全日本F3000

F3000:■Race Report R.1/2&4 SUZUKA

              ■F3000  Race Report■
            □独走チーバー!凍り付いた時□
 凍り付いた時が過ぎていった・・・。何も動かない、何も変わらないそんな時が
過ぎていった。レース終了後ピットに戻ってきたトステムのグリーンのマシンのメ
チャメチャに壊れた破片が、その事故の凄まじさを物語っていた。
 トップで飛び出したレイナード以外の上位のマシンは、一体何と戦ったのだろう
か。見えない金縛りにあったかのように、その順位を変えることが出来ないでいた。
まるで、順位を上げることも、下げることも許されないかのように・・・。
 その中でひとり追い上げてくるマシンがあった。トステムカラーに彩られたその
マシンは、まるで何かに取り付かれたかのように、先を急いだ。金縛りにあったマ
シンの間を縫う様に、先を急いだ。
 彼が一体何に取り付かれるいたのかは分からない。彼が後輩より後方のグリッド
で何を思ったのかも勿論分からない。彼がほんの数カ月前、世界の舞台で何を思っ
たのかも勿論分かろう筈もない。それでも、彼は先を急いでいた。まるで、自分の
居場所を捜し求めるように・・
 そして、彼が凍り付いた時の壁を超えようとしたとき、マシンは宙に舞い、コン
クリートの壁に激突することとなった。
 そして、彼と違う道ではあるが、同じく先を急いでいる男が表彰台の中央に立つ。
この2人が再び別の舞台の同じ道を走る日が、きっと来るだろう。
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1992 ALL JAPAN F3000 CHAMPIONSHIP
ROUND 1
MILLION CARD CUP RACE
2&4 SUZUKA
SUZUKA CIRCUIT
7-8 MARCH 1992
ミリオンカードカップレース2&4鈴鹿
全日本F3000選手権シリーズ第1戦
Report/福田 陽一(Yoichi Fukuda)
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 開幕戦の鈴鹿サーキットは晴天に恵まれたが、風が少しあり、そして、その風は
冷たかった。レーススケジュールをから遅れること10分、今年のチャンピオン志
願者達のマシンがコース上に現れた。
 新車のレイナードを早くからテストしていたチーバーは昨日の予選で独り1分4
2秒台を出して、ポールと幸先のよいスタートとなった。
 朝のウォームアップのトップのタイムを叩き出した黒沢は同じキャビンカラーの
星野の右前の4番グリッドにマシンを止める。
 服部は5番手の同チームの中谷を上回る2番にその位置を占めた。中谷が昨年使っ
ていたマシンを今回使うことになった服部。レース前のインタビューにも気負いな
どは微塵も感じさせない。
 鈴木利男も今回は予選上位に食い込み健闘している。
 各車がグリッド上で最終確認を行っているにも係わらず、アド・レーシング期待
のミカ・サロのマシンがピットにストップ。どうやら、ミッション系もしくはクラッ
チに何らかの障害が発生している模様で、先程からリアのカウルと右サイドのカウ
ルを開けて、チェックを行っている。同じくその前方のピットには、真っ白なカウ
ルのマシンに乗り込む関谷がいる。こちらも何らかのトラブルの模様。作業を行っ
ている。この2台はピットスタートとなる。
 チーバーが他のマシンを大きく引き離して、フォーメーションラップを終えてグ
リッドにつく。まるで、「俺が一番速いんだぞ!」と走りで主張するように見える。
ここから、激しいこのレースの序曲が静かに始まる。各車がフォーメーションを終
了して、それぞれのグリッドにマシンを止める。
 各車のエンジン音が高まったところで、9番グリッドのカーカッシが両手を大き
く挙げて、アピール。エンジンストールした模様。ここで一旦スタートディレイ。
レースは、34周に短縮され、各車再スタートを待つこととなる。
 数分後、鈴鹿サーキットに再びエンジンスターターの甲高い音がこだまする。オ
フィシャルが黄旗でカーカッシを制止し、再びフォーメーションが開始された。こ
れで、カーカッシは最後尾スタートとなる。ところが、不運にも黄旗制止中にまた
もやエンジンがストールしてしまった模様。ピットに引き込まれるが、トラブルは
解消されずドライバーは降りて仕舞う。
 まるで、レースのような速さで、チーバーがフォーメーションを周回してくる。
まるで、自分に言い聞かせるように、速さを誇示してグランドスタンドに帰ってく
る。
 再スタートに大きな問題は無かった。スタートに成功したのは、やはりチーバー
だった。他を寄せつけない加速でロケットスタートをして見せた。2番手には、ヴァ
イドラーが付けた。そして、その後ろには、スタートの上手くいった、5番手スター
トの星野がつけている。そのあとに服部、鈴木利男、黒沢と続く。
 チーバーの速さは、飛び抜けている。早くも2周目にして、後ろを行く、ヴァイ
ドラー、との差を1秒24に広げ、3周目には、3秒19。更に、4周目には、5
秒台に、5周目7秒72に、とその速さを見せつけた。後方では、3周目のヘアピ
ンで高橋国光がミカ・サロと絡んでスピン。しかし、無事コースには復帰出来た模
様。
 3周目辺りから、逆にチーバーを追う立場のはずの、ヴァイドラーに星野が接近。
星野はヴァイドラーのテールにマシンを寄せる。また、5周目辺りより、その星野
に、今度は服部をかわした鈴木利男が接近。団子状態となる。
 6周目、ピットスタートしていたミカ・サロがピットロードを下って来た。リタ
イアを余儀無くされる。そして、6周目、団子の最後尾の服部に黒沢が接近。息も
つかせぬ状態が続く。また、後方で中谷がスコットをパス順位を上げている。
 星野は、ヴァイドラーの真後ろについて、様子を伺っているという走りだ。アタッ
クするというより、相手の走りを観察しているという感じさえする走りで、時には
その差を詰めて、また、離れるを繰り返す。そのヴァイドラーは前を行くチーバー
にはグングン離されてはいるものの、その巧みな走りで、自らの走行ラインをキー
プしている。
 7周目、金石が最終コーナーでコースアウト、リタイアした模様。そのころ、チー
バーとヴァイドラーの差は、12秒台に、その差は歴然としてきた。ヴァイドラー
の後ろで星野がもがく。
 10周目、和田久がピットへ帰ってきたが、トラブルの原因不明のまま、すぐに
コースに復帰した。どうも、クラッチ回りのトラブルの模様。
 11周目になると、先程リタイアしたミカ・サロと同じくピットスタートした関
谷が、後方で激しく攻めている模様。
 ヴァイドラーをずっと観察していた、星野はポイントをヘアピンに定めたようだ。
12周目ヘアピンの進入ヴァイドラーのインが「少し」空く、そう、ほんの「少し」
空く。そのほんの少しの正に隙間と呼ぶべき空間に天才は可能性を見出した。ブレー
キングを遅らせインにノーズを突っ込むそしてこじ開けるようにインのラインを奪
い取った。そして星野は前に出た。壁の無い前に・・。しかし、そこには、本来追
うべき敵の姿も彼方に消えて無かった。
 それでも、星野はその後、グングンとヴァイドラーを引き離し、先を急いだ。15
周目のチーバーと星野との差は17秒99。その星野とヴァイドラーの差3秒47。
以下、鈴木利男、服部、黒沢の順で空間をこじ開けた星野以外には、依然大きな変
化は無かった。
 同じ頃、後方は激しいバトルを行っている。16周目頃から10番手のアーバイ
ンをアピチェラが、ストレートに差しかかるとアウトにインにラインを外してプレッ
シャーをかけ激しくプッシュしているが順位に変化は無い。もしや鈴鹿には「抜き
所」が無くなったのかと思わせる光景が続く。
 しかし、この人は元気だった。17周目、中谷がマルティーニをパス7位に浮上。
なおも先を追う。そして20周目には、黒沢の後ろにまで急接近。ヘアピンでは、
先程の星野と同じ様にラインを外し、黒沢にプレッシャーを掛ける。もうすこし後
方では、高橋国光が序盤のスピンのロスを挽回すべく檄走している。
 22周目、舘がピットロードを下ってくる。マシンをピット前に止めるとすぐに
シートを離れた。残念ながらリタイアの模様。後方では、関谷が元気がいい。22
周目には、15番手まで、浮上。27周目には、ダニエルソンをホームストレート
でパス、14位にその順位を上げる。
 24周目、チーバーは1分47秒台で快調に逃げている。追う星野とは、逆に毎
周その差がジリジリと開いていく。そして、25周目には、その差25秒にまで開
く。
 27周目、チーバー、星野、ヴァイドラーに変化は無いが、鈴木利男以下に動き
が出る。先ず、シケインで、中谷が黒沢をパス、鈴木利男、服部、中谷、黒沢の順
になる。そして、今度は、この集団にあって独りその速さを見せつけている、中谷
が服部に急接近。30周目に、シケインで真後ろにつき1コーナーで一気に抜き去
る。こうなると、前を追うしか無い中谷、今度は鈴木利男に迫るが、31周目、シ
ケインの突っ込みで鈴木利男のマシンの後輪に中谷の前輪が乗り上げる形で接触。
マシンが宙を舞う大クラッシュとなり、サーキットを震撼させた。
 最終周、ヘアピンで古谷ストップ。火災の模様。どうやらドライバーは自力では
車から降りられない様子で、オフィシャルが駆け寄る。
 そして、チェッカー直後、1コーナーにクロスノフが突っ込んで、クラッシュ。
黒煙をもうもうとあげている。こちらはすぐに脱出できた模様。
 後半に大きな事故が多発したものの、その勝者には、なんの変化も無かった。彼
の独走は、「チーバーのドラマは今始まったばかりだ。」と思い知らされるのには
充分すぎるものだった。
   * 文中に使用しました周回数はリーダー・ボードまたはシグナルタワー
    に表示されたものに1周回加算したもの、また、タイムは手元(ストッ
    プウォッチ)計測または計時モニターに表示されたものを目視にて読み
    取り表記しておりますので、必ずしも公式の記録及び結果とは一致しな
    い旨ご承知置き下さい。
     また、出来る限り正確を期しておりますが、時間の関係でやむをえず
    データや情報の事実確認を行えないまま記載しているものもありますの
    で、正確な情報をお持ちの方は訂正を入れていただきますようお願いい
    たします。
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        1992 - MILLION CARD CUP RACE 2&4 SUZUKA - SUZUKA
                  ROUND 1
            レポート/福田 陽一(NBG01300)


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