、最も早くチェッカーを受けた。
    続いて、日本一速い男の復活をかけた星野がつけ、3番手にはレース中の
   ファステストラップを記録したアーバインがつけた。
    後半、劇的な追い上げを果たした、関谷は結局皮肉にも、スタート時点の
   順位の10位を得てこのレースを終えた。土曜日初めて見たマシンを駆って
   のレースとは思えない素晴らしい走りだった。
    1992シーズンを激戦のまま終了したこのシリーズは、また動きだし
   た。
    チーバーは勝った。この時、昨年チャンピオンのマルティニは24周目の
   スプーンカーブでこのレースを終えている。
    今年もシリーズは激しく動くのか。
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   * 文中に使用しました周回数にはリーダー・ボードまたはシグナルタワ
    ーに表示されたものに1周回加算したもの、また、タイムには手元(ス
    トップウォッチ)計測または計時モニターに表示されたものを目視にて
    読み取り表記したものも含まれておりますので、必ずしも公式の記録及
    び結果とは一致しない旨ご承知置き下さい。
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        1993 - MILLION CARD CUP RACE Round1 SUZUKA - SUZUKA
            レポート/福田 陽一(NBG01300)


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