全日本F3000

F3000:■Race Report R.4/Round2 SUZUKA

              ■F3000  Race Report■
             □赤旗中断! 最悪の結末□
 最悪の結末は、午後2時24分、周回数27ラップに起こった。
 既にレースは完全に膠着状態になっていた。レースを戦う上位の全てのマシンが
1位争いを行っているかのように、ピッタリつながって周回を繰り返す。しかし、
誰も「前」に出ることは出来ない。まるで、日曜日の行楽地の駐車場待ちの様に整
列しているだけだった。コーナーで微妙に動きはするが、それぞれのマシンのセッ
ティングの差が出ているだけで、ポジションアップするほどではない。開幕戦のV
TRでも見ているのかと勘違いさせるほど、その状態は酷似していた。
 彼は、しぶといレースをするこで、非常に定評のあるドライバーだ。日本のトッ
プフォーミュラを知り尽くしているドライバーの一人でもあろう。
 彼は一体何と戦っていたのだろうか。何をあの1コーナーに見たのだろうか。こ
の「抜けないレース」をどうしようとしたのだろうか。
 余りにも実力の均衡した、シビアな日本のトップフォーミュラは、予選順位のオー
ダーでレースを行うことをドライバーに強いる。それでも、どうしても勝ちたいド
ライバーは、スタートで前に出るために精神を集中する。もし、予選でも、スター
トでも、うまく前に出れなかったら、相手のミスを待ってこの整列に参加し、レー
スを終えるしか無いのか。
 それでも、ドライバーの本能として、「前に出たい」という、思いに取りつかれ
たら、どうすればいいのか。
 レーシングドライバーとは一体何を求めて、この時間を切り裂く世界に身を置く
のか。
 もし、「午後2時24分、周回数27ラップ」がその答えだと、いうのなら、そ
れは余りにも悲しすぎやしないか・・・・
 今は、ただ、素晴らしいレース、素晴らしいファイト、そして、素晴らしい笑顔
をありがとう・・・・とだけ言いたい。
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1992 ALL JAPAN F3000 CHAMPIONSHIP
ROUND 4
MILLION CARD CUP RACE
Round2 SUZUKA
SUZUKA CIRCUIT
23-24 MAY 1992
ミリオンカードカップレースRound2鈴鹿
全日本F3000選手権シリーズ第4戦
Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
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 5月の天候は不安定な事が多い。日差しは強く天候が良かったかと思うと、突然、
雲が天上を覆い、雨を降らせる。時には、雷を伴うこともある。
 金曜、土曜と続いた不安定極まりない天候状態は、日曜日に不安を抱かせ、レー
スに参加する各チームを大いに悩ませたことだろう。
 そんな悩みを知ってか知らずか、各マシンがグリッド上に整列を完了するころに
は、日差しは益々強く路面を照らし、路面温度を36度までに押し上げていた。し
かし、強い風が最終コーナーから1コーナーに向けて吹き抜けているので、それほ
ど暑いという感じを受ける天候ではない。逆に、雲が降り注ぐ太陽光線を遮った瞬
間に気温はグンと下がる感じさえする。
 5月の天気はこの後、どの様な試練を我々に与えようとしているのか、今は知る
こともできない。
 午後1時29分。各マシンに一斉に火が入り、フォーメーションラップのスター
トを合図されると、まるで本番スタートの様に、アーバインが真先に飛び出して行
く。フォーメーションはその「気合の入ったアーバイン」とは対象的に「余裕のチー
バー」がゆっくりと先導して、帰ってくる。
 そして、最後尾の中谷がグリッドにつくと、オールクリアのサインがオフィシャ
ルによって出される。各車は当然のように、エンジン音を高鳴らせるが、なかなか
シグナルが点灯しない。スタートライン付近は少し下り坂になっているためアーバ
インとヴァイドラーのマシンがたまらず、すこし前に転がり始める。おそらく「こ
れ以上転がるとまずい」と思った2人は、ブレーキの上に足をのせたのだろう。そ
のときシグナルが点灯する。
 結局、アーバインはエンジンをストールさせて仕舞い、スタートに失敗。その位
置からピクリとも動けなくなった。勿論シグナルにはグリーンが出ているのだから、
各車は一斉にダッシュしていく。アーバインはコース上の障害物になるしかなかっ
た。グリッド上位の後続各車はうまくこの障害物をかわしていったが、後方のマシ
ンには何が起こったのかすら、分からなかったに違いない。アーバインはこれといっ
て、大きなアピールを後続に行わなかったように思われる。
 まず、黒沢が避けきれず、左フロントをアーバインの右リアにヒット。次に、ダ
ニエルソンがコース中央でスピン、そのまま和田久を巻き込んで、止まっているアー
バインを直撃。そして、アーバインの右をすり抜けようとしていた、松本を巻き込
んで激しくクラッシュ。これで、予選2番手で活躍の期待されたアーバインを含め
た合計5台が戦列から去ることとなった。
 一方、この修羅場を無事くぐり抜けた、ヴァイドラーは早くもポールでダッシュ
したチーバーを捕らえる。S字でチーバーの横に並びかけたヴァイドラーは、まさ
かの逆バンクで一気に前に出る。チーバーも抜かれた直後食い下がったが、S字、
逆バンクで速いヴァイドラーの敵にはならなかった。それほどヴァイドラーは速かっ
た。
 また、最後尾からスタートの中谷が早くも、3周目でピットイン。残念ながらマ
シンを降りてしまう。
 4周目の順位は、ヴァイドラーを先頭にチーバー、服部、スコット、ミカ・サロ、
星野の順。上位4台は等間隔で周回をしているが、何としても先に出たい星野は、
ミカ・サロの真後ろで右に左に車を振ってプレッシャーを掛けている。
 その星野、6周目、130R進入でミカ・サロに急接近。7周目、スプーンの進
入では真横に並んで、また、裏のストレートから130R進入でも、インを取るよ
うに横に並ぶがコーナーには、ミカ・サロが一歩早く進入。あと一歩でのところで、
先に行かせて貰えない。8周目、今度は裏のストレートで先程とは逆のアウト側に
一気に出る。そして、130R進入でアウトからかわす。正にプロのテクニックと
いう技に、観客席からは拍手がおこる。この後ミカ・サロはシケイン進入で小河に
もかわされその順位をズルズルと落とし、21周目にタイヤトラブルでリタイアす
る。
 一方、先頭、ヴァイドラーとチーバーの差は9周目には、2秒6。11周目には、
3秒2にまで開いて、ヴァイドラーの単独走行、チーバー以下5台の2位争いの様
相を呈してきた。その5台は低速のコーナーでは、全くのテール・トゥ・ノーズで
誰かがミスすれば、一気に4台に抜かれる程の混戦状態が続く。
 この混戦も、14周目には、チーバーが2位以下を抑えている為か、マルティー
ニが鈴木利男の真後ろにまでに接近。2位争いは、チーバー、服部、スコット、星
野、小河、鈴木利男、マルティーニの7台に膨れ上がる。そして、今度はそのマル
ティーニの後ろにラッツェンバーガーが来る。がしかし、この8台の誰も
が決定的アドバンテージを持つことが出来ず苦しんでいる。
 そして、16周目には、チーバーがペースアップ、ヴァイドラーとの差を一気に
詰めてくる。チーバーが詰めると同じく服部も詰めてくる。団子状態のままレース
は9台によるトップ争いかと思わせる展開で膠着状態が続く。
 ところが、19周目、星野がヘアピンの立ち上がり辺りからスロー走行。すぐに
ピットインするが、どうやら電気系のトラブルらしく、ピットに釘付けになってし
まう。これで星野は実質的に戦列を離れることを余儀無くされる。
 レースはこの後、タイヤ不調の様子だった高橋国光、一度はピットアウトした星
野、2コーナー辺りでスピンしたクロスノフ、そして、ラッツェンバーガーと次々
とマシンがピットに入ってくる中、26周目を迎える。
 26周目、ヴァイドラー、チーバー、服部の3台がほぼ等間隔で、ホームストレー
トを通過すると、今度はスコットを先頭に小河、マルティーニが完全なテール・トゥ
・ノーズでやってくる。小河とマルティーニは完全にスコットのスリップに入って
いたのか、小河は右、イン側に、マルティーニは左、アウト側にそれぞれコーナー
進入直前に抜け出す。
 しかし、今までと同じく、決定的なアドバンテージを持つには至っていなかった
のか、小河はイン側からは、スコットを捕らえることは出来なかった。そして、小
河は、今度は、スコットの真後ろを通過してアウトに出ようとした。
 「アウトからアタックするつもりだった」のか、それとも「諦めて1コーナーの
進入体制に入る為だった」のか、それは、今となっては知るよしもないが、アウト
に出ようと激しく動いたことは確かだ。
 その直後、スコットは減速体制に入ってしまった。小河の前には、急激に接近す
るスコットのマシン。まるで吸い込まれるように、タイヤに乗り上げてしまう。ス
コットはそのまま、バウンドしながら、タイヤバリアに。小河は、コントロールを
失い、縁石をジュンプ台にしたようにして舞い上がってしまい、タイヤバリアをか
すって、金網の鉄の支柱に激突、メチャメチャにマシンを壊した。
 スコットはすぐに無事だと確認されたが、小河は意識が無い様子で、そのまま救
急車にかつぎ込まれた。
 クラッシュ直後、レースは赤旗、中断。サーキット全体に言いようのない雰囲気
が漂った。
 結局レースは、コントロールライン前に止められた競技車両をペースカーが先導
して、コントロールラインを跨がせることで、競技成立周回数を確保して、成立と
なった。
 そのとき、最も恐れた5月の気まぐれな天気は、スタートの時と何ら変わりは無
かった。ただ、風が少し強く、そして冷たく頬にあたるだけだった。
   * 文中に使用しました周回数はリーダー・ボードまたはシグナルタワー
    に表示されたものに1周回加算したもの、また、タイムは手元(ストッ
    プウォッチ)計測または計時モニターに表示されたものを目視にて読み
    取り表記しておりますので、必ずしも公式の記録及び結果とは一致しな
    い旨ご承知置き下さい。
     また、出来る限り正確を期しておりますが、時間の関係でやむをえず
    データや情報の事実確認を行えないまま記載しているものもありますの
    で、正確な情報をお持ちの方は訂正を入れていただきますようお願いい
    たします。
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        1992 - MILLION CARD CUP RACE Round2 SUZUKA - SUZUKA
                  ROUND 4
            レポート/福田 陽一(NBG01300)


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